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琥珀・もうすぐ14歳・♀・遊び人Lv.1!

じゅうし。『ギルド内が騒がしい。誰かが泣き喚いてるみたい』──新しい冒険の始まり

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     🐇

 ギルド内が騒がしい。誰かが泣きわめいてるみたい。

「なんだろうね?」

 頭の上にチルちゃんを載せたまま、チットちゃんは、ぴょこぴょこ跳ねながら足元をついてくるのを確認して、裏手の私が借りてる菜園から、表のギルド営業所へとまわる。



 ──真っ赤な薔薇を抱いて眠っているみたい

 最初は、場違いにもそんなふうに見えた。

 実際は、血だらけでぐったりしている、金属製の胸部分鎧ブレストアーマーを身に着けた男性。

 その男性の肩と首を抱えるようにして座り込んだ女性が、悲鳴のような声をあげ続けているのだ。

「首を下ろしな。動かさないほうがいい」

 騒ぎに奥からギルマスが出て来て声をかけるも、女性は聞き入れない。
 まるで言葉が解らないようだ。いや、実際解らないのかもしれない。

 女性は、人族ではなかった。

 柔らかく細やかな毛に覆われた、うさぎのような耳。顔や手の形は人のそれと同じだけど、ブラウスから覗く手の甲に白い、産毛よりはハッキリとした短い艷やかな被毛が。

 兎人とじんにも見えるけど、鼻先や口は人間の物と同じようで顔に被毛はないし、耳と(見える範囲では)手の甲に被毛が生え揃っている以外は、ほぼ人間に見えることから導き出される答えは……

森人もりびと?」

 元は、エルフやドワーフと同じ妖精の仲間で、妖精郷へは帰属せずに、この物質世界の森の中で暮らしいているという。

「兎人じゃねぇのか?」
「お顔は人間と変わらないでしょ? 兎人なら、顔もうさぎじゃないの」

 私のひとり言に、同じ年くらいの少年剣士が訊いてくる。

「そうなのか? あの耳、ほぼウサギじゃんか」
「兎人は獣人、森人は妖精族、存在定義がまるで違うよ」

「おう、コハク。悪いが、ちょっと試してみてくれねぇか?」
「はい」

 ギルマスは、野次馬冒険者ハンター達の首を摑んで向き直させ、職員が追い払って入り口を閉じてしまい、人払いをする。

「一応、神殿の治療士サージャン回復士 ヒーラー を呼んでくるよう遣いは出したが、処置が早いに超したことはねぇからな」

 ちなみに、女性の叫びも私には意味がわからないし、ギルマスも、森人の言葉は殆ど解らないと言う。

 それは女性も同じようで、いくら私達が落ち着くように言っても、男性を診るから離れてと言っても聞かず、泣き続ける。

「どうしたんですか? この人たち……」
「よくわからんが、ナーヴの話だと、突然、その男が彼女を抱えて飛び込んできたそうだ」








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