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暗いダンジョンの中で捨てられました──捨てる勇者あれば拾う妖精あり?
じゅうご。『こ、これは!』──役立つのかどうか、まったくわからないものが出て来ました
しおりを挟む「こ、これは!」
立体刺繍で出来た、レースの蝶々。
心を柔らかくリラックスさせるメルベールの薬草が埋まりこんだ、キャロラインのお乳くらい大きな水晶玉。
ハーブ入り水晶玉を絡め取るように伸びた蔓。
妖精王の園に聳えると言われる世界樹の若枝。を模したんだろう、本物なんか手に入るわけない。
7歳のころに、夜店で買ったおもちゃの『妖精王の杖』である。ジャーン
町の、秋の収穫祭で、妖精や魔族も楽しい雰囲気を味わいに混ざっていると言われて、子供は、夜は参加させてもらえなかった。
それでも、楽しそうな音楽や歌声が聴こえてくるので、お兄ちゃんと一緒に、こっそり抜け出した事がある。
後でもの凄~く怒られたので、その一回だけだ。
お兄ちゃんと明るい方へ行くと、大人達はエールを浴びるように飲んで、肩を組んで踊ったり、歌ったり、楽しそうだった。
歌詞の意味なんか解らないし、その頃は【舞踏】の才能も開花してなかったので、どちらかというとどんくさい私が、踊りの輪に入れるはずもない。
それでも、楽しそうな雰囲気に大興奮だった。
私達がいない事に気づいた祖母が探しに来て手を引かれ、両親に知られる前に帰ることになった。
が、その帰り道、賑わいから少し離れた大きな樫の木の根元に、ムシロを広げて、小物を売る男性が目にはいる。
「お嬢ちゃん、可愛いね」
町の人にはあまり言われたことのない言葉に、祭りの雰囲気の興奮もあって、わくわくして、売り物を見た。
蝶の形の髪留め。蝶の形のブローチ。蝶の飾りのついた手鏡。蝶の刺繍の入ったハンカチ。
どれもコレも蝶々だらけ。しかも、どれも薄いくすんだ葡萄色で、綺麗なんだかぼやけてるんだかわからない。
「コハク、帰ろう」
興奮状態の私と違って、怪しい商人に怯えた兄は、握った私の手を引いた。
「コハク。シンジュもこう言ってるだろう、帰るよ」
兄が握っているのと反対側の手を引いた祖母に、帰宅を促される。
「う……ん。でも、もう少し」
どれも、綺麗のか、ボヤけてるのか判らないデザインなのに、ひとつ、妙に気になるものがあった。
兄の手から抜いた小さな手には、それはかなり大きかった。
両手で抱えるほどの水晶玉? にしてはヒンヤリとしてなくて、むしろ暖かくて、中にリラックスハーブが入っている。空洞ではなくて、練り込まれたみたいになっている。
「お嬢ちゃん、お目が高いね。それは、妖精王の杖だよ。お兄ちゃんは真珠、お嬢ちゃんは琥珀っていうのかい? 奇遇だね。その水晶玉も、本当は水晶じゃなくて、樹脂なんだよ」
なんで、わたしの名前を知っているのか、不思議に思ったけど、何のことはない、祖母と兄が呼んだからだ。
「じゅし?」
「そう。琥珀ちゃん。琥珀も、樹液がとても長い年月をかけて化石化したものなんだ。
それはね、妖精王の育てた世界樹の樹脂で出来ているんだ。中にハーブが入っているだろう? 稀少なものなんだよ」
「じゃあ、お高いのね?」
そんな凄いものなら、私達に返るはずがない。
そう言うと、商人は大声で笑い出した。
「お嬢ちゃんがこの露店に気づき、それを見つけた。一期一会だ」
「いちごいちえ? イチゴが一枝?」
また、笑われた。
「お嬢ちゃん、本当に可愛いね。うん。妖精達は、特別な縁を大切にする。それはもう、お嬢ちゃんのものだよ」
「えっ」
そう言って、商人はムシロを巻き、露店を片付け始める。
「そんな、ダメよ、ただなんて、妖精の王さまにシツレイだわ」
慌てて、ポケットに入れていた春から先月までずっと羊の面倒をみたお駄賃の、銀貨を見せる。
「これが、全財産よ。王さまの杖だもの、ちゃんとお代を払わなきゃ!」
「お嬢ちゃん、律儀で、いい子だね、おじさん、そう言う子、好きだなぁ」
「エヘヘ、いい子だって。好きだって」
照れ笑いしながら兄を振り返り、兄は、頭を撫でてくれた。
そうだ、この銀貨を渡さなきゃと顔をあげると、商人も、ムシロも、露を避ける天幕も消えていた。
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