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第1章 ウェリス王立学園編
06 火龍様の住処
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なんだ? 一体どうなってるんだ? 何で目の前に赤い龍がいるんだ? クロノルシア様よりは一回りぐらい小さい感じだけど、身長にして15mはあるぞ。
よくよく周りを見てみると、ここはどうも洞窟の中のようだ。右も左も天井も岩盤がむき出しになっている。
しかも暑いな。僕のは小っちゃな火の紋章とはいえ、紋章の加護で夏もそんなに暑くないぐらいの耐性があるっていうのに、この場所はめちゃくちゃ暑い。気温にして40℃ぐらいはありそうだ。
『フレアボロスよ。久しいな。150年ぶりぐらいか』
「これはクロノルシア様。来訪を歓迎します。が、突然現れるのは止めてください。驚きますので」
『フハハ、すまん、すまん! 急いでおったので目の前に転移させてもらったのだ』
なるほど。今の会話で色々と理解できたぞ。まずは空を飛んではいないんだな。それはそうか。一瞬で景色が変わってるし、目の前にいるのは火龍様だし。
クロノルシア様が転移と言っているが、森の中から火龍様がいると言われる火山の頂上付近に一瞬で移動したということか。魔法なのかな? あと龍はとんでもなく長生きだということも分かったな。
「クロノルシア様。ところでその背中に見える人族は誰でしょうか?」
『おお、そうだった。レアンデルよ。我の横に来て挨拶するがよい』
クロノルシア様がそう言うと僕が降りやすいように身体を傾けてくれた。
「火龍様はじめまして。僕はレアンデル=アリウスと言います。ランバート=アリウスの息子です」
「!」
『どうした? フレアボロスよ』
「いえ、失礼しました。そなたがランバートの息子のレアンデルか。ランバートは息災か?」
「はい、火龍様。父は元気にしております」
「そうか、それは良いことだ。
――ところでクロノルシア様、このたびは何の御用で来られたのでしょう。しかもなぜランバートの息子と一緒なのですか?」
やっぱり火龍様は父上のことをご存知なんだな。父上はすごいや!
『ふむ。お主のところに来たのは、全ての大龍穴を回ろうと思ってのことだ。龍脈の流れが問題無いかの確認だな。一番問題が無さそうなお主のところからスタートしたわけだ。
この場所に来ただけでよどみなく龍脈にエネルギーが流れており、我らの世界にも余分なく循環しているのが分かる。さすがだな』
「いえ、大龍穴を預かるものとしての最低限の仕事です。それでランバートの息子はなぜいるのです?」
『それはお主に聞きたいことがあるからだ。この小僧か? お主が特別な加護を与えたものは』
「……そうでございます。すぐに気付かれるとはさすがクロノルシア様ですね」
『ふん。お主が与える火の加護は他の加護と比べても魔力の流れがものすごくスムーズだ。それなのにこの小僧の火の加護では随分と流れが悪くなっておる。それで例の小僧だと分かったわけだ』
何か難しい話をしているな。大龍穴? 龍脈? それに僕の話もしているみたいだけど、何で龍同士で僕の話をしているんだろう? 何かあるのだろうか?
『まあよい。分かってはおったが、お主に念のために確認したかったまで。小僧のことは我に任せておけ』
「クロノルシア様自ら教えていただけると?」
『我は暇だからな。大龍穴巡りをしながら様々な人間界のグルメを満喫する予定だったのだ。そこに指導を加える程度は問題にならん。というか教え好きな我には楽しみが増えたぐらいだ』
「フフッ、クロノルシア様らしいですね。
しかし大龍穴巡りと人間界の旅にランバートの息子を連れていかれるとなると、少し根回しが必要となります。
ライアンとランバートにはこちらから説明しておきますゆえご安心ください」
『気が利くな。ライアンとは誰のことが分からぬが頼んでおくぞ』
「お任せください」
ん? 何か僕が旅に出る話が進んでいるようだぞ。えっ! 学園はどうなるの? 父上、母上、それにリルは? というか僕は旅に出なきゃいけないの?
「クロノルシア様、少々お聞きしてよろしいでしょうか?」
『どうしたのだ、レアンデル』
「クロノルシア様と火龍様のお話を聞いていると、僕が旅に出るような感じに聞こえたのですが、僕の勘違いでしょうか?」
『いや、その理解であってるぞ』
「それは確定事項なのでしょうか?」
『なんだ、旅をするのはイヤなのか?』
「いえ、旅をするのがイヤとかではなく、現実の話かどうかさえ分からない状態でございまして……」
僕は素直に今思っていることを伝えた。
『ふむ。まあ突然の話ではあるな。しかし意味も無しに旅に連れて行くわけではなく、お主にとってメリットがある話なのだがな。
それならこれはどうだ。我は人族の学園というものに興味がある。我が学園を見学する間にどうするか考えてみよ』
「えっ! クロノルシア様が学園を見学なさると大騒ぎになってしまいますよ。それは少しまずいのでは無いでしょうか」
『この姿で行けばそうなるだろうが、まあ見ておれ』
そういうと転移したときと同じような光が一瞬だけ光って、身長20mはあるクロノルシア様が消えていた。いや、消えたんじゃない。そこには輝かしい金髪と、金色に近い白金のような肌をしたとてつもない美形の青年が立っていた。人間そっくりにしか見えない。違うところは龍特有の鋭い瞳ぐらいだ。
『これでどうだ?』
「クロノルシア様は変身もできるのですか?」
『変身の魔法とは少し違うな。正確には龍形態から人形態に変わる”転体”という方法を使っただけで魔力は使っておらん。だからどちらも等しく我であるのだ。まあ我の皮膚の一部については魔法で衣服のように見せているがな』
龍ってすごいんだな。転移もできるし転体という変身もできるなんて。そんなことを呟いていたら、
「転移の魔法を使えるのはクロノルシア様が特別なのであって、龍だからできるというものではないぞ」
『そういうことだな。フレアボロスは転移は使えないが、龍族はみな人形態を持っておるから転体はできるということだ』
なるほど。そうなのか。火龍様も人になれるのか。火龍様が転体したらどんな姿なんだろう? そんなことを考えていたんだけど、ちょっと待てよ。
「クロノルシア様。人の姿になれることはわかりましたが、その姿で学園に行かれるのですか? 龍の姿のままでは大騒ぎになりますが、人の姿でも学園の関係者以外は入れないのですが……」
『まあ、そうであろうな。転体したのはお主にこの姿を見せておきたかったのもあるし、この魔法を使うためだ。憑依!』
あれ? またクロノルシア様の姿が消えたぞ?
「クロノルシア様?」
『ここにおるぞ』
ん? 頭の中で声がする。憑依ってことはやっぱり――
『今、我はお主の魂の一部を間借りしている状態だ。波長が合わないものに入るのは難しいが、我とお主の波長は面白いぐらい似ておる。
長い期間入っていても疲れないし、お主に悪い影響を与えることもあるまい』
「もしかしてクロノルシア様は僕に憑依して学園に行くつもりだったのですか?」
『我もそのまま学園に行けば人族に騒がれることぐらい考えておるわ。お主に龍形態のまま憑依することもできたが、人の姿で入りこまれた方が違和感が少ないであろう。スムーズに憑依するためにはその者との同調度合が重要であるからな。
お主に力があれば憑依を避ける技術もあるのだが、まだそういった力は使えない。強制的に間借りさせてもらったわ』
憑依なんて魔法もあるのか。クロノルシア様はすごいんだな。僕が知ってる魔法は火魔法に代表される属性魔法に治癒魔法、あとは生活魔法ぐらいだけど、今日見ただけで知らない魔法がたくさんあったぞ。僕も色んな魔法が使えるようになれたら嬉しいんだけどな。
『それはお主次第だ。色んな魔法や魔力についても旅の道中で教えていくつもりだぞ』
「そうなのですか! それはすごく嬉しいです。あれ? 僕は何も話してないですよね? もしかして……」
『さきほどお主が頭の中で考えていたではないか。それに答えたまで。憑依している間はお主の考えていることは分かるから、頭の中で会話ができるぞ』
「そんな……プライバシーも何も無いじゃないですか! 変なことを考えるかも知れないですし、もしかしたらクロノルシア様に対する愚痴などが頭に浮かんでしまったら取り殺されてしまうんじゃ――」
『あほう。お主はなかなかにネガティブな思考回路をしているな。そんなことで殺すとか酷いマネをするわけなかろう。我はグルメであること以外に心が広いことも自慢なのだぞ。
そうだ。お主の言葉遣いを何とかせい。堅苦しすぎるのだ。もっとくだけて話せ。それと我の名前はクロノルシアであるが、ルシアと呼べ』
「くだけて話す……ですか? クロノルシア様じゃなくてルシア様と呼べばよいのですか?」
『全くもってくだけておらぬではないか。それとルシア様ではなく、ルシアと呼んでよい』
「え~! そんなことできませんよ! 火龍様がクロノルシア様と呼んでいるのですよ? 僕なんかがそんな呼び方できるわけ――」
『我がよいと言っておるのだ!!
考えてもみよ。憑依している間は頭に思い浮かべたことが分かると言ったであろう。人族の思考や精神構造から推測しても、変なことを考えたり、もしかしなくても我の文句を浮かべたりすることもあるであろう。
我はそれにいちいち腹を立てるような狭い心は持っておらぬし、龍族と人族では精神のあり方も違う。脆弱な精神を持つ人族であれば最初からくだけた言葉遣いをしておった方が何かと都合がよいであろう。
レアンデルよ。分かったな。友人に接するような言葉遣いでルシアと呼ぶように改ためよ』
すっごく難易度の高い指示が飛んできたな。いやいや、この考えも読まれてるのか。確かに頭の中が全てお見通しなら、くだけた言葉遣いに慣れた方があとあと怒られるようなことが少ないかも知れないな。それなら思い切って気持ちを切り替えて、
「それじゃルシア。旅のことを決断する間、学園見学を楽しんでくれるかな」
『ふむ。それでよいのだ。あい分かった。それではしばらくの間、学園見学を楽しむとしよう。ああ、それと我と会話するときはそのように口で話す必要はないのだぞ?』
「それは分かってるんだけどさ。話さないと会話してる感じがしないんだよね。周りに人がいるときはもちろん口には出さないよ」
『そうか。それならばお主の好きなようにすればよい。フレアボロスよ、聞こえておるか』
「はい。お二人のやりとりをクロノルシア様から念話で聞こえるようにしていただいていたので、全て把握しております」
『我はレアンデルが気持ちを決めるまでの間、人族の学園を見てくる。他種族の教育機関を見られるとは面白い体験だ。
それではフレアボロスよ。引き続き大龍穴の管理と諸々の根回しを頼んでおくぞ』
「承知しております。クロノルシア様もあまり羽目を外し過ぎぬようお気を付けください」
『分かっておる。それではレアンデルよ。お主が今から行きたい場所を頭にイメージするのだ。なるべく詳細にイメージするのだぞ』
行きたい場所か。とりあえず学園に行く前に一度家に帰らないといけないよね。僕は自分の部屋を思い浮かべた。僕の部屋ってこんな感じだったよね。詳細にイメージって意外と難しいな。
『ふむ。十分だ。それでは行くぞ!』
目の前が一瞬光ったように感じたあと、僕は自分の部屋の中に立っていた。
よくよく周りを見てみると、ここはどうも洞窟の中のようだ。右も左も天井も岩盤がむき出しになっている。
しかも暑いな。僕のは小っちゃな火の紋章とはいえ、紋章の加護で夏もそんなに暑くないぐらいの耐性があるっていうのに、この場所はめちゃくちゃ暑い。気温にして40℃ぐらいはありそうだ。
『フレアボロスよ。久しいな。150年ぶりぐらいか』
「これはクロノルシア様。来訪を歓迎します。が、突然現れるのは止めてください。驚きますので」
『フハハ、すまん、すまん! 急いでおったので目の前に転移させてもらったのだ』
なるほど。今の会話で色々と理解できたぞ。まずは空を飛んではいないんだな。それはそうか。一瞬で景色が変わってるし、目の前にいるのは火龍様だし。
クロノルシア様が転移と言っているが、森の中から火龍様がいると言われる火山の頂上付近に一瞬で移動したということか。魔法なのかな? あと龍はとんでもなく長生きだということも分かったな。
「クロノルシア様。ところでその背中に見える人族は誰でしょうか?」
『おお、そうだった。レアンデルよ。我の横に来て挨拶するがよい』
クロノルシア様がそう言うと僕が降りやすいように身体を傾けてくれた。
「火龍様はじめまして。僕はレアンデル=アリウスと言います。ランバート=アリウスの息子です」
「!」
『どうした? フレアボロスよ』
「いえ、失礼しました。そなたがランバートの息子のレアンデルか。ランバートは息災か?」
「はい、火龍様。父は元気にしております」
「そうか、それは良いことだ。
――ところでクロノルシア様、このたびは何の御用で来られたのでしょう。しかもなぜランバートの息子と一緒なのですか?」
やっぱり火龍様は父上のことをご存知なんだな。父上はすごいや!
『ふむ。お主のところに来たのは、全ての大龍穴を回ろうと思ってのことだ。龍脈の流れが問題無いかの確認だな。一番問題が無さそうなお主のところからスタートしたわけだ。
この場所に来ただけでよどみなく龍脈にエネルギーが流れており、我らの世界にも余分なく循環しているのが分かる。さすがだな』
「いえ、大龍穴を預かるものとしての最低限の仕事です。それでランバートの息子はなぜいるのです?」
『それはお主に聞きたいことがあるからだ。この小僧か? お主が特別な加護を与えたものは』
「……そうでございます。すぐに気付かれるとはさすがクロノルシア様ですね」
『ふん。お主が与える火の加護は他の加護と比べても魔力の流れがものすごくスムーズだ。それなのにこの小僧の火の加護では随分と流れが悪くなっておる。それで例の小僧だと分かったわけだ』
何か難しい話をしているな。大龍穴? 龍脈? それに僕の話もしているみたいだけど、何で龍同士で僕の話をしているんだろう? 何かあるのだろうか?
『まあよい。分かってはおったが、お主に念のために確認したかったまで。小僧のことは我に任せておけ』
「クロノルシア様自ら教えていただけると?」
『我は暇だからな。大龍穴巡りをしながら様々な人間界のグルメを満喫する予定だったのだ。そこに指導を加える程度は問題にならん。というか教え好きな我には楽しみが増えたぐらいだ』
「フフッ、クロノルシア様らしいですね。
しかし大龍穴巡りと人間界の旅にランバートの息子を連れていかれるとなると、少し根回しが必要となります。
ライアンとランバートにはこちらから説明しておきますゆえご安心ください」
『気が利くな。ライアンとは誰のことが分からぬが頼んでおくぞ』
「お任せください」
ん? 何か僕が旅に出る話が進んでいるようだぞ。えっ! 学園はどうなるの? 父上、母上、それにリルは? というか僕は旅に出なきゃいけないの?
「クロノルシア様、少々お聞きしてよろしいでしょうか?」
『どうしたのだ、レアンデル』
「クロノルシア様と火龍様のお話を聞いていると、僕が旅に出るような感じに聞こえたのですが、僕の勘違いでしょうか?」
『いや、その理解であってるぞ』
「それは確定事項なのでしょうか?」
『なんだ、旅をするのはイヤなのか?』
「いえ、旅をするのがイヤとかではなく、現実の話かどうかさえ分からない状態でございまして……」
僕は素直に今思っていることを伝えた。
『ふむ。まあ突然の話ではあるな。しかし意味も無しに旅に連れて行くわけではなく、お主にとってメリットがある話なのだがな。
それならこれはどうだ。我は人族の学園というものに興味がある。我が学園を見学する間にどうするか考えてみよ』
「えっ! クロノルシア様が学園を見学なさると大騒ぎになってしまいますよ。それは少しまずいのでは無いでしょうか」
『この姿で行けばそうなるだろうが、まあ見ておれ』
そういうと転移したときと同じような光が一瞬だけ光って、身長20mはあるクロノルシア様が消えていた。いや、消えたんじゃない。そこには輝かしい金髪と、金色に近い白金のような肌をしたとてつもない美形の青年が立っていた。人間そっくりにしか見えない。違うところは龍特有の鋭い瞳ぐらいだ。
『これでどうだ?』
「クロノルシア様は変身もできるのですか?」
『変身の魔法とは少し違うな。正確には龍形態から人形態に変わる”転体”という方法を使っただけで魔力は使っておらん。だからどちらも等しく我であるのだ。まあ我の皮膚の一部については魔法で衣服のように見せているがな』
龍ってすごいんだな。転移もできるし転体という変身もできるなんて。そんなことを呟いていたら、
「転移の魔法を使えるのはクロノルシア様が特別なのであって、龍だからできるというものではないぞ」
『そういうことだな。フレアボロスは転移は使えないが、龍族はみな人形態を持っておるから転体はできるということだ』
なるほど。そうなのか。火龍様も人になれるのか。火龍様が転体したらどんな姿なんだろう? そんなことを考えていたんだけど、ちょっと待てよ。
「クロノルシア様。人の姿になれることはわかりましたが、その姿で学園に行かれるのですか? 龍の姿のままでは大騒ぎになりますが、人の姿でも学園の関係者以外は入れないのですが……」
『まあ、そうであろうな。転体したのはお主にこの姿を見せておきたかったのもあるし、この魔法を使うためだ。憑依!』
あれ? またクロノルシア様の姿が消えたぞ?
「クロノルシア様?」
『ここにおるぞ』
ん? 頭の中で声がする。憑依ってことはやっぱり――
『今、我はお主の魂の一部を間借りしている状態だ。波長が合わないものに入るのは難しいが、我とお主の波長は面白いぐらい似ておる。
長い期間入っていても疲れないし、お主に悪い影響を与えることもあるまい』
「もしかしてクロノルシア様は僕に憑依して学園に行くつもりだったのですか?」
『我もそのまま学園に行けば人族に騒がれることぐらい考えておるわ。お主に龍形態のまま憑依することもできたが、人の姿で入りこまれた方が違和感が少ないであろう。スムーズに憑依するためにはその者との同調度合が重要であるからな。
お主に力があれば憑依を避ける技術もあるのだが、まだそういった力は使えない。強制的に間借りさせてもらったわ』
憑依なんて魔法もあるのか。クロノルシア様はすごいんだな。僕が知ってる魔法は火魔法に代表される属性魔法に治癒魔法、あとは生活魔法ぐらいだけど、今日見ただけで知らない魔法がたくさんあったぞ。僕も色んな魔法が使えるようになれたら嬉しいんだけどな。
『それはお主次第だ。色んな魔法や魔力についても旅の道中で教えていくつもりだぞ』
「そうなのですか! それはすごく嬉しいです。あれ? 僕は何も話してないですよね? もしかして……」
『さきほどお主が頭の中で考えていたではないか。それに答えたまで。憑依している間はお主の考えていることは分かるから、頭の中で会話ができるぞ』
「そんな……プライバシーも何も無いじゃないですか! 変なことを考えるかも知れないですし、もしかしたらクロノルシア様に対する愚痴などが頭に浮かんでしまったら取り殺されてしまうんじゃ――」
『あほう。お主はなかなかにネガティブな思考回路をしているな。そんなことで殺すとか酷いマネをするわけなかろう。我はグルメであること以外に心が広いことも自慢なのだぞ。
そうだ。お主の言葉遣いを何とかせい。堅苦しすぎるのだ。もっとくだけて話せ。それと我の名前はクロノルシアであるが、ルシアと呼べ』
「くだけて話す……ですか? クロノルシア様じゃなくてルシア様と呼べばよいのですか?」
『全くもってくだけておらぬではないか。それとルシア様ではなく、ルシアと呼んでよい』
「え~! そんなことできませんよ! 火龍様がクロノルシア様と呼んでいるのですよ? 僕なんかがそんな呼び方できるわけ――」
『我がよいと言っておるのだ!!
考えてもみよ。憑依している間は頭に思い浮かべたことが分かると言ったであろう。人族の思考や精神構造から推測しても、変なことを考えたり、もしかしなくても我の文句を浮かべたりすることもあるであろう。
我はそれにいちいち腹を立てるような狭い心は持っておらぬし、龍族と人族では精神のあり方も違う。脆弱な精神を持つ人族であれば最初からくだけた言葉遣いをしておった方が何かと都合がよいであろう。
レアンデルよ。分かったな。友人に接するような言葉遣いでルシアと呼ぶように改ためよ』
すっごく難易度の高い指示が飛んできたな。いやいや、この考えも読まれてるのか。確かに頭の中が全てお見通しなら、くだけた言葉遣いに慣れた方があとあと怒られるようなことが少ないかも知れないな。それなら思い切って気持ちを切り替えて、
「それじゃルシア。旅のことを決断する間、学園見学を楽しんでくれるかな」
『ふむ。それでよいのだ。あい分かった。それではしばらくの間、学園見学を楽しむとしよう。ああ、それと我と会話するときはそのように口で話す必要はないのだぞ?』
「それは分かってるんだけどさ。話さないと会話してる感じがしないんだよね。周りに人がいるときはもちろん口には出さないよ」
『そうか。それならばお主の好きなようにすればよい。フレアボロスよ、聞こえておるか』
「はい。お二人のやりとりをクロノルシア様から念話で聞こえるようにしていただいていたので、全て把握しております」
『我はレアンデルが気持ちを決めるまでの間、人族の学園を見てくる。他種族の教育機関を見られるとは面白い体験だ。
それではフレアボロスよ。引き続き大龍穴の管理と諸々の根回しを頼んでおくぞ』
「承知しております。クロノルシア様もあまり羽目を外し過ぎぬようお気を付けください」
『分かっておる。それではレアンデルよ。お主が今から行きたい場所を頭にイメージするのだ。なるべく詳細にイメージするのだぞ』
行きたい場所か。とりあえず学園に行く前に一度家に帰らないといけないよね。僕は自分の部屋を思い浮かべた。僕の部屋ってこんな感じだったよね。詳細にイメージって意外と難しいな。
『ふむ。十分だ。それでは行くぞ!』
目の前が一瞬光ったように感じたあと、僕は自分の部屋の中に立っていた。
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