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冥界に一番近い山──楽園と地獄の釜
じゅうなな。『左手でしっかりと生命を宿した大輪の花を握りしめ、落ち行くケルピーちゃんに手を延ばす』──そこの見えない大穴に落下中ですが⋯⋯
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⛏
左手でしっかりと『生命を宿した大輪の花』をしっかりと握りしめ、胸元の小瓶から飛び出して落ち行く海馬ちゃんに右手を延ばす。
僅かに手が届かなかったけど、ケルピーちゃんから巻いた尾が伸びて、私の小指に巻き付く。
でも、私が身を反らし腕を伸ばした事でバランスが崩れ、私を抱えていたフィルタさんは、穴の縁にかけた足を踏み外し、フィルタさんの腕を摑んでいたキールさんがうめき声をあげる。
人ふたり分、しかもフィルタさんは長い魔剣を佩き、軽装ではあるものの、胸部軽鎧や部分籠手、キールさん自身の鎧などの重みもあるのだ。
その支える総重量は相当なものだろう。
ロングソードの柄を握るキールさんの腕が震え出した。
もちろん、その間、他のメンバーがただ見ていた訳じゃない。
「コハク、下を見るな、すぐ引き上げてやるから目を瞑ってろ。その花はしっかり握って離すんじゃないぞ」
片腕で私を抱え、片腕でキールさんと互いの手首を握り合うフィルタさん。足は完全に宙に浮いていて、縦穴には足のかけどころがない。
壁になっていれば、キールさんに引き上げてもらいながら、フィルタさんが歩くようによじ登る事も出来ただろう。
でも、みんなが居る床の下は空洞になっていて、上の部屋よりも広いらしく、壁まで花の光は届かない。
フィルタさんも足のかけどころがなくて、すぐには上がれないみたい。
キールさんの苦しげな表情が厳しくなってきた頃、少しずつ私達の高さが下がり始める。
すると、足元から血の気が引くような、冷たくて重い気持ち悪い感じがしてくる。
坑道の中も作業場も、火山地のせいか気温は高かった。なのに、冷えるような悪寒が来るのだ。
「あの⋯⋯ 足元が、重冷たいって言うか、変な感じが⋯⋯」
「やはりか」
「え?」
「今の、縦穴にぶら下がった状態は、君の妖精達の作る結界の範囲から外れているのだろう。俺の足も、感覚がなくなってきている⋯⋯」
──ええっ!?
驚きのあまり、声にもならなかった。
私を抱えているとはいえ、ただぶら下がっているだけなのはフィルタさんらしくない気がしていたけれど、まさか、冥気や瘴気が侵食してきているなんて⋯⋯
〈コハ!! 息してるね? 大丈夫?〉
チットちゃんが、穴の縁から覗いている。
落ちる前、私の頭の上にいたチルちゃんは、フィルタさんが私に突進してきた時に衝撃で吹っ飛んで、ちゃんと穴のそばの木箱にしがみついたらしい。チットちゃんと並んでこちらを見ている。
〈コハ、行ク。待ツ〉
チルちゃんがにゅうっと伸びて、まるでアメーバのようにフィルタさんを伝って私の頭の定位置に来るけど、キールさんが苦しげにして私達がさらに下がると、縁にかけた一部に引っ張られるように縮み、ぶらんぶらんと垂れさがる。慌ててさらに縮んで、作業場の床に戻った。よかった、反動で下に落ちなくて。
左手でしっかりと『生命を宿した大輪の花』をしっかりと握りしめ、胸元の小瓶から飛び出して落ち行く海馬ちゃんに右手を延ばす。
僅かに手が届かなかったけど、ケルピーちゃんから巻いた尾が伸びて、私の小指に巻き付く。
でも、私が身を反らし腕を伸ばした事でバランスが崩れ、私を抱えていたフィルタさんは、穴の縁にかけた足を踏み外し、フィルタさんの腕を摑んでいたキールさんがうめき声をあげる。
人ふたり分、しかもフィルタさんは長い魔剣を佩き、軽装ではあるものの、胸部軽鎧や部分籠手、キールさん自身の鎧などの重みもあるのだ。
その支える総重量は相当なものだろう。
ロングソードの柄を握るキールさんの腕が震え出した。
もちろん、その間、他のメンバーがただ見ていた訳じゃない。
「コハク、下を見るな、すぐ引き上げてやるから目を瞑ってろ。その花はしっかり握って離すんじゃないぞ」
片腕で私を抱え、片腕でキールさんと互いの手首を握り合うフィルタさん。足は完全に宙に浮いていて、縦穴には足のかけどころがない。
壁になっていれば、キールさんに引き上げてもらいながら、フィルタさんが歩くようによじ登る事も出来ただろう。
でも、みんなが居る床の下は空洞になっていて、上の部屋よりも広いらしく、壁まで花の光は届かない。
フィルタさんも足のかけどころがなくて、すぐには上がれないみたい。
キールさんの苦しげな表情が厳しくなってきた頃、少しずつ私達の高さが下がり始める。
すると、足元から血の気が引くような、冷たくて重い気持ち悪い感じがしてくる。
坑道の中も作業場も、火山地のせいか気温は高かった。なのに、冷えるような悪寒が来るのだ。
「あの⋯⋯ 足元が、重冷たいって言うか、変な感じが⋯⋯」
「やはりか」
「え?」
「今の、縦穴にぶら下がった状態は、君の妖精達の作る結界の範囲から外れているのだろう。俺の足も、感覚がなくなってきている⋯⋯」
──ええっ!?
驚きのあまり、声にもならなかった。
私を抱えているとはいえ、ただぶら下がっているだけなのはフィルタさんらしくない気がしていたけれど、まさか、冥気や瘴気が侵食してきているなんて⋯⋯
〈コハ!! 息してるね? 大丈夫?〉
チットちゃんが、穴の縁から覗いている。
落ちる前、私の頭の上にいたチルちゃんは、フィルタさんが私に突進してきた時に衝撃で吹っ飛んで、ちゃんと穴のそばの木箱にしがみついたらしい。チットちゃんと並んでこちらを見ている。
〈コハ、行ク。待ツ〉
チルちゃんがにゅうっと伸びて、まるでアメーバのようにフィルタさんを伝って私の頭の定位置に来るけど、キールさんが苦しげにして私達がさらに下がると、縁にかけた一部に引っ張られるように縮み、ぶらんぶらんと垂れさがる。慌ててさらに縮んで、作業場の床に戻った。よかった、反動で下に落ちなくて。
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