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とある騎士の話
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その騎士は、万騎士と呼ばれる栄誉、名声、実力を兼ね備えている男だった。
もはや聖女とは呼べそうにない女の命令で――といっても伝って伝って伝って、王から直接受けただけなのだが――新緑の森にいた。
強い魔物もいるが、騎士はたった一人で跳ねのけていた。
次々と現れる魔物を斬り伏せながら、騎士は考える。
(俺はこれでいいのか)
騎士はスラム出身だった。
偶然に才を見込まれ、先代の万騎士に救われ、そして育った。
騎士は守るため、当代の万騎士となった。
なのに、今回受けた命令はたった一人の女を殺すこと。
理由は勇者パーティーに入れない聖女の嫉妬。もちろん、勇者パーティーが結成できなければ種の存続の問題であるから、という仰々しい名目なんてものが建前なのだが。
騎士は頭が回るほうではない。
故に、今回の不名誉ともとれる命令も受けた。
しかしながら、考えることはしている。だから、奇妙な感覚も覚えていた。
そんな中であった。
周囲に影ができていた。
騎士が見上げると、巨大なドラゴンがいた。
ドラゴンは爬虫類に属するギョロリとした黄金色の目で騎士を見た。
「変な感じがすると思ったが、なんだ貴様は?」
「……黒龍王!」
騎士は剣を正眼に構えた。
だが、心の奥底では理解していた。
この生物には敵わないと。
逃げる算段を頭に入れる。だが――敵意を向けたことにより騎士は大地や木々と共に一瞬で吹き飛ばされた。
ふと。
騎士が目を開いた。
もう開くことはないだろうと思っていた目がぱっちりと開いた。
見たことのない天井だった。
ギリギリ雨漏りがしないだろう程度の天井だった。
「なぁなぁ~いいだろー? ちょこっと城に行くだけだから! そうしたら気に入ってくれると思うだがなぁー?」
そんな声がした。
騎士は周囲に気配を辿った。
影は二つだった。
どちらも恐ろしく魔力が高かった。
一つは、人の形になった、騎士を倒したドラゴンだ。
もう一つは……寝込んでいる騎士の方に向かってきている。
「だーかーら、いやですって。……あ、目覚めました? ごめんなさいね、ドラゴンさんが襲ってしまって」
眉をひそめながらドラゴンに行っていた女の顔が、騎士の顔を見たとたんに申し訳なさそうになった。
騎士は疑問に思った。
「なぜ……おまえがあやまる」
「私がいなければ、ドラゴンさんはここには来ませんから」
「……おまえがいなければ、俺はここには来なかった」
「?」
騎士の言い分に、しかし『魔女』は首を傾げた。
魔女は騎士の額に置いてあったタオルを取り、タライにつけて絞り、もう一度額に置いた。
「……俺はどうして……」
不意に、騎士は口にした。
どうしておまえを討つという命を受けてしまったのか。と。
魔女はいまいち把握できなかったが、続きを言おうとしない騎士に答えた。
「自分らしくやればいいと思いますよ、よく分からないですが」
魔女からすれば、騎士はどうやら自分の道を想っているようだった。
だからそう答えた。
ハッと、騎士は目を見開く。
そしてはにかむように笑った。
「そうだな……そうだな……」
何度も同じ言葉を反芻する。
騎士は、自分を救ってくれた師匠のようになりたくて、万騎士となった。
だから自分も人を救えるようになろう、そう思った。
騎士は魔女に礼を言って、身体の痛みも忘れて城に戻った。
もはや聖女とは呼べそうにない女の命令で――といっても伝って伝って伝って、王から直接受けただけなのだが――新緑の森にいた。
強い魔物もいるが、騎士はたった一人で跳ねのけていた。
次々と現れる魔物を斬り伏せながら、騎士は考える。
(俺はこれでいいのか)
騎士はスラム出身だった。
偶然に才を見込まれ、先代の万騎士に救われ、そして育った。
騎士は守るため、当代の万騎士となった。
なのに、今回受けた命令はたった一人の女を殺すこと。
理由は勇者パーティーに入れない聖女の嫉妬。もちろん、勇者パーティーが結成できなければ種の存続の問題であるから、という仰々しい名目なんてものが建前なのだが。
騎士は頭が回るほうではない。
故に、今回の不名誉ともとれる命令も受けた。
しかしながら、考えることはしている。だから、奇妙な感覚も覚えていた。
そんな中であった。
周囲に影ができていた。
騎士が見上げると、巨大なドラゴンがいた。
ドラゴンは爬虫類に属するギョロリとした黄金色の目で騎士を見た。
「変な感じがすると思ったが、なんだ貴様は?」
「……黒龍王!」
騎士は剣を正眼に構えた。
だが、心の奥底では理解していた。
この生物には敵わないと。
逃げる算段を頭に入れる。だが――敵意を向けたことにより騎士は大地や木々と共に一瞬で吹き飛ばされた。
ふと。
騎士が目を開いた。
もう開くことはないだろうと思っていた目がぱっちりと開いた。
見たことのない天井だった。
ギリギリ雨漏りがしないだろう程度の天井だった。
「なぁなぁ~いいだろー? ちょこっと城に行くだけだから! そうしたら気に入ってくれると思うだがなぁー?」
そんな声がした。
騎士は周囲に気配を辿った。
影は二つだった。
どちらも恐ろしく魔力が高かった。
一つは、人の形になった、騎士を倒したドラゴンだ。
もう一つは……寝込んでいる騎士の方に向かってきている。
「だーかーら、いやですって。……あ、目覚めました? ごめんなさいね、ドラゴンさんが襲ってしまって」
眉をひそめながらドラゴンに行っていた女の顔が、騎士の顔を見たとたんに申し訳なさそうになった。
騎士は疑問に思った。
「なぜ……おまえがあやまる」
「私がいなければ、ドラゴンさんはここには来ませんから」
「……おまえがいなければ、俺はここには来なかった」
「?」
騎士の言い分に、しかし『魔女』は首を傾げた。
魔女は騎士の額に置いてあったタオルを取り、タライにつけて絞り、もう一度額に置いた。
「……俺はどうして……」
不意に、騎士は口にした。
どうしておまえを討つという命を受けてしまったのか。と。
魔女はいまいち把握できなかったが、続きを言おうとしない騎士に答えた。
「自分らしくやればいいと思いますよ、よく分からないですが」
魔女からすれば、騎士はどうやら自分の道を想っているようだった。
だからそう答えた。
ハッと、騎士は目を見開く。
そしてはにかむように笑った。
「そうだな……そうだな……」
何度も同じ言葉を反芻する。
騎士は、自分を救ってくれた師匠のようになりたくて、万騎士となった。
だから自分も人を救えるようになろう、そう思った。
騎士は魔女に礼を言って、身体の痛みも忘れて城に戻った。
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