上 下
52 / 95
本章 ――魔導騎士団の見習い団員――

14-2 (ちょっとルイス視点)

しおりを挟む
 女の買い物は長いというが、セレナの買い物が長いのか――。
 ルイスにとっては、その相手がセレナだというなら永遠とついて歩くのも何でもない事、いや割と楽しい事の様だった。表面上は嫌々付き合っている風を装っているが――。

 ――また調理器具か…
 ――あんな狭いキッチンで何作んだ?

 目の前で金色の髪とそれを結わいた瑠璃色のリボンがフワフワと揺れる。ルイスはそれに目を細めながら、手を引かれた方に付いていく。セレナと繋がれていない手には、既に買い物袋が沢山ぶら下がっている。次に入る店は先程の雑貨屋よりも、調理器具の専門的な店の様だ。

 ――リーナ……レナが楽しそうだから、まぁいっか

 部屋にある簡易キッチンはお茶を入れる為のお湯を沸かせるだけに設けられている様で、コンロはひと口でシンクも小さい。だがそのキッチンで朝食をとる者も多いという。朝、食堂が開くのは早朝の訓練の後だからだ。
 それとは別に、妖精と契約している者は契約の報酬の為に己の魔力を込め菓子を作るものも居る。そういう者は厨房をかりる場合もあるし、オーブンを個人で用意する場合もあるようだ。

 ふとそこにあった白く天井が丸くドームの様になった箱を、ルイスの真朱色のつり目が見付けた。思わず手に取って眺めてみるが、扉が付いていてその中に何かを入れ、何かしらの調理をするだろう事しかルイスには解らない。

「…何だ?」

 見せて見せてっと、セレナがルイスの腕を揺する。瑠璃色の大きな目が見つめる先には、ルイスが見つけた他のモノよりも少し小さめのオーブンらしきもの。セレナに強請られる様にセレナの前に見せてやると満足そうにそれをじっくり熟ししている。

「いいわね それっ」

 セレナが目がキラキラと輝いた。

 ――そういや、レナは菓子作るの好きだよな…
 ――あんま甘いものは好きじゃないけど、
 ――案外うまいんだよなっ レナの菓子は
 ――星獣達が喜んでくれるからとか言ってたけど…
 ――作れば、オレにもくれるだろうなっ  くくっ

 幼い頃から自分のしたことで人に喜んでもらう事が大好きだった少女は、そのまま大きくなって今では手すがら菓子を作って、喜んでくれる人に配っている。当たり前のように喜ぶ人の中にルイスも入っている。

 ――そういや、いつもはお菓子ばかりだが、料理もしてみたいって言ってたな
 ――寮の部屋でセレナが食事を作ってくれるなら、
 ――オレは珈琲でも入れれる様になろうか・・・

 当たり前のように、セレナが作るものは自分の口に入ると思っているルイスだ。セレナや、セレナの星獣達はとてもおいしい紅茶を淹れてくれる。同じ土俵では分が悪く、だが珈琲もおいしいよねとわらったセレナを思い出しキョロキョロと珈琲を入れれるものはないかとあたりを見回すルイスだった。

「まえにさぁ、本で読んで何度か妄想したんだけど、一人暮らしって手料理の腕を磨けると思わない?」
「オレは……珈琲、淹れれる様になるから…」

 ん? と首をかしげたセレナだが、ルイスのかみ合わない返答に何か妄想し納得して、嬉しそうに笑った。考えを詠まれたのかと、真朱色のつり目が瑠璃色の大きな目を覗き込んふだ。目が合えば楽しそうに笑い合いじゃぁ、珈琲セットも見て見ようと店の中を移動した。

 気が付けば、珈琲を炒る金属製の篭や、ミル、耐熱性のガラス瓶に、注ぎ口の細くなったポット、ネルのフィルターをセットで頼んでいた。ルイスの火と風の魔法であればむらなく自在に珈琲豆を炒ることが出来そうだ。ルイスの魔法で炒る事を前提に、金属製のネットの篭をオーダーしたのでその辺は注文となってしまった。出来次第寮に届けてくれることになった。

 そしてルイスは、最後に珈琲の本を買った――。

 ――道具揃えて、後から出来なかったとか言えねぇな…
 ――知識はいれとかねぇと…
 
「だっ大丈夫だってっ 意外な才能があるかもよ」

 瑠璃色の目が嬉しそうに弧を描いている。ニコニコと嬉しそうな笑顔だ。不意に手を伸ばしたルイスは、金色の頭を撫でてやった。セレナが抵抗しないのをいい事に、グシャグシャと撫で続けると「やめて―」と非難の声があがり瑠璃色の目がルイスに抗議をむけてきた。

「もうルイスッ!!」
「くくっ」
「こらぁっ!?」
「……直してやるって…くくっ」

 ボサボサになった前髪を整え、そっぽを向いてしまった瑠璃色のリボンを結び直してやると、セレナがいいと言っていたオーブンを会計に持っていった。そこでニコニコと笑っているのは初老の女性だ。孫でも見るかのような視線に、これ頼むとオーブンをその目前に置いた。

「仲良しだねあんたら兄弟かい?」
「……いや」
「違う違う」

 ――仲が良いのはいいが、兄妹と言われるのは心外だ…

 兄弟かと聞かれれば、 絶対に違うのだ 。 では友人かと聞かれればそれもまた何か違う気がする。友人よりもずっと近くにいる存在だ。

 セレナにとってルーはルーであり、ルイスにとってレナはレナである。

 兄弟のようでそうでなくて、でも家族のようで友人というほど遠くもなく親友というのもちょっと違う。一緒にいればホッとするし、楽しくなる。無茶をすれば心配するし、胸が痛くなる。意見が違えば喧嘩もするが、仲直りもする

 ――レナがいれば、どんなことでも頑張れる自分になれるんだ

「にしては仲良しさんだねぇ」
「……幼馴染だからな」

 ――今はまだ、なっ…

 オーブンを持ちやすく包んでくれているおばあさんに、ルイスがポツリと答えた。その声にセレナは頷いた。

「うん 幼馴染っ」

 ――ルーはルーで
 ――ルーは幼馴染で
 ――幼馴染ってルーだけだし…
 ――幼馴染って特別だもんねっ
 
「家族みたいで、友達で、親友よりも仲良くって、特別だもんねっ」

 そうセレナが言いきると、真朱色のつり目が見開かれた。微笑む瑠璃色の目と視線が合うと天井に視線をずらしてしまった。どうしたのとセレナの声がするが顔に熱が集まっていて、ふたたび視線を合わせる事が出来ない。視線を巡らせると、そこに銀色の星が見えた。

「レナ、星型のクッキーの型買ってやるよっ」
「えっうれしいっ」





 陽がすっかり沈んだ頃、結局ルイスだけでなく2人とも両手いっぱいに荷物を抱え帰路についた。帰りもルイスの風魔法で一っ飛びだ。

 部屋で待っていてくれたスピカとシリウスとパルムと、買ってきたのもを一気に片付ける。あっという間にそれが終わると、食堂でルイスがテイクアウトしてくれた夕飯と街の屋台で買ってきたお土産を一緒に食べた。食後に人型になったシリウスが淹れてくれた紅茶をみんなで飲んでいると、ふと気が付いた。

「あっ!! 今日の寝床どうしよう?」

 そこにないものを届かないと駄々をこねても仕方ない。ルイスがベッドを使っていいと言っていたが、持ち主を追い出すのも忍びなく、ルイスのベッドは部屋に合わせてシングルサイズで一緒に寝る事もできなそうだった。

 仕方ないと星の友人の星獣の毛皮をベッド代わりにするといったら、ルイスもそっちの方がいいと結局同じ部屋で寝ることとなった。星獣の毛皮に包まれ、2人はしっかり睡眠を確保した。


 ルイスはいつ自室に帰るのか――




*


 夜遅く、魔導騎士団の扉が静かに開いた。入って来た男の帰りを待ったいたオレンジ頭はカタンと音を立てて椅子から立ち上がった。

「……団長…」

苦虫を噛み潰した様な表情の男に、団長と呼ばれた男は脱いだ外装を渡しながらにっこりと微笑んだ。ちらりと見えた団長と呼ばれた男の額が目に入った。そこには古傷となった火傷の痕があったはずだった。

「とびっきりのいいでしょ?」
「はぁ……とびっきりの逸材でしょうね」

魔導騎士団長の執務室へと歩きながら、言葉を交わす。

「古い知り合いの子でね……頭もよくて正義感も強い。それに、うちの問題児のお目付け役にぴったりだろ?」
「……まぁ、確かに、あの子といるルイスは人が変わった様に世話焼きで、温厚になります。それに、よく喋りますね」
「昔っからな、あの暴れん坊の……大切な、大切な……お姫様だからねぇ…」

意味深に微笑むラジット。その少し後ろを歩きながらアレクサンドロは深いため息を落とした。

「……問題児が、増えなきゃいいんですけどね…」
「あぁ……そう言うことも、あるのか…」

並んで歩く2人は揃って窓の外、暗闇に輝く星を眺めた。肩から力を抜いた2人は、揃って歩き始めた。

「大体、問題児はルイスだけとは限らないですからね」
――――――――――――――――――――――――――――――――
お疲れ様です。毎度まとまりなくって内容ないですね。すみません。
モー子の妄想垂れ流しに付き合ってくださりありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...