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本章 ――魔導騎士団の見習い団員――

11、クラーワ王国魔導騎士団

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 魔物は、命あるモノの淀みから生まれるといわれている。王都近くの魔の森や峠、洞窟などは要注意とされているが、いってしまえば生さえあればどこでも発生するともいえる。さすがに結界の張られている王都内で発生したという事態は今まで報告にあがっていないようだ。魔の森に隣接する王城の北西側でさえ結界内であれば安全と言える。結界を1歩出てしまえば、言わずもがなであるのだが。

 魔物の発生が身近なところにある為か、この王国に生活する者達は戦う術を学ぶ者が多くいる。ある者は拳や剣を磨き、ある者は癒しを学び、ある者は知恵を練る。
 更に、魔力のある者は魔法を磨いた。質のいいエレメントの湧くこの国には、殆どの民が魔力を持って生まれてくる為、幼少から魔法を学び生活に魔法が用いられることは多い。だが、闘うためにはより多くの魔力と才能、知識、忍耐が必要とされ、その数は多くはない。
 そうして王国の人々は、互いを補いあって生きていくのだ。

 クラーワ王国では魔力を多く持つ者を保護し、魔法を磨いている。集め鍛え上げ中からより優秀な魔導士から魔導騎士団なるものを古くからつくっている。

 その魔術の精鋭が集まる魔導騎士団の戸を、1人の娘が叩いた。
朝陽を浴びた年頃の娘の金色の髪は、光をまとい輝きを増している。柔らかい風がその見事な金糸と、娘の金糸を結わいた瑠璃色のリボンをふわりと揺らした。

「……えと、おじゃまします……アレクさんいらっしゃいます?」

 門番に案内してもらいたどり着いた魔導騎士団の本部。少し手前で別れた門番の騎士は勝手に入っていいと言っていた。簡単に開いてしまった扉の中に滑り込むと、娘は建物の中を見渡した。

 天井の高い作りに、腰の位置くらいまでの壁は板張りで、その上部は均等感覚に光を取り込む大きな窓。深く茶色い板はオークの木だろう。板の無い壁や天井は白い漆喰が塗られていて、広い空間には木製の柱が点在し建物を支えている。並べられている木製のテーブルとイス。カウンターもあり、その先には厨房らしい空間が見て取れる。食事を提供しているであろうこのホールはこの建物の中心なのかもしれない。奥には階段や扉が数個あり、事務所と書かれた札や医務室と書かれた札がかけられている。階段はオープンスペース――そこにもテーブルと椅子がある――の2階に繋がるものと、上階に繋がるものがあるようだ。

 カウンターに座って朝食を食べていた様子の体格のいい男が、セレナの声を聴きふり返った。昨日駅の出口で幼馴染をさらった男とよく似たオレンジ色の髪の男だった。


* 






「それでは、お嬢さんはこの騎士団に所属したいと?」

 目の前に座るのは、引き締まった筋肉を持ち、体格が良く、年上のように感じるオレンジ色の髪の青年。青年は翡翠のようなグリーンの目を細めてセレナを見る。その手にはセレナが手渡したこの魔導騎士団の団長からの推薦が書かれたメモの切れ端が渡されている。アレクへと書かれた其の一枚のメモを目にした時のこの男の表情は、とっても微妙なものだったのは言うまでもない。

 ――思いっきり溜息付いたもんね……
 ――『今度はなんだ…』とか言ってたけど……、
 ――ラジット小父様、いつもこんな事してるのかしら?

 本来書いてくれてた正式に扱ってくれそうな入団許可書を破いて改めて推薦文を書いてくれたのだが、そうと知らなければその辺のメモに適当に書いたようにも見える。そう受け取られてしまった場合、そのメモは若い娘に強請られてラジットが適当に書いてやったもので、本気では無いモノと捉えられ兼ねないかもしれないのだ。目の前の男の目は、熱を灯さない呆れた色を乗せている。

「ええ」

 ――普段通りだと月に一度の入団試験らしいから…
 ――特別にすぐに入団テストを受けられるようにって書いてもらったけど……
 ――普通に門をたたいた方がよかったのかなぁ…

 けしてバカにしているのではないと思いたい目の前の男からの視線に、セレナはにっこりと笑みを返した。その余裕とも、考え無しともとれるセレナの笑みにオレンジ頭の男は余計に表情を歪めた。

 ――ひやかしか、本気か…
 ――いや、団長の冗談という可能性も…
 ――もしかしたら、この娘の実力を見極められるか自分を試しているのかっ!?
 ――それか、誰かが化けているとか!?

 オレンジ頭の男の目の前にいるのは、何とも線も細く華奢なお嬢さんだ。その上肌の色も白い。とてもではないが体を鍛えているとは思えない。本気にはとても見えないのかもしれない。男の視線はセレナを探っているのだろう。

 ――いやぁ……
 ――どこをどう見ても、ふつうのお嬢さんだよなぁ…
 ――ともすれば、箱入りのお嬢さんだ
 ――でもなぁ……確かに団長の文字だし、残存する魔力も団長のものだ…
 ――う~ん……もう少し、様子をみてみるか?

セレナから渡されたただのメモの様な紹介状を掲げてみたり、曲げてみたり、逆さに持ってみたり、いろいろして、オレンジ頭の男の翡翠の目は訝し気に細まったったままだ。

 ――大抵の厄介事はオレに押し付けんだもんなぁ……団長恨みますよぉ~

「……はぁ…で、お嬢さんはどんな獲物でと戦うんですかね?  あぁ後、お名前をうかがっても?」



 翡翠の目は細めたまま、片方の眉だけ吊り上げたその表情は、やはりバカにしているのかもしれない。
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