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06:影の薄い主人公

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「ところでヨハン、レイの能力と加護について話してくれないか」
 ヨハンのこゆ~い来歴によって陰に隠れてしまっていたが、レイハルトの能力もこの世界では稀有なものであることには間違いない。領主として、もとより父として知っておかなければなるまい。大事なことを忘れかけていたフェリクスは気を取り直してヨハンに尋ねた。
「はい、少々話が逸れてしまいましたがレイ坊ちゃまはこの世界で片手の数ほどしか存在しない全属性の適性があるお方です。また、加護については数は少ないものの創造神の加護をお持ちです。これがどのようなものなのか、私にはわかりかねます」
「その加護を持っている人物を知っているか」
「いえ、私がこれまでお会いした方の中にはいらっしゃいません。おそらく、この加護はレイ坊ちゃまのみお持ちなのだと思います」
 全属性持ちはこの世界にいないわけではない。ありえないことではないので驚きつつも納得したフェリクスであったが〝創造神の加護〟という見たことも聞いたこともない加護には困惑せざるを得なかった。ましてそれがどのような加護であるのか、ヨハンでさえわからないのだ。良い効果をもたらす加護であることを祈るしかない。これは王都の神器しんきで見てみるしかないだろう。そう考えたフェリクスは息子の加護と能力については10歳の検査を迎えるまで静観することにした。
「旦那様、これは私の推測ですが、この加護は坊ちゃまに恩恵をもたらすものだと思われます」
「なぜそう思う」
「神々は今でこそあまり人々の前に現れませんが、遠い昔まだ文明があまり発達していなかった時代にはよく人々に神託と称して助言を与えていたそうです。そのような神ですから、理由は量りかねますが坊ちゃまに良いことをもたらすのではないでしょうか」
「……そうだな」
 この世界での神は想像のものではなく実際にいるものと知られている。創造神をはじめ各属性の頂点である神や多様な神々が存在する。神として人々を手助けし、時には試練を与えることもある。また、各々が気に入った者には自ら姿を現し加護を与えることもある。そのようにこの世界で神というのは身近なものなのだ。もちろん、おいそれと姿を見ることはできない。しかし、昔ほどではないものの人々は何かしら恩恵を受けて暮らしている。そんな神の頂点である創造神がわざわざ害ある加護を与えるわけがない。そうヨハンは考えていた。
「ところで旦那様、最初に申し上げたレイ坊ちゃまの魔法訓練についてですが、許可をいただけますでしょうか」
 常にはうかがい知れない、はやる気持ちを抑え切れないといったような面持ちで尋ねた。
「ああ、いいぞ。王宮の教育係をしていたお前なら良くやってくれるだろう。ただし、加護については未知な部分が多い。何かあったらすぐ私に知らせてほしい」
「お任せいただきありがとうございます。このヨハン、坊ちゃまを立派な魔法使いになれるよう全身全霊でお教えいたします!」
「よはん、おちちゅいて」
 影も薄く黙って聞いていたが、やる気に満ち溢れ鬼気迫るヨハンに少々引き気味なレイハルトであった。
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