61 / 64
4 困惑と動悸の日々
4‑18 逃げる騎士達
しおりを挟む
✴
「そうだね? エステル」
急に振られて焦ったけれど、間違いはなかったので、頷く。
「基本的には自分のキャパシティを超えては昇華できないので、一族の外には知られていません。わたくしは、守護精霊がこの光の精霊ルヴィラだったので、多少の浄化が出来るのです。それも、この地に定着してしまっては、聖教会の大司教級の聖職者が神聖魔法を使わないと浄化出来なくなります。ので、今回は、スピード勝負ですね」
「え? ごめん、呼び止めちゃった」
「仕方あるまい? 説明無しに進む訳にもいかないだろう?」
「ん、まぁそうだけど」
「魔物や魔獣の残党は、リクと辺境伯に任せる。事の報告書には、わたしの灼熱魔法が光の属性を帯びていたため、瘴気にならずに昇華した、という事にしておいてくれ」
「いいけど、エステルの活躍は秘密のままでいいの? 功績を称えて報奨とか、陛下から労いのお言葉とか。精霊の力を借りるにしても、何の負担もない訳じゃないんデショ? むしろ、身の内に受け止められるだけのってことは、結構負担なんじゃないの?」
「だから、他人には知られたくない。能力を超えた期待をされても困るし、聖教会と揉めたくないしな」
「⋯⋯⋯⋯聖女?」
「そうやって担ぎ上げられると問題しかないから、他言無用だと言うんだ」
「光の精霊の守護で浄化や回復士と同じ事が出来るなんて、聖典に出て来る聖女様みたいだね」
「あれはアァルトネン一族の娘の話だ。一度は聖教会に預けたが、アァルトネン一族の血を繋ぐため婚姻──還俗させる時に聖教会が渋って、聖教会と王家が対立したらしい。以来、面倒だから、アァルトネン一族の体質のことは、王家と一族以外には秘密なんだ」
「兄上はいいね。素敵な精霊使いさまがお友達で。うちの騎士団にも欲しいよねぇ」
「そういうのが困るから、秘密なんだよ?」
「解ったよ。報告書には、兄上の光属性の灼熱魔法が効いた事にしておく。痕跡である程度は信じさせられるでしょ」
「頼む」
「僕の第一師団にも、アァルトネン一族の子が居たはずだから、いつかそれとなく聞いてみようかな?」
「今の他言無用の誓約が制約になって、言葉に乗せられないんじゃないか?」
「うーん、そうかも。有望な子ではあるから、それとなく様子を見ていよう」
後日、精霊魔法について色々聞きたいと言うリクハルド殿下と場を設ける約束をして、狂行進発生源と思われる森へ急ぐ事にした。
꙳꙳꙳
「エリオス殿下、体調やご気分がよくならないですか? 少し魔力譲渡をしましょう」
辺境伯家の抱える騎士団が、狂行進の澱や、負や冥の魔素にあてられて魔獣と化しつつある野獣の処理を行っている現場まで来た時、ここまで連続して灼熱魔法を使った影響か、殿下の顔色が酷く、大地を踏みしめる御御足がツラそうだった。
「いや、この先の発生源の浄化まで温存しておいて欲しい。聖教会が浄化専門の祓魔士を派遣する前に膨れ上がると手に負えなくなるかもしれない」
「わたくしでは浄化しきれるかは⋯⋯」
「尚更だよ」
そう言われてしまっては、従うしかない。
確かに、森の奥へ向かう小径の先に、よくない気配が溜まっている。
精霊達も、行かない方がいいと伝えてくる。
そう思っても、殿下が国のために、民のために浄化しておきたいと言うのなら、後込みする事も出来ず、殿下に続いて森へ入る。
数分もしない内に、奥で騒ぐ声がする。
「ダメだ!! 退避しろ!!」
あの声は、聞き覚えがある。
辺境伯家次男で騎士団第二師団──嫡男の率いる第一師団が国防の国境警備隊なのに対し、こちらは国内で、民のために魔獣の脅威から守る魔獣・魔物専門の討伐隊──の長サムエルの号令で、隊員が退避してくる。
まずは騎馬が数名、早駆けで私達の側を駆け抜け、森の外へ。伝令かしら?
その後、鎧姿の十数名が必死の形相で駆けてくる。
「何かあったな」
エリオス殿下の目が眇められ、私もこの先のよくない気配に気を向ける。
騎士達の一団の最期に、鎧装の黒馬に乗ったサムエル様が殿として後ろを振り返り振り返り逃げてくる。
何から?
「エリオス殿下!? ここは危険です!! お下がりください。我ら魔物専門の討伐隊で歯が立たぬ魔物です。魔神級やもしれません」
「いや、魔神級がそうそうこんな辺鄙な場所には現れるまい。来るなら人が多い商業都市や王都だろう」
そうなれば、災害級の被害が出るに違いないので、縁起でもないことは言わないで欲しい。
「心配するな。無理はしない。レディも居ることだし。現状を把握するだけだから。お前達は、万が一に備えて森の外と、辺境地の民を守る準備を」
私は、私達に好意的な精霊達に頼んで、精霊達による魔法障壁を作ってもらった。
「そうだね? エステル」
急に振られて焦ったけれど、間違いはなかったので、頷く。
「基本的には自分のキャパシティを超えては昇華できないので、一族の外には知られていません。わたくしは、守護精霊がこの光の精霊ルヴィラだったので、多少の浄化が出来るのです。それも、この地に定着してしまっては、聖教会の大司教級の聖職者が神聖魔法を使わないと浄化出来なくなります。ので、今回は、スピード勝負ですね」
「え? ごめん、呼び止めちゃった」
「仕方あるまい? 説明無しに進む訳にもいかないだろう?」
「ん、まぁそうだけど」
「魔物や魔獣の残党は、リクと辺境伯に任せる。事の報告書には、わたしの灼熱魔法が光の属性を帯びていたため、瘴気にならずに昇華した、という事にしておいてくれ」
「いいけど、エステルの活躍は秘密のままでいいの? 功績を称えて報奨とか、陛下から労いのお言葉とか。精霊の力を借りるにしても、何の負担もない訳じゃないんデショ? むしろ、身の内に受け止められるだけのってことは、結構負担なんじゃないの?」
「だから、他人には知られたくない。能力を超えた期待をされても困るし、聖教会と揉めたくないしな」
「⋯⋯⋯⋯聖女?」
「そうやって担ぎ上げられると問題しかないから、他言無用だと言うんだ」
「光の精霊の守護で浄化や回復士と同じ事が出来るなんて、聖典に出て来る聖女様みたいだね」
「あれはアァルトネン一族の娘の話だ。一度は聖教会に預けたが、アァルトネン一族の血を繋ぐため婚姻──還俗させる時に聖教会が渋って、聖教会と王家が対立したらしい。以来、面倒だから、アァルトネン一族の体質のことは、王家と一族以外には秘密なんだ」
「兄上はいいね。素敵な精霊使いさまがお友達で。うちの騎士団にも欲しいよねぇ」
「そういうのが困るから、秘密なんだよ?」
「解ったよ。報告書には、兄上の光属性の灼熱魔法が効いた事にしておく。痕跡である程度は信じさせられるでしょ」
「頼む」
「僕の第一師団にも、アァルトネン一族の子が居たはずだから、いつかそれとなく聞いてみようかな?」
「今の他言無用の誓約が制約になって、言葉に乗せられないんじゃないか?」
「うーん、そうかも。有望な子ではあるから、それとなく様子を見ていよう」
後日、精霊魔法について色々聞きたいと言うリクハルド殿下と場を設ける約束をして、狂行進発生源と思われる森へ急ぐ事にした。
꙳꙳꙳
「エリオス殿下、体調やご気分がよくならないですか? 少し魔力譲渡をしましょう」
辺境伯家の抱える騎士団が、狂行進の澱や、負や冥の魔素にあてられて魔獣と化しつつある野獣の処理を行っている現場まで来た時、ここまで連続して灼熱魔法を使った影響か、殿下の顔色が酷く、大地を踏みしめる御御足がツラそうだった。
「いや、この先の発生源の浄化まで温存しておいて欲しい。聖教会が浄化専門の祓魔士を派遣する前に膨れ上がると手に負えなくなるかもしれない」
「わたくしでは浄化しきれるかは⋯⋯」
「尚更だよ」
そう言われてしまっては、従うしかない。
確かに、森の奥へ向かう小径の先に、よくない気配が溜まっている。
精霊達も、行かない方がいいと伝えてくる。
そう思っても、殿下が国のために、民のために浄化しておきたいと言うのなら、後込みする事も出来ず、殿下に続いて森へ入る。
数分もしない内に、奥で騒ぐ声がする。
「ダメだ!! 退避しろ!!」
あの声は、聞き覚えがある。
辺境伯家次男で騎士団第二師団──嫡男の率いる第一師団が国防の国境警備隊なのに対し、こちらは国内で、民のために魔獣の脅威から守る魔獣・魔物専門の討伐隊──の長サムエルの号令で、隊員が退避してくる。
まずは騎馬が数名、早駆けで私達の側を駆け抜け、森の外へ。伝令かしら?
その後、鎧姿の十数名が必死の形相で駆けてくる。
「何かあったな」
エリオス殿下の目が眇められ、私もこの先のよくない気配に気を向ける。
騎士達の一団の最期に、鎧装の黒馬に乗ったサムエル様が殿として後ろを振り返り振り返り逃げてくる。
何から?
「エリオス殿下!? ここは危険です!! お下がりください。我ら魔物専門の討伐隊で歯が立たぬ魔物です。魔神級やもしれません」
「いや、魔神級がそうそうこんな辺鄙な場所には現れるまい。来るなら人が多い商業都市や王都だろう」
そうなれば、災害級の被害が出るに違いないので、縁起でもないことは言わないで欲しい。
「心配するな。無理はしない。レディも居ることだし。現状を把握するだけだから。お前達は、万が一に備えて森の外と、辺境地の民を守る準備を」
私は、私達に好意的な精霊達に頼んで、精霊達による魔法障壁を作ってもらった。
0
お気に入りに追加
1,981
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜
藤*鳳
ファンタジー
人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。
なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。
しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。
しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。
人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。
色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。
和泉鷹央
ファンタジー
幼い頃に住んでいたボルダスの街に戻って来たアルフリーダ。
王都の魔法学院を卒業した彼女は、二級魔導師の資格を持つ氷の魔女だった。
二級以上の魔導師は貴族の最下位である準士の資格を与えられ辺境では名士の扱いを受ける。
ボルダスを管理するラーケム伯と教会の牧師様の来訪を受けた時、アルフリーダは親友のエリダと再会した。
彼女の薦めで、隣の城塞都市カルムの領主であるセナス公爵の息子、騎士ラルクを推薦されたアルフリーダ。
半年後、二人は婚約をすることになるが恋人と親友はお酒の勢いで関係を持ったという。
自宅のベッドで過ごす二人を発見したアルフリーダは優しい微笑みと共に、二人を転送魔法で郊外の川に叩き込んだ。
数日後、謝罪もなく婚約破棄をしたいと申し出る二人に、アルフリーダはとある贈り物をすることにした。
他の投稿サイトにも掲載しています。
前世で医学生だった私が、転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります
mica
ファンタジー
ローヌ王国で、シャーロットは、幼馴染のアーサーと婚約間近で幸せな日々を送っていた。婚約式を行うために王都に向かう途中で、土砂崩れにあって、頭を強くぶつけてしまう。その時に、なんと、自分が転生しており、前世では、日本で医学生をしていたことを思い出す。そして、土砂崩れは、実は、事故ではなく、一家を皆殺しにしようとした叔父が仕組んだことであった。
殺されそうになるシャーロットは弟と河に飛び込む…
前世では、私は島の出身で泳ぎだって得意だった。絶対に生きて弟を守る!
弟ともに平民に身をやつし過ごすシャーロットは、前世の知識を使って周囲
から信頼を得ていく。一方、アーサーは、亡くなったシャーロットが忘れられないまま騎士として過ごして行く。
そんな二人が、ある日出会い….
小説家になろう様にも投稿しております。アルファポリス様先行です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる