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本章 ――魔導騎士団の見習い団員――

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 ラルフは確かに魔力を使い過ぎていた。普段であればアレクサンドロの蔦での拘束など簡単ではないが抜け出せるものなのだ。蔦に絡まりながら唸るラルフ。魔力不足により完全な獣に変形できないようで鋭い牙と獣の耳と尻尾だけ変形している。

「……冷静になれ。冷静になったら、回復薬をやるから…」
「っ……」

 アレクサンドロの言葉に、ラルフの真黒な丸い目が力を抜いた様にゆっくりと瞼の裏に隠れた。目を閉じ獣の象徴である牙と耳と尻尾を消すとラルフは深呼吸を繰り返している。それを横目にアレクサンドロはセレナとルイスに目を向ける。

「皆このような状態で直ぐに動けるものがいない…ルイス、セレナ、君達に行ってもらうよ」
「はいっ 」「……おぅ」

「体勢が整い次第、我々も向かうから連絡が常につくように…」
「あぁ」「はいっ」

 2人はしっかりと頷いた。ラルフに目を向けると、懇願する様な大きな黒い目がこちらを向いていた。

「今回は緊急事態だ。ラジット団長に変わりセレナ、魔法の仕様を許可する。セレナの魔法はまだ秘匿だ。目にした者は他言無用。魔導契約を結んでもらう」
「……」

 アレクサンドロの真剣な様子に、その場に残っていたメンバーは息をのんでセレナを見つめた。視線を集めてしまったセレナは、アレクサンドロの言葉に頷きにっこりと笑うだけだ。そんなセレナの前にルイスが一歩前にでる。その視線の先には真っ黒の目で見つめてくるラルフがいる。

「…お前が回復した頃には、兄貴連れて帰ってきてやるよ」
「大丈夫…全力でいくから…ね」

 力強い言葉を残してセレナとルイスの身体が宙に浮いた。





 魔の森の南側、小屋が忽然と消えたと言われている空き地が見える上空にセレナとルイスが浮かんでいる。聞いていた情報通り小屋の残骸らしきものが、まばらに落ちているのが目につく。木がなぎ倒された後を追う様に視線を向けた。

「すごい嵐だったんだね」
「…だな」

 森を見渡し役割分担をした。上空からルイスと手伝うと出てきた宝瓶宮みずがめ座のエリアス、おおいぬ座のシリウスとこいぬ座のパルムが、地をセレナとスピカがそれぞれ探索を行うのだ。上空にいる者は他にも森で迷っている者がいないかも一緒に探索を行う。

「じゃぁ、そういう事でっ」
「そういう事でじゃなくて、オレもセレナと一緒に」

「だから、ルーは空からっ!!」
『そうよっ 私達の上空から見張ってて、対象を見つけたら詰所に連絡っ!! 役割分担っ!!』

 ルイスはセレナと共に行動すると言ったが、助けを待っているかもしれない人がいるのだ。最短の時間を目指した方がいいに決まっている。それに詰所への連絡も大事な事だ。セレナとスピカに強く言われ、ルイスはしぶしぶ頷いた。ルイスだって、セレナの側にスピカがいるなら大丈夫だとは解っているのだが――。

 街の冒険ギルドのAランクメンバーであるローレンは魔導騎士団のラルフの兄だという。Aランクといえばそれなりに優秀なはずだ。一度要救助者の女児を保護していると連絡があったのだから、2人はともに行動していると思っていいだろう。

 ただ、Aランクだからこそ戻らないことがおかしいので、何かあったと推測される。実際に避難していたと思われる小屋は昨夜の嵐で吹き飛んでしまったいるのだ。ローレンは群青色の髪、中背で筋肉質な体格の男性で片手剣と弓矢を装備しているらしい。そしてラルフの兄という事は獣人という事だ。

 セレナはポケットにしまっていた手袋を取り出し、両手に嵌めた。そしてパンッと手をたたく。さぁ、捜索開始だ。セレナに合わせてスピカも宙を舞う。上を見ればルイスが上空から方向を指示して腕をさしている。

 ルイスの先導に合わせて進みながらスピカの能力で、森の木々と情報を共有する。蒼い髪170程の身長と筋肉のついたしまった体つき、片手剣と弓矢を持っている大人の男性……は、いないらしい。

「どういう事…? 」
『おかしいわね…』

 移動しながらではなかなか集中しずらいと、一度足を止め探索範囲を広げてもらう。セレナも魔力を渡すためにスピカと一緒に木に振れる。

「どお?」
『う~ん…』

 スピカの表情は晴れない。問いに見合う情報が得られないのだろう。セレナは思い当たって質問を変えてみることにする。

「ねぇ、吹き飛んだって言う小屋を、見つけられないかな?」
『…そうねっ……見つけたわ』

 木々との交信の後、スピカの先導でセレナは走り出した。あたりを見渡しているルイスも空からついてきているようだ。そのルイスが何かを見付けたようで上空でスピードを上げ、先に飛んでいってしまう。ルイスが降り立ったであろう目的地に、セレナとスピカも遅れて辿り着いた。
 
 その光景にセレナは息をのんだ。
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