上 下
52 / 276
勇者候補と言われるアレフだけど・・・?

にぃ。『私は、なんて事をっ』──アレフは目に見えて動揺し、顔面蒼白で固まっていた

しおりを挟む


「ぼっ……僕……私は、なんて事をっ」

 アレフは、目に見えて動揺し、さっきまで顔面蒼白で固まっていたが、急に解凍したかと思うと、震えながら、荷物を片付け始める。

 片付けると言っても、広げた食器や食材の残りを、時間停止と拡張空間の魔法のかかったザックに突っ込むだけである。
 適当に投げ入れても、中では、持ち主の好みのカテゴリ順に整理されて収納されているらしい。便利な事だ。

「ちょ、ちょっとアレフ? 何してるの?」

 慌てながらも、ダンジョン内で行き別れたり挙動不審なアレフを見失ったりする訳にも行かないので、キャロラインはもとより、アレフ同様青ざめて震えるクリスも、盛大にため息を吐き出したエドガーも、出立の準備を始める。

「今から戻って、間に合うといいがな……」
「エドガー! 今は、そんな事言わないほうが……」

 怒鳴りつけるキャロラインもまた、動きがトリッキーで早めのセンチピートはともかく、大きいだけのスラッグや洞窟コウモリすら退治できなかったコハクが、あの後、無事にダンジョンから出られたとは思ってなかった。

 冒険者ハンターを名乗る以上、敵と自分の力量を見極める事、身を守れる事、責任を持って依頼を受ける事は、基本だ。
 いかにコハクといえども、それは同じ事。

 商家で領主の娘であるキャロラインは、その辺りの考え方はシビアな方なので、ダンジョン内で別れる事を了承したコハクの自己責任だと思っているし、ゆえに、アレフが心を痛めたり、別れた仲間のコハクを保護する謂れはないとも思っている。

(なによ、そんなに慌てるんなら、別れるのは、このダンジョン踏破が済んで街に帰ってからにすればよかったのよ。何もあそこで置き去りにする必要はなかったじゃないの)
「それはそうかも知れんが、どうせなら、四人でのパーティ効果も試したかったからな、別れたコハクがどうするかまでは気がまわらなかったな」

 キャロラインの、声になるかならないかの独白に、他人事のようにサラッと答えるエドガー。
「気がまわらなかった?」
「そうです。僕らも同じなのです…… 僕らならヽヽヽヽあそこから帰るのに大した労力はありません。だから気にならなかった。ですが、コハクはヽヽヽヽ事情が違います」
自分たちが楽に行き来出来るヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ道のりだから、苦労した覚えがないから、彼女も同様だヽヽヽヽヽヽと、特には意識せずにパーティの再編成をしてしまった」

 この先の、危険度が増す旅に連れていけば、必ず彼女が危険な目に合う時が来てしまう。その時、自分は必ずヽヽ後悔する。守りきれなかった事、危険な目に合わせ、怪我をさせてしまった事、怖い思いをさせてしまった事を、後悔してもそれでは済まない事態になると、自分の苦悩ばかり気にして、あんな場所に置き去りにするなんて、
「僕はどうかしてたんだぁ! コハク、すまない、どうか、どうか無事でいてくれぇ!!」
途中、出会う魔物すべてをひと薙ぎに屠り、素材や魔石すべて無視で、元来た道を突き進むアレフ。キャロラインはついていくだけで必死だ。

「だ、大丈夫かしら、アレ」
「自分のせいで、人が傷つくかもしれない事にショックなんだろうなぁ」
「生真面目ですから。幼い頃から」
「勇者としての覚悟はまだまだだな」

 エドガーは、大きなため息を吐き出し、剣筋もでたらめに突き進むアレフの後ろ姿を見守った。






しおりを挟む

処理中です...