雨の境界

ちさめす

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櫛風沐雨

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(四月)

 その日の夜。

 お風呂から上がった私はベットに倒れ込む。

 ――あの言い伝えは本当だったんだ……。

『分かつ雨時、異界の門は開かれん。すなわちそれは雨の境界なり』

 パパやママがいうには何世代も前から続く言い伝えだという。

 ――よくわかんないけど雨星は私のせいで帰れなくなったみたいだし、私が帰してあげなくちゃいけないんだね。

 雨星は雨が止むと透けるように消えていった。雨星は雨の王子様といい雨が止むと生きられないらしい。だから次の雨が降るまでは私の中に入り込み、再び雨が降るのを待つという。

 ――中に入り込むってどういうことなんだろう……。

 予報では次の木曜日が雨とのことだった。

 ◇

 木曜日。

 どうやら昼過ぎから一雨くるらしく、空は朝から曇っていた。

 私は梨花に雨星のことを話した。最初は発想がファンタジーだと馬鹿にはされたけど必死の説得で何とか話は聞いてもらえた。

「その雨星っていう人は雨が降れば見えるようになるんだよね?」

「そうはいってたんだけどね、私にも正直よくわかんない……」

「え~そりゃ困るよ~! せっかくなら私もその王子様を見たいんだからさあ! それにやっぱりこの目で見るまでは信じきれないし」

「そりゃそうだよねえ……」

 私は空を見上げる。

 ――雨、降るといいな。

 ◇

 体育の授業が始まった。

 この日の授業は男女別のサッカーで、グラウンドを半分にわけそれぞれで人数不足の試合が行われた。

 雨が降り出したのはキックオフから十分ほど経ってからだった。

 ぽつぽつと降る小雨でだった。

 風もなくこの程度の雨ならサッカーは中断するまでもないという先生の判断によって授業は継続された。

 そして、空から降る雨が私の肌に落ちた。

 ―――――――。

 ――来た! この声は雨星!

「……雨星、雨が降ってきたよ? ほら! 早く出てきて」

 私はコート内で独り呟く。

 ―――――――!

「雨星?」

 ―――――――!

「どうしたの? 雨星、雨が降ってきたよ? 出てきてよ!」

 ―――――――!

 雨星が何をいっているのかわからなかった。

 少し遠くのポジションにつく梨花は両手を広げ空を眺めていた。雨星が出てきてくれないと梨花に会わせられない。

 ――前のように出てこないのはどうしてだろう……。

 ―――――――!

 ――何ていってるのかわからないよ……!

 その時――。

 ゴロゴロと雷が鳴り響いた。先生や他の生徒と同じように私は空を見上げる。急にザーっと強い雨が降りはじめた。

 先生は大声で叫ぶ。「避難しろ!」

 みんなは校舎に駆け込んだ。私も頭を手で覆いながら校舎まで急いでいると、「ふう! やっと強い雨が降ってくれたな!」と。

 立ち止まり振り返ると、そこには雨星がいた。

 ◇

 校舎前の屋根のある一角で先生は空を見上げた。他の生徒は思い思いに友達と話している。

 私は梨花に雨星を紹介した。

「梨花! 雨星だよ! 雨星が来てくれたよ!」

「え? どこどこ!?」

「ほらここに!」

 手で示したが、梨花は雨星を見つけることができなかった。

 雨星はいう。「僕は『境界を跨いだ』君にしか見えないんだ」と。

 私は落胆し梨花にそのことを伝えた。からかってるつもりも嘘をついてるつもりもないことを察してくれたのか梨花は一つ返事で「わかった」とこたえた。

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