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コハク、遊び人Lv1 初めての大きな依頼に緊張シマス

きゅ。『白い巨木の横を通ると空気が変わった。それまでのむせ返るような植物の青さも消え、静謐な気配に包まれている』──これが、波濤の妖精郷

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     🧚‍

 白い巨木の横を通ると、空気が変わった。それまでのちょっとだけ息苦しいような、息を吸うのが疲れるような気配はなくなり、むせ返るような植物の青さも消え、静謐な神殿の中のように、落ち着いた穏やかな気配に包まれている。

 ひと目見て小妖精ピクシーだとわかる、薄翅を背に生やして飛び回る子供の姿をした小人たち。手のひらサイズで、黄緑や空色の燐光をまきながら高速でそこかしこ飛んている。たまに私達の顔の前でピタッと止まり、空中静止ホバリングして眼を覗き込んで、笑いながら飛び去ったり。

 周りの景色にとけ込んで気づきにくいけど、よく見ると、ときおり木の幹に蟲瘤むしこぶだと思っていたものが実は目鼻口の顔で、ただの木ではなく樹人トレントだったり。
 キールさんの先導で進む細い道のすぐ横の草むらを、光るホタルブクロを手燭カンテラ代わりに二足歩行で、猫っぽいけど獣人ではない何かが歩いていたり。

 エルフや戦乙女ヴァルキリー茶色い人ブラウニー嘆きの乙女バン・シーのように人形ヒトガタをしているとは限らない妖精達。
 このチットちゃんチルちゃん達も、猫のような角を持った形の透き通ったスライムにしか見えないけど、妖精族である。

「ああ、それは、ケット・シーだろう。普段は大きな猫のふりをしているが、言葉も解すし、ちゃんと我々のように国を作って暮らす、上位の妖精族だよ。姿を見ても、知らないふりをしてあげてくれ」

 清々しく少し涼しいくらいの森の中、色んな妖精族が行き来していた。



〈ゥニャニャー!!〉

 チルちゃんが頭の上で伸び縮みして警戒の声をあげる。チットちゃんも忙しなく足元を跳ねまわり、喧嘩する猫のようにフーッと威嚇音をあげた。

「来る!」

 フィルタさんが魔剣の鯉口を切り、アネッタさんも事前詠唱プレキャストしていた魔法防御の結界を展開する。

 もし、アネッタさんの魔法防御障壁マジックレジストバリアが間に合わなければ、私達は黒焦げになっていたかもしれない。

 燃え盛るトカゲ──サラマンダーが高速で飛んできたのだ。

 飛竜のように翼があるわけでもないのに、どうやって飛んでるんだろうと考えて、精霊なんだから、物理法則は関係ない事に思い至り、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
 見た目は黒いヤモリなのに、ところどころ赤や黄色に輝いて、全身に炎を纏っている。頭から尻尾の先まで30㎝はありそう。

「正気を失っている。……瘴気に汚染されてるんだろう」

 キールさんは半妖精とはいえ、肉体ベースが人間で物質存在値が高いので平気らしいけど、チットちゃんやチルちゃんには触れられないように気をつけろと言われた。この子達が正気を失って、穢れて消滅したり冥府の悪霊になっちゃったら悲しいでは済まないから、気をつけなきゃ。

「コハクちゃん? ウンディーネとかネレイドとか喚び出せない?」

 額に汗をにじませながら、ターレンさんが訊いてくる。サラマンダーの火焰ほむらが熱いだけではないと思う。

 今この近辺にいる精霊たちは、瘴気の気配におののいて召喚に応じてくれなかったり、或いは同じく正気を失っているらしい。
 役に立てないと、残念がるターレンさん。

 精霊ほど顕著に影響は出ないものの、妖精も影響されやすいらしいけど、魔獣や精霊を使うよりかは、妖精族の方がまだいいとの事。

 ラジエさんも残念そうに言うので、とりあえず『妖精王の杖シルフィールスタッフ』を摑み出した。

「召喚の技能スキルは持ってないしMP2だから使いこなせるかわからないけど、やってみますね」

 私は、意を決し、火属性の火トカゲサラマンダーに対抗出来そうな水属性の妖精さんを願って、杖を振った!









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