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閑話①
閑話ーちいさなヒーロー③ー
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「リーナー!」
そこへ、大好きな声が聞こえてきた。その声はいつでも、セリーナを温かくしてくれる。暗闇に差す一筋の光の様に、セリーナをホッとさせた。
――でも、ここにいるわけない……
「リーナッ!!」
「え!?」
声のする方――セリーナのいる木の下――へと振り返ると、そこには馬に跨った朱色の頭が大小1つづつ見える。
「今日、隣国から戻ったんだっ リーナの好きな焼き菓子持ってきたぞっ」
「そこ、眺めよさそうだなぁ」と明るい声が下から上がってくる。朱色の髪の少年ルードヴィヒは軽々と木を登ってくる。
「父上は、街に頼まれてたもの届けに行くから、それまでそっちにいっていいだろっ?」
何やら袋を背負って登ってくるルードヴィヒの声は、なんだかご機嫌であった。すぐにセリーナの位置までくると、どうせなら上まで行こうと誘い、小さな2人は大きな屋敷も見下ろせる高い木の上の方までやってきてしまった。そこまでも登ってきても、この大きな木はビクリとも揺れず2人を守っているとでもいうように堂々と立っている。
「父上が、こうやるといいって……」
「ルー?」
「まぁ見てろって」
ブツブツと呟きながらルードヴィヒは柔らかい木の枝としっかりした木の枝らを結び合わせあっという間に木のベッドの様なものを作ってしまった。
「ほらっ」
お子様2人が収まるちょうどいい大きさを確保すると、背負ってきた袋から次々と土産を取り出したルードヴィヒは、セリーナの顔を覗き込み、ニッ笑って服の袖でセリーナの目元をぬぐってくれた。
「……これ新作でなっ、リーナが好きな味だと思うんだっ」
そう言って手渡された菓子を受け取ると、セリーナは勧められるがままひと口、かじり付いた。
「……うん、おいしいね」
「だろっ」
朱色の髪よりも少し濃い色の大きなつり目が、弧を描くように細められ、伸びてきた暖かい小さな手がリーナの頬をかすめ、頭を撫でてくれる。
「お…い……しい」
「あぁ…そうだなっ」
ただ傍らに座り、土産で持ってきてくれたお菓子を黙々と2人で食べ続けた。不意にポロポロと流れ落ちる透明な雫を、ルードヴィヒは何も言わずに服の袖で拭ってくれた。
「ルーはいつでも優しいね」
「……そうか?」
「うん だってここに居てくれるもん」
「まぁなっ 喋るのは苦手だけど、隣に座ってることはできるからなっ」
隣国で見聞きした土産話を聞かせ、セリーナの話を聞き、喉が渇けば土産で持ってきたフルーツを二人で分け合い、涙の引っ込んだリーナはルードヴィヒの傍らで眠り込んでしまったのだった。
セリーナが眠り込むと、ルードヴィヒは同い年の子の頭を優しく撫でてやった。自分も決して恵まれた家族環境ではない。だが、自分もセリーナも大事にされている事は分っているし、家族を大事にしたくて我慢だって当たり前の事だと思っている。それが普通なんだ。
――でも、時々苦しくなっちゃうんだよな…
――ましてやリーナの親は会える場所にいるのに、会えないんだもんな…
――もしかしたら今日は会えるかもしんないって、諦めきれないよな…
――って、なんだか下が騒がしいな……っ!!
木の下の方から自分とリーナを呼ぶ父親の声がルードヴィヒの耳に届いた。
――オレには母上はいないけど、父上がいつだっていてくれるからな…寂しくなんてないんだ。でも……
「父上~」
父親を呼ぶと、その本人が風の魔法に乗って目の前まで浮かんできた。
「なんだい? 寝てしまっていたのかリーナは……皆、探しているから行こう」
*
一晩経つと、ケロリとした顔で元気いっぱいにふるまうセリーナがいた。遊びに来てくれた幼馴染のルードヴィヒはヒューバートが帰ってくるまで邸に留まってくれるという。
それを聞いてセリーナは、泣きそうな顔でにっこりと笑っていた。その手をルードヴィヒがギュっと握ってやっている。
「リーナ、明日は星の森に行こうなっ」
「えっ……いいの? あたしは、行きたいと思ってたけどっ」
――あそこには、リーナを一番に思ってくれてる奴等がいるから…
だからこそ普段リーナの元を訪れる時ルードヴィヒは、極力星獣の森には近づかない様にしていた。
――あいつ等、いつもリーナの隣を取り合いするからな…
――ベタベタ触るし、なんかむかつくんだよな…
――でも…リーナには必要だ……
*
*
*
――聡いが少し鈍い我らの姫様は、人に甘えることをわがままだと勘違いしておられるからな…
――星獣の姫という存在は、わがままを抑制して育てられる傾向にある
――星獣が姫に対して盲目過ぎるのが原因ともいえるが、そもそも星獣の姫と呼ばれる者は、家族との縁が薄く、孤独な生い立ちが多いのだ…
――我等が少々守ってしまうのは致し方ないと思われるのだが…
――少しのわがままを咎められ、甘えられる親は側にはおらず、セリーナ姫様は我等がお側に居てもたいしたわがままは、言ってくださらない
――ただひとり、リーベルタス坊ちゃんのお子であるルードヴィヒぼっちゃまだけには年相応に、わがままを言い、甘えられ甘やかし、素直にお泣きになる
――そして、先代の姫であるカーラ様より星の加護を得たお子とお孫様は、我々にとっても愛しき人間であるのだから…
「姫様を、しっかり守ることですルー坊ちゃま」
そこへ、大好きな声が聞こえてきた。その声はいつでも、セリーナを温かくしてくれる。暗闇に差す一筋の光の様に、セリーナをホッとさせた。
――でも、ここにいるわけない……
「リーナッ!!」
「え!?」
声のする方――セリーナのいる木の下――へと振り返ると、そこには馬に跨った朱色の頭が大小1つづつ見える。
「今日、隣国から戻ったんだっ リーナの好きな焼き菓子持ってきたぞっ」
「そこ、眺めよさそうだなぁ」と明るい声が下から上がってくる。朱色の髪の少年ルードヴィヒは軽々と木を登ってくる。
「父上は、街に頼まれてたもの届けに行くから、それまでそっちにいっていいだろっ?」
何やら袋を背負って登ってくるルードヴィヒの声は、なんだかご機嫌であった。すぐにセリーナの位置までくると、どうせなら上まで行こうと誘い、小さな2人は大きな屋敷も見下ろせる高い木の上の方までやってきてしまった。そこまでも登ってきても、この大きな木はビクリとも揺れず2人を守っているとでもいうように堂々と立っている。
「父上が、こうやるといいって……」
「ルー?」
「まぁ見てろって」
ブツブツと呟きながらルードヴィヒは柔らかい木の枝としっかりした木の枝らを結び合わせあっという間に木のベッドの様なものを作ってしまった。
「ほらっ」
お子様2人が収まるちょうどいい大きさを確保すると、背負ってきた袋から次々と土産を取り出したルードヴィヒは、セリーナの顔を覗き込み、ニッ笑って服の袖でセリーナの目元をぬぐってくれた。
「……これ新作でなっ、リーナが好きな味だと思うんだっ」
そう言って手渡された菓子を受け取ると、セリーナは勧められるがままひと口、かじり付いた。
「……うん、おいしいね」
「だろっ」
朱色の髪よりも少し濃い色の大きなつり目が、弧を描くように細められ、伸びてきた暖かい小さな手がリーナの頬をかすめ、頭を撫でてくれる。
「お…い……しい」
「あぁ…そうだなっ」
ただ傍らに座り、土産で持ってきてくれたお菓子を黙々と2人で食べ続けた。不意にポロポロと流れ落ちる透明な雫を、ルードヴィヒは何も言わずに服の袖で拭ってくれた。
「ルーはいつでも優しいね」
「……そうか?」
「うん だってここに居てくれるもん」
「まぁなっ 喋るのは苦手だけど、隣に座ってることはできるからなっ」
隣国で見聞きした土産話を聞かせ、セリーナの話を聞き、喉が渇けば土産で持ってきたフルーツを二人で分け合い、涙の引っ込んだリーナはルードヴィヒの傍らで眠り込んでしまったのだった。
セリーナが眠り込むと、ルードヴィヒは同い年の子の頭を優しく撫でてやった。自分も決して恵まれた家族環境ではない。だが、自分もセリーナも大事にされている事は分っているし、家族を大事にしたくて我慢だって当たり前の事だと思っている。それが普通なんだ。
――でも、時々苦しくなっちゃうんだよな…
――ましてやリーナの親は会える場所にいるのに、会えないんだもんな…
――もしかしたら今日は会えるかもしんないって、諦めきれないよな…
――って、なんだか下が騒がしいな……っ!!
木の下の方から自分とリーナを呼ぶ父親の声がルードヴィヒの耳に届いた。
――オレには母上はいないけど、父上がいつだっていてくれるからな…寂しくなんてないんだ。でも……
「父上~」
父親を呼ぶと、その本人が風の魔法に乗って目の前まで浮かんできた。
「なんだい? 寝てしまっていたのかリーナは……皆、探しているから行こう」
*
一晩経つと、ケロリとした顔で元気いっぱいにふるまうセリーナがいた。遊びに来てくれた幼馴染のルードヴィヒはヒューバートが帰ってくるまで邸に留まってくれるという。
それを聞いてセリーナは、泣きそうな顔でにっこりと笑っていた。その手をルードヴィヒがギュっと握ってやっている。
「リーナ、明日は星の森に行こうなっ」
「えっ……いいの? あたしは、行きたいと思ってたけどっ」
――あそこには、リーナを一番に思ってくれてる奴等がいるから…
だからこそ普段リーナの元を訪れる時ルードヴィヒは、極力星獣の森には近づかない様にしていた。
――あいつ等、いつもリーナの隣を取り合いするからな…
――ベタベタ触るし、なんかむかつくんだよな…
――でも…リーナには必要だ……
*
*
*
――聡いが少し鈍い我らの姫様は、人に甘えることをわがままだと勘違いしておられるからな…
――星獣の姫という存在は、わがままを抑制して育てられる傾向にある
――星獣が姫に対して盲目過ぎるのが原因ともいえるが、そもそも星獣の姫と呼ばれる者は、家族との縁が薄く、孤独な生い立ちが多いのだ…
――我等が少々守ってしまうのは致し方ないと思われるのだが…
――少しのわがままを咎められ、甘えられる親は側にはおらず、セリーナ姫様は我等がお側に居てもたいしたわがままは、言ってくださらない
――ただひとり、リーベルタス坊ちゃんのお子であるルードヴィヒぼっちゃまだけには年相応に、わがままを言い、甘えられ甘やかし、素直にお泣きになる
――そして、先代の姫であるカーラ様より星の加護を得たお子とお孫様は、我々にとっても愛しき人間であるのだから…
「姫様を、しっかり守ることですルー坊ちゃま」
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