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本章 ――リーベルタスと大事な話――

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「ひゃぁ!?」
「おやおや、穏やかじゃぁない登場だねぇ」

 リーベルタスが片眉をあげて、突然吹いた風に金色の髪をすくわれたセレナの背後に視線を向けた。セレナが振り向くとそこに風を纏ったよく知る人物がこちらを見て、明らかにホッとした表情を浮かべている。

「ルー!?」

 どうしたのだろうと驚きながらも、魔力の揺れからルイスが風に乗り急いでここまで来たことが容易く想像できた。リーベルタスと暢気にお茶をしているセレナを視界にいれ、ルイスは額に己の右手をあて「はぁぁぁ」と一息吐いた。

「レナっ …父上お久し振りです」
「あぁ 来たねっ」

 どうやらルイスはリーベルタスの執務室に向かい気配がない事から部屋の主の不在を感じた。リーベルタスを探すのはいいがセレナと行き違いを回避しようと、セレナがいるはずのヒューバートの元に向かったのだ。

 ヒューバートはヒューバートでリーベルタスが自分の元に向かったと聞き自分の執務室に戻って来たところで、セレナの来訪を知った。突然の妹訪問とやたら頭を下げて謝ってくる部下たちの様子。その場にいない肝心の妹。それに加え、いつもそこにいる暇な令嬢たちがいない事に慌てたヒューバートは、部下の説明をすべて聞かずセレナを探しに部屋を飛び出したのだ。

 そこでセレナを探しているルイスとヒューバート2人が出くわし、何かあったのかと慌てたという事らしい。

「でも、ルード焦り過ぎだよ。執務棟とはいえ、今の魔力の使い方は控えた方がいいな」
「…うぅっ……レナが…」

 ルイスからすると貴族や令嬢といったものに、あまりいい感情がないのだ。王弟の息子とはいえ母親が誰かも明かされていないルイスは、リーベルタスの目の届かない処で馬鹿な貴族特有のイザコザを見て体験してきたのだ。

 それをリーベルタスも知っているので、頭からしかりつけることはしない。セレナが令嬢たちと消えたと聞いて、焦ってしまったのだろう事はよくわかる。だが息子には冷静にもなってほしいものだ。

『姫にはわたしが着いているわよ?』
「ぐ……っ」

 セレナにはちゃんと強い味方がついている事も、ルイスの頭から抜けてしまっていた様だ。

 ルイスに遅れて、セレナの1つ目の用事の相手であった兄ヒューバートも颯爽と到着する。こちらは少しの速足で歩いて来たようだ。ルイスが魔力を飛ばしセレナの位置を確認して風に乗って行ってしまった後「自分じゃない奴が焦ってくれた方と冷静になれるよね」と。

「お待たせしてしまったかな?」

 ヒューバートは悠々とした笑みを浮かべている。冷静になれば食堂の予約をしたのは自分なのだ。それを事務官達も知っている。自分の部屋に来たはずのリーベルタスともすれ違っていないのだ。彼がセレナを連れて行ったこと位容易に想像できる事だった。

「可愛い妹よっ 会いたかったよ」 
「兄様……朝も会ったけど…」

「届け物があったんだって?」
「はい コレ」

 両腕を拡げて何かを待っている兄に、素気無く返す妹。その様子をヒューバートと共に来たしし座のレオがほほえましそうに笑みを浮かべて見ている。ひろげられた両腕の片方に、封筒に入った書類が渡された。それをレオがさりげなく預かった。

 兄妹の掛け合いあり、父子の再会があり、セレナとルイスは魔導騎士団のマントは着たままフードだけ外した姿で席に着いた。因みにリーベルタスは、黒のフロックコートに白いシャツを合わせブーツを履いた普通の貴族の格好で、ヒューバートはグレーのフリルが重ねられたシャツと紺のズボンに揃いのベストと清潔感のある格好だ。

 全員の着席し整ったところで食事が始まった。と言っても軽食なので、片手でサンドイッチをつまみながら談笑するのだ。給仕が下がってから、再びテーブルの遮音の魔導具を起動させた。

「うん ルード、変わりないかい?」
「あぁ」

 ニッコリと優しいリーベルタスの笑みにつられ、目じりを下げそうになったルイスはぐっと眉間に皺を寄せ耐えている。昔であれば久し振りの父との再会に、駆け寄って父に飛びついてたであろうルイスだが、少し大人になったようだ。

 ――ルーってば、思春期!?

「そうか、でもなんだな、前よりも顔色もいいし、随分表情筋が仕事する様になったんじゃないかい…?」
「……は?」

 リーベルタスの言葉にヒューイも同じことを感じていた様で、ルイスにも解りやすく口を挟んできた。揶揄ってきたとも言うのかもしれない。

「考えが表に出るようになったって事だ……セレナの近くはそんなの充実してるのか……なっ!?」
「う……ぐぅ…」

 さりげなくテーブルの下で攻防があったようだ。
 仲がいい事だと優しく微笑みながらも伸びてきたリーベルタスの大きな手が、朱色の頭を撫でる。一瞬嬉しそうに見えたルイスの顔は、表情筋が急に仕事をしなくなってしまったようで、弛みそうな唇を震わせて――無表情だ。耐えているが、目が嬉しくて堪らないと物語っている。

「少し前は、一人ぼっちでこんなとこに置いてくなんて冷血漢呼ばわりしてくれてたのに、お姫様がいてくれるから、随分楽しそうでよかったよっ」
「早々、うちの可愛い妹にベッタリだとか?」
『わたし達もいるわよ~っ』
「任せてっ ルーに寂しい思いはさせないし、おいしいものもたくさん食べさせるわっ」

 俯くルイスには気付かずにセレナは、ニコニコと対面に座るリーベルタスに笑みを返している。

「お姫さまが来てくれたから、もう寂しくないんだねぇ ルード」
「あっ……いぁ…その…」

 ボボボと、ルイスの頬が赤くなった。それをごまかすようにルイスは、あわててつまんだサンドイッチを口に突っ込んだ。

「ぐ…っ…ゴホッゴホッ」
 
 プシュー音と、頭から湯気がでそうなルイス。

「なんだ、可愛いセレナが来る前は寂しくて拗ねてたのか? アレクが言うこと聞かないって嘆いていたが、寂しかったのなら遊んでやったのになぁルード」
「ゴホっ……ヒューイ…」

 咽て顔を赤くしているルイスの様子に、思わずセレナからも笑みが漏れる。それに恨めしい目を向け乍らルイスは、フゥと息を吐きいつもの顔に戻った。

「なんなら今から……僕が遊んであげようか ルード」
「……レナがいるからいい」

 紺のベストのポケットから出したハンカチで口元をぬぐったヒューバートが、意地悪く楽しそうに笑う。身内にしか見せない表情だ。

「俺で遊ぶなよ…」
「? ルードが勝手に咽たんでしょぉ」
「まだまだ甘ちゃんだなっ ルード」
「本当に、こんなに立派になっても息子ってのは可愛いものだ」

「……」

 おしゃべりしながらも食事は進み、空になった皿は片付けられた。

「もちろん僕の妹が一番かわいいけどねっ」
「……もうっ」

 セレナの頭を撫で乍ら、ヒューバートはなんだか楽しそうに表情をゆがめた。これも先程部屋の前で待っていた令嬢方には見せられないような表情だ。

「あぁ、セレナ 今日はお勧めのケーキが何種類かあるらしいからショーケースを見て選んでおいで」

 ヒューバートがルイスを揶揄いながら、可愛い妹の肩を指先でつついた。振り向いたセレナはヒューバートの目を見て、小さく息を吐き微笑ん出から席を立った。

「……うんっ」

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中々どうして進まない_(┐「ε:)_
次は大事なお話挟みます。
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