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私から、貴方へ(私)

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「師範……」
ギリルが少し掠れた声で私を呼びました。
燃えるような赤髪に囲まれた頬には赤みが増し、鮮やかな新緑の瞳には、私だけが映っていました。

ギリルを少しからかうつもりが、どうやらその気にさせてしまったようです。

困りましたね。こうなってしまうと、私も……、私を見つめるギリルから目が離せなくなってしまうのです。

ギリルは私の頬を指先で優しく撫でながら言いました。
「もし、この方法で人間に戻れるって分かったら、師範は俺に……」
貴方はまだ、私に許しを求めてくれるのですね。
今だって、私は貴方に許したばかりだというのに。
あまりそんな風に、大事にされると、……どうしていいのかわからなくなってしまいます。
「もちろん、良いに決まってるじゃないですか」
私は、なるべく優しく微笑んで、安心させるようにギリルの唇に口付けました。

「!?」
ギリルが驚いた顔で私を見つめます。
……そんなに驚くところでしたか?
もうギリルとは何度もしたような気がするのですが。
「……初めて……師範から……」
ギリルの言葉に、私も気付きました。
確かに、今までは全部ギリルからでしたよね。

………………!?

ええと……ちょっと待ってくださいね?
もしかして、私……、今のキスがこの世に生まれて初めて、自分から……?

急に顔が熱くなってきて、思わず両手で顔を覆いました。

「なんだよその反応。師範可愛過ぎるだろ」
「わ、私も今気づいたんですっ、本当に、その……初めて、だったと……」
「へ……?」
つい言い返してしまうと、今度はギリルが静かになりました。
「……じゃあ、今の……、俺……っっ、俺が、師範の初めての相手か!?」
「そ、そんな大きな声出さないでくださいっ、ウィムたちに聞こえてしまいますっ」
「ごめん、いや……そっか……すげー嬉しい……」
ギリルは幸せを噛み締めるように、はにかみました。
なんて幸せそうな顔をするのでしょうか。

私は、ギリルの誕生日……。正確な日付はわからなかったので、彼の瞳と同じ新緑の月の初日をギリルの誕生日ということにして、ギリルを迎えた翌年から毎年祝うようにした最初の日のことを思い出しました。

私の用意したケーキを目の前にして、幼いギリルは瞳をキラキラと輝かせて、小さな手で小さな胸をおさえながらぴょんぴょんと飛び跳ねました。
『せんせ! 俺っ、なんかココがすげーポカポカして、嬉しくって、ドキドキして、はち切れそーだ!』
よかったですね。と微笑めば、ギリルは『こーゆーのって、なんて言ったらいいんだ?』と興奮気味に尋ねてきます。そんなギリルに『それが幸せな気持ちですよ』
と教えたのは、私でした。

ギリルに幸せを教えたのも、ギリルに『幸せ』という言葉を教えたのも、他でもない、私でしたね……。

私も今、確かに、幸せを感じていました。

もし私が人に戻ることができるなら、もう他人に頼ることなく、自身でこの生を終わらせることができます。
そうなれば、これまでのように、いつの日かギリルが聖剣を捨ててしまうのではと心配したり、何かのきっかけにギリルの心が歪んで勇者の資質を失う日が来るのではと不安に思うこともなくなるでしょう。

ギリルは既に十分に私を愛してくれているし、私の身体も求めてくれています。

ですが、問題が……ひとつだけ、残っていますね。
私自身が……行為を苦手としている点です。

いえ、こんなもの、今までに比べれば些細な問題です。
せっかくギリルも乗り気なのですから、ここは挑戦あるのみですね。

私は覚悟を決めると、まだ幸せそうな顔をしているギリルの名を、そっと呼びました。
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