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本章 ――魔導騎士団の見習い団員――

20、ミルクの匂い

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 耳に響いてくる小鳥の囀り。最近は、朝晩冷えるようになってきた。昼間はまだ汗をかく気温だが、そろそろ部屋着は暖かい羽織が必要だ。

 ――さむ…い…
 ――まだ……ねてたい…

 もぞもぞと布団の中でセレナは身動いだ。朝方の気温の低さに、ぬくもりを感じる方へと体を寄せたのだ。
 暖かさがセレナの華奢な体を包み込んでくれる。

 ――んん?
 ――あったかい…
 ――しあわせ……てっ!?
 ――んんっ!? あれ!?
 ――……抱きしめられたぁ!?

 がっしりと、しっかりと、セレナは確かに抱き締められている。だが、セレナを抱き締めている者は寝息を立てているのだろう。額にかかる寝息が金色の前髪を揺らして少し擽ったい。

 まだ重たい瞼を持ち上げると、瑠璃色の大きな目に朱色が飛びこんでくる。

 ――まただっ!!

 驚きと呆れ。

「……はぁ」

 思わずため息が漏れる。ここの処よくある光景だった。セレナが今の生活にだいぶ慣れてきたこの頃。何だかんだとずっとセレナの部屋に居座る幼馴染に、せめて部屋に戻て寝るようにと注意したのだ。あーだこーだと屁理屈を込めていたが何とか頷き、夜は部屋に戻るルイス。だが、朝起きるとこの状況である。

 ――寂しんぼめっ

 呆然とする視界へ手のひらサイズの小さな乙女が姿を現した。

「スピカおはよう……今日もね…」
『おはよう姫 もう諦めて始めっから一緒に寝ればいいんじゃない?』

 ふわりと朱色の髪の上にスピカが舞い降りた。その顔は楽しそうにニコニコと笑みをのせている。

『ヤじゃないんでしょ?』
「でも、だって…、もう……そういう歳じゃないでしょ?」
『……個人差じゃない? それに、結局は一緒に寝てるじゃないっ』

 大体にして、周りに言われたのだ。何時でも何処でもベッタリ一緒にいるのは、年頃の男女としてよろしくないと。それはもっともであるが、一緒に居られる時に一緒にいることはセレナ達にとって当たり前だったのだ。それに、2人きりという訳でもない。星獣の誰かが一緒にいるのだ。
 余所は余所うちはうち。そう思っていたのだが、よけいな一言『唯一無二の恋人じゃぁしょうがないよな』と揶揄う声が耳に入ってきた。

 ――恋人じゃ…ないし…

 いつの間にか朱色のボサボサ髪がスピカの手によって、一部編み込みされている。

「それは、ルーがっ」
『ルーは、姫がいないと生きていけないどうしようもない奴なんだからしょうがないじゃない』

 何時でも一緒にいられるようになったのだからもうくっ付いてるのはやめようと提案した時、ルイスに言われたのだ。『オレ……生きてけないかも…』と。要約すれば、目の前にいるのに一緒に入れないのはヤダという事らしい。

 コツリと眠るルイスに眉間を指で突つくが、そこに皺がよるだけで朱色の髪の持ち主はまだ起きそうにない。しっかりと抱きしめられているセレナは、ルイスの腕の中から抜け出せないのだ。

 ――ルーがあんなこと言うから…
 ――最近そんなような事、言う人多いんだよなぁ…
 ――みんな、ルーはあたしにぞっこん? だって言うけど……
 ――ルーのあたしに対する想いって、ちょっと違うと思うんだよなぁ…

 突くのをやめると、ルイスの眉毛が下がる。そのホッとした様なルイスの表情に、セレナの顔にもつい笑みが漏れる。

 ――恋人の好きって、もっと火傷するほど熱くって勢いがあって
 ――ドキドキしすぎて苦しくなるって言うじゃない…
 ――あたしとルーは……
 ――暖かくて、ホッとするような……ヒュー兄様とは違うのよねぇ
 ――優しくしてあげたくなるって言うか……どっちかって言うと子供みたいな?

「寝てると、まだまだ可愛いよね…子供みたいね…」
『……ルーも、姫も、子供よ?』

 朱色の髪を撫でながら、スピカが楽しそうに笑みを作る。その目はとても優しい。

「そっかぁ…あたしも……、あたし達は、まだまだ子供……なんだね」

 スピカたち星獣は、寿命が無い。もし怪我を負っても、星まで戻れば元通りだ。いつまでも時を刻んでいくのだ。スピカだってもう何年生きているか分らない位、時を刻んでいる。
 唯一その時を止める事が出来るのが、代わりの者が引き継ぐ時だけだ。どうやって引き継ぐものが産まれるのかは解らないが、そのものが地上での生を終えた時星に帰ってくるそうだ。ただもう何百年もずっと、代替わりはしていないらしい。

 ――まぁ、まだいいのかな?

 ルイスの朱色の髪は、サイドがきれいな編込みにされた。ほつれない様にスピカが自身の身体の半分ほどのピン止めで、朱色の髪を留めて顔を持ち上げた。いたずらっぽく笑うスピカ。

『特にルーは、まだまだお子ちゃまでしょ?』
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