上 下
15 / 276
暗いダンジョンの中で捨てられました──捨てる勇者あれば拾う妖精あり?

じゅうご。『こ、これは!』──役立つのかどうか、まったくわからないものが出て来ました

しおりを挟む


「こ、これは!」


 立体刺繍で出来た、レースの蝶々。
 心を柔らかくリラックスさせるメルベールの薬草が埋まりこんだ、キャロラインのお乳くらい大きな水晶玉。
 ハーブ入り水晶玉を絡め取るように伸びたツル
 妖精王の園にそびえると言われる世界樹の若枝。を模したんだろう、本物なんか手に入るわけない。

 7歳のころに、夜店で買ったおもちゃの『妖精王エルフィールの杖スタッフ』である。ジャーン

 町の、秋の収穫祭で、妖精や魔族も楽しい雰囲気を味わいに混ざっていると言われて、子供は、夜は参加させてもらえなかった。

 それでも、楽しそうな音楽や歌声が聴こえてくるので、お兄ちゃんと一緒に、こっそり抜け出した事がある。
 後でもの凄~く怒られたので、その一回だけだ。

 お兄ちゃんと明るい方へ行くと、大人達はエールを浴びるように飲んで、肩を組んで踊ったり、歌ったり、楽しそうだった。

 歌詞の意味なんか解らないし、その頃は【舞踏】の才能タレントも開花してなかったので、どちらかというとどんくさい私が、踊りの輪に入れるはずもない。

 それでも、楽しそうな雰囲気に大興奮だった。

 私達がいない事に気づいた祖母が探しに来て手を引かれ、両親に知られる前に帰ることになった。
 が、その帰り道、賑わいから少し離れた大きな樫の木の根元に、ムシロを広げて、小物を売る男性が目にはいる。

「お嬢ちゃん、可愛いね」

 町の人にはあまり言われたことのない言葉に、祭りの雰囲気の興奮もあって、わくわくして、売り物を見た。

 蝶の形の髪留め。蝶の形のブローチ。蝶の飾りのついた手鏡。蝶の刺繍の入ったハンカチ。

 どれもコレも蝶々だらけ。しかも、どれも薄いくすんだ葡萄色で、綺麗なんだかぼやけてるんだかわからない。

「コハク、帰ろう」

 興奮状態の私と違って、怪しい商人に怯えた兄は、握った私の手を引いた。

「コハク。シンジュもこう言ってるだろう、帰るよ」

 兄が握っているのと反対側の手を引いた祖母に、帰宅を促される。

「う……ん。でも、もう少し」

 どれも、綺麗のか、ボヤけてるのか判らないデザインなのに、ひとつ、妙に気になるものがあった。

 兄の手から抜いた小さな手には、それはかなり大きかった。

 両手で抱えるほどの水晶玉? にしてはヒンヤリとしてなくて、むしろ暖かくて、中にリラックスハーブが入っている。空洞ではなくて、練り込まれたみたいになっている。

「お嬢ちゃん、お目が高いね。それは、妖精王の杖だよ。お兄ちゃんは真珠、お嬢ちゃんは琥珀っていうのかい? 奇遇だね。その水晶玉も、本当は水晶じゃなくて、樹脂なんだよ」

 なんで、わたしの名前を知っているのか、不思議に思ったけど、何のことはない、祖母と兄が呼んだからだ。

「じゅし?」
「そう。琥珀ちゃん。琥珀も、樹液がとても長い年月をかけて化石化したものなんだ。
 それはね、妖精王の育てた世界樹の樹脂で出来ているんだ。中にハーブが入っているだろう? 稀少なものなんだよ」
「じゃあ、お高いのね?」

 そんな凄いものなら、私達に返るはずがない。
 そう言うと、商人は大声で笑い出した。

「お嬢ちゃんがこの露店に気づき、それを (妖精王の杖)見つけた。一期一会だ」
「いちごいちえ? イチゴが一枝ひとえだ?」

 また、笑われた。

「お嬢ちゃん、本当に可愛いね。うん。妖精達は、特別な縁を大切にする。それはもう、お嬢ちゃんのものだよ」
「えっ」

 そう言って、商人はムシロを巻き、露店を片付け始める。

「そんな、ダメよ、ただなんて、妖精の王さまにシツレイだわ」

 慌てて、ポケットに入れていた春から先月までずっと羊の面倒をみたお駄賃の、銀貨を見せる。

「これが、全財産よ。王さまの杖だもの、ちゃんとお代を払わなきゃ!」
「お嬢ちゃん、律儀で、いい子だね、おじさん、そう言う子、好きだなぁ」

「エヘヘ、いい子だって。好きだって」

 照れ笑いしながら兄を振り返り、兄は、頭を撫でてくれた。

 そうだ、この銀貨を渡さなきゃと顔をあげると、商人も、ムシロも、露を避ける天幕も消えていた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...