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婚約者様と私Ⅱ

133.社交シーズン到来

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「お嬢さま、とてもお綺麗ですわ」

 マクダレーネさんがうっとりと、ドレスを眺める。


 お嬢さまは、もうベッドからは起きられるようになってはいるそうだけど、まだ顔色や肌の艶は悪く、髪の艶を取り戻すのも時間がかかりそうだと言う。

「いっそ、私も髪の艶を落としたり、お肌の手入れの手を抜けば、入れ替わり戻りやすいかしら?」
「それはさすがに不自然でございましょう。何か、理由をつけねばなりせん。アンジュお嬢様まで何か病を得た事にするのですか? また、食中毒を装えば、料理人達の咎になります。それは彼らの信用や今後に差し支えるでしょう」
「それはそうよね⋯⋯ 早くお嬢さまがお元気になってくださればいいのだけれど」

 でも、瘡毒って熱が続いたり吐いたりするものかしら?
 瘡毒に侵されて体力が落ちて、何か別の病も併発しているのかもしれないわね。
 予後が悪くて公爵夫人として領地を守れない、なんてことがなければいいのだけれど。

 今日は、ドレスの着付けをイルマさんと家政婦長のマクダレーネさんに手伝ってもらっている。

 イルゼさんは、私の代わりに王宮で、北欧の王室ゆかりの家柄出身の令嬢が外交官として来られているのを、通辞を兼つうじ(通訳) ねたガイド役としてお相手していただいている。

 最初からそうすれば良かった。
 彼女は、夫をなくした寡婦で、ご子息を取り上げられて婚家から実家に戻され、実家にも居場所がなく、婚家のためになると覚えた複数の語学を活かせる仕事を探していたのだから。

 遠慮なくお使いくださいと書き付けを持たせたところ、本気でシーグフリート殿下はイルゼさんを扱き使い、日々通辞も出来る侯爵家推薦の高級女官として、忙しくしているという。
 まだ一度も侯爵邸に戻ってくることはなく、日々どんなに充実しているかを、喜びと、語学を活かせる仕事への縁を与えられた感謝を共に書き連ねた、現状を伝える手紙が毎日のように届く。

 彼女が王宮に居場所を、やりがいを見つけ、転職を希望するなら侍女に戻らなくてもいいと、お父さまの許可もいただいている。

 きっと、そうなるだろう。


「なんだか、婚約者様のお送りになるドレス、どんどん豪奢になっていきますね? 金糸や宝石も縫い付けられていないし、シルクサテンや天鵞絨という訳でも、ドレープやフリルをとっている訳でもないのに、ただ、総レースというだけで、こんなに華やかになるなんて⋯⋯」


 青の森のブラウヴァルト 社交シーズンは、秋の狩りと共に始まる。

 貴族達は、キツネ狩りや山鳥、鹿狩りなどが好きである。
 足早に近づく冬支度として保存食(塩漬け肉やブルスト(ソーセージ))や毛皮を求める事と都合が合うからかもしれない。

 今日は、王領地のお狩り場で、王太子殿下主催のキツネ狩りがあり、クリスは数日前から青の森入ブラウヴァルト りしていて、事前にクマや狼、貴族を狙った野盗などが潜んでいないかの一斉捜索をしていた。
 王宮の騎士達の多くは上位貴族の当主や子息で、狩猟会の参加者だ。
 昔はあったそうだけど、身内で仕込みをしていたりするので、下調べや警護は、傭兵にさせることにしているらしい。

 リンブルフ公国との国境線沿いにフランス軍が駐留している緊張感から、国主のルドルフ公爵閣下とそのご弟妹は国を離れられないので、当分の間、国外への戦力貸与事業は、クリスやクリスの従兄弟達の隊がメインなのだという。
 この機に、クリスの時期国主として顔を売る意味もあるのだろう。

 そして、婚約者──輿入れを待っているだけの婚姻契約上実質はすでに夫人──であるお嬢さまが暮らすこの青の森のブラウヴァルト 専属契約騎士団かと思われるほど、優先的にクリスの隊が派遣されてくるのだ。

 キツネ狩りに出席する貴族紳士の細君婚約者方々は、本拠地に張られたテントでお茶をしながら、パートナーが獲物を得て戻るのを待つ。

 クリスの隊の騎士達はお狩り場に点在して警備を行うけれど、クリスは私の(お嬢さま)ために、大きなブルーフォックスを何匹も獲ると張り切っていたらしい。

「出来れば、俺や母上の分も」
というお兄さまに、クリスは
「テオは自分で自分の分と母君の分を獲りなよ。お前だって、貴族子息だろ。狩りは紳士の社交の嗜みだぞ」
と、つれなかったという。

「野営で狩りもする騎士(職業軍人)と、領地を監理して地場産業を営む田舎貴族(会社経営者)と一緒にすんなよな~」

と、お兄さまは笑っていた。


 そして、もうすぐクリスが迎えに来る──





 ❈❈❈❈❈❈❈

瘡毒の第二期の症状は様々で、発疹・発熱・疲労感・頭痛・食欲不振・体重減少など

また、(脳と脊椎を侵す)神経瘡毒は、何期に拘わらずどの段階でも発症する可能性があるとのこと

第二期には血流に乗って菌が広がり、発疹、50%の人に全身のリンパ節の腫れが
頭皮に発疹が出来ると髪が抜けて虫喰い状態に
10%の人に他の臓器にも発症

眼の炎症、骨や関節の痛み、視覚・聴覚・平衡感覚の障害など
 あと、ネタバレになるからここでは表記を差し控えさせていただきますが、他にも症状はあるようです


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