5 / 9
櫛風沐雨
しおりを挟む(四月)
その日の夜。
お風呂から上がった私はベットに倒れ込む。
――あの言い伝えは本当だったんだ……。
『分かつ雨時、異界の門は開かれん。すなわちそれは雨の境界なり』
パパやママがいうには何世代も前から続く言い伝えだという。
――よくわかんないけど雨星は私のせいで帰れなくなったみたいだし、私が帰してあげなくちゃいけないんだね。
雨星は雨が止むと透けるように消えていった。雨星は雨の王子様といい雨が止むと生きられないらしい。だから次の雨が降るまでは私の中に入り込み、再び雨が降るのを待つという。
――中に入り込むってどういうことなんだろう……。
予報では次の木曜日が雨とのことだった。
◇
木曜日。
どうやら昼過ぎから一雨くるらしく、空は朝から曇っていた。
私は梨花に雨星のことを話した。最初は発想がファンタジーだと馬鹿にはされたけど必死の説得で何とか話は聞いてもらえた。
「その雨星っていう人は雨が降れば見えるようになるんだよね?」
「そうはいってたんだけどね、私にも正直よくわかんない……」
「え~そりゃ困るよ~! せっかくなら私もその王子様を見たいんだからさあ! それにやっぱりこの目で見るまでは信じきれないし」
「そりゃそうだよねえ……」
私は空を見上げる。
――雨、降るといいな。
◇
体育の授業が始まった。
この日の授業は男女別のサッカーで、グラウンドを半分にわけそれぞれで人数不足の試合が行われた。
雨が降り出したのはキックオフから十分ほど経ってからだった。
ぽつぽつと降る小雨でだった。
風もなくこの程度の雨ならサッカーは中断するまでもないという先生の判断によって授業は継続された。
そして、空から降る雨が私の肌に落ちた。
―――――――。
――来た! この声は雨星!
「……雨星、雨が降ってきたよ? ほら! 早く出てきて」
私はコート内で独り呟く。
―――――――!
「雨星?」
―――――――!
「どうしたの? 雨星、雨が降ってきたよ? 出てきてよ!」
―――――――!
雨星が何をいっているのかわからなかった。
少し遠くのポジションにつく梨花は両手を広げ空を眺めていた。雨星が出てきてくれないと梨花に会わせられない。
――前のように出てこないのはどうしてだろう……。
―――――――!
――何ていってるのかわからないよ……!
その時――。
ゴロゴロと雷が鳴り響いた。先生や他の生徒と同じように私は空を見上げる。急にザーっと強い雨が降りはじめた。
先生は大声で叫ぶ。「避難しろ!」
みんなは校舎に駆け込んだ。私も頭を手で覆いながら校舎まで急いでいると、「ふう! やっと強い雨が降ってくれたな!」と。
立ち止まり振り返ると、そこには雨星がいた。
◇
校舎前の屋根のある一角で先生は空を見上げた。他の生徒は思い思いに友達と話している。
私は梨花に雨星を紹介した。
「梨花! 雨星だよ! 雨星が来てくれたよ!」
「え? どこどこ!?」
「ほらここに!」
手で示したが、梨花は雨星を見つけることができなかった。
雨星はいう。「僕は『境界を跨いだ』君にしか見えないんだ」と。
私は落胆し梨花にそのことを伝えた。からかってるつもりも嘘をついてるつもりもないことを察してくれたのか梨花は一つ返事で「わかった」とこたえた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――
黒鯛の刺身♪
SF
毎日の仕事で疲れる主人公が、『楽な仕事』と誘われた宇宙ジャンルのVRゲームの世界に飛び込みます。
ゲームの中での姿は一つ目のギガース巨人族。
最初はゲームの中でも辛酸を舐めますが、とある惑星の占い師との出会いにより能力が急浮上!?
乗艦であるハンニバルは鈍重な装甲型。しかし、だんだんと改良が加えられ……。
更に突如現れるワームホール。
その向こうに見えたのは驚愕の世界だった……!?
……さらには、主人公に隠された使命とは!?
様々な事案を解決しながら、ちっちゃいタヌキの砲術長と、トランジスタグラマーなアンドロイドの副官を連れて、主人公は銀河有史史上最も誉れ高いS級宇宙提督へと躍進していきます。
〇主要データ
【艦名】……装甲戦艦ハンニバル
【主砲】……20.6cm連装レーザービーム砲3基
【装備】……各種ミサイルVLS16基
【防御】……重力波シールド
【主機】……エルゴエンジンD-Ⅳ型一基
(以上、第四話時点)
【通貨】……1帝国ドルは現状100円位の想定レート。
『備考』
SF設定は甘々。社会で役に立つ度は0(笑)
残虐描写とエロ描写は控えておりますが、陰鬱な描写はございます。気分がすぐれないとき等はお気を付けください ><。
メンドクサイのがお嫌いな方は3話目からお読みいただいても結構です (*´▽`*)
【お知らせ】……小説家になろう様とノベリズム様にも掲載。
表紙は、秋の桜子様に頂きました(2021/01/21)
魔法犯罪の真実
水山 蓮司
SF
~魔法犯罪~
現代社会において数多くの技術が発展し、人々の日常生活を支えているネットワーク。
そのネットワークと共に少しずつ人類にも変化が見られてきている。
生まれながらにして天性の才能で幼少期から使える人がいれば、数か月から数十年と個人の能力によって体得する人がいるといわれる『魔法』である。
その魔法によって人間にとって更に新しく促進していき技術を編み出していこうと前向きに考える人がいる一方、これを異なる方法で用いて利益を得ようと悪用して犯罪を企む組織や集団がいるこの現代社会である。
その犯罪を未然に防ぐために、警視庁の最高位である警視総監が独立組織を設立して選抜されし者がその犯罪に立ち向かう。
あらゆる犯罪に立ち向かう中には、文字通り命懸けの任務が含まれているが、それをものともせずこなしていく精鋭を揃えて事件を一掃していく。
人々にも様々な力が備わり多方面で作用し、一層目まぐるしく変化する世界の中で今、日常で起こる犯罪、魔法によって起こる犯罪、その両局面で巻き起こる犯罪の追求、精鋭メンバーが織りなす心理追求アクションがここに開幕する。
ファントム オブ ラース【小説版】
Life up+α
SF
「俺には復讐する権利がある。俺は怪物も人間も大嫌いだ」
※漫画版とは大筋は同じですが、かなり展開が異なります※
アルファポリスの漫画版【https://www.alphapolis.co.jp/manga/729804115/946894419】
pixiv漫画版【https://www.pixiv.net/user/27205017/series/241019】
白いカラスから生み出された1つ目の怪物、ハルミンツは幼い日に酷い暴力を受けたことで他人に憎悪を抱くようになっていた。
暴力で人を遠ざけ、孤独でいようとするハルミンツが仕事で育てたのは一匹の小さなネズミの怪物。暴力だけが全てであるハルミンツから虐待を受けてなお、ネズミは何故か彼に妄信的な愛を注ぐ。
人間が肉体を失って機械化した近未来。怪物たちが収容されたその施設を卒業できるのは、人間の姿に進化した者だけ。
暴力が生み出す負の連鎖の中、生み出された怪物たちは人間に与えられた狭い世界で何を見るのか。
※二部からループものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる