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廃鉱山の中は、アンデッドだらけ?

はち。『ラジエさんが見つけた大昔のランプは、火をつけても燃えているのに灯りとしては使えなかった』──灰色と闇の世界で私の持つ花だけが月のよう

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     🏃

 ラジエさんが見つけた、大昔の古びたランプは、生活魔法が使えるとの事で火をつけてみたけれど、燃えている様子なのに、灯りとしては使えなかった。
 相変わらずの、私の握る『生命を宿した大輪の花』の発する光のみ有効で、花の、月のような白に近い淡く黄色い光以外は灰色の世界だった。

 助走もなしに大跳躍を見せたラジエさん。
 でも、ギレウォッタさんがこちらへ来るには、その二倍以上の距離がある。助走をつけての走り幅跳びでも無理であろう距離。

 届かないことを前提で跳んでもらい、一度落ちてもらって、フィルタさんの支えるロープで宙吊り状態で壁伝いに登ってきてもらう事になる。

 底が見えない、まるで奈落の底のような大穴に跳べと言われて、普通、素直にすぐに飛べる人はいないと思う。
 男性で、ギルマスと何年も冒険をしてきたラジエさんですら、すぐには跳べなかったのに、考古学者で女性のギレウォッタさんが、無事に跳べるのだろうか。

「跳んでも届かないんだから、このまま穴に下りるように、そちらへぶら下がるよ。ロープが切れたり解けたりしない事が絶対条件だけど」
「ああ、俺は離さないさ。君こそ、自慢の知識で、絶対に解けない結び方をしてくれたかな?」
「任せてくれ。船を繋ぐもやい結びならそうそうは解けないだろう? 私の体重くらい、支えられるよね?」
「もちろんだ。さあ、来い」

 フィルタさんって、こんなに話すのね。ちょっと不思議な感じ。
 今日は色んな驚きで、もう、よほどのことでない限りびっくりはしなくなってそうだよ。

 まるで、岩風呂にでも入るかのように、壁に僅かに残った足場となっている床に腰掛けて足を垂らし、身体をこちらへ向けると、ギレウォッタさんは思い切って、その身を大穴に投げ出した。

 予定通り、弧を描きながらこちらへ振り子のように移動してくる。
 ちゃんと壁に激突する前に足を出して着地した。こちら側には壁があって良かった。
 来た方の入り口の下は大きくえぐれて、下の空間がこの部屋よりも大きいことがわかる。

 実は慣れてるのかな? ギレウォッタさんはするすると上がってきて、フィルタさんに引き上げられる。

 次は、壁伝いに隣の坑道から、ラジエさんが渡って来る番である。
 
 ギレウォッタさんからラジエさんのロープの端を受け取り、自身の腰に巻くフィルタさんと、それを硬く結ぶギレウォッタさん。

 だけど、落ちた私と拾ってくれたフィルタさんや、落下していくアネッタさん達に身を乗り出したフィルタさん、今のギレウォッタさんと支えるフィルタさん、何度も、勢いがついて何倍もの体重になる人間を支えていたキールさんの腕は限界に近かった。見ても震えているのがわかる。

 チットちゃんやチルちゃんが、ふるふるしながら、見守る。

〈ネェ、みんな、さっきと同じくらい我慢できル?〉
「なんのだ?」
 キールさんが、フィルタさんが引きずられないように左右の壁に手をつき踏ん張ったまま、応える。
 
防護領域セイフティエリア解除しないと無理だけど、さっきの飛行魔法、少しの間ならかけられるヨ〉
〈コハよりも大きい・人は長く出来ナイ、デモ、落ちないように、暫くだけ軽くは出来るヨ〉

 ありがたい申し出だけど、でもすでに、ラジエさんがロープを引いて、壁を蹴りながらこちらへ渡ってきていた。







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