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翌朝(俺)

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遠くで鳥の声がする。
ああ、もう朝か。
師範が起きる前に朝の修練を終えないと。

硬いベッドから身を起こせば、ギィと小さく軋んだ音がした。
「んんー……。 なぁにぃ? もう起きたのぉ?」
隣のベッドから眠そうな声をかけられて、そういや今夜はウィムリド……通称ウィムの部屋に泊めてもらったんだと思い出す。
普段は俺と師範で一部屋、ウィムとティルダムで一部屋使っているが、昨夜は俺が師範と同じ部屋で寝て、余計なことを聞かずにいる自信がなかった。
昨夜遅くに「ごめん、どっちか俺と部屋変わってくれ」と二人の部屋を訪ねると、ウィムは面倒そうに「あらぁ? 喧嘩でもしちゃったわけぇ?」と言い、ティルダムは一つ頷いて愛用の枕を抱え、ベッドを空けてくれた。

だから、師範は今頃ティルダムと同じ部屋で寝ているはずだ。

「走ってくる」
「ぁあ、毎朝偉いわねぇ。頑張ってねぇ」
ウィムは目を閉じたままぞんざいに答えると、布団を引っ張り上げてゴロリと背を向けた。
持ち上げられた布団から白く長い脚がのぞく。
そこにはレースで縁取られたひらひらした薄紫の布がかかっているが、それきりで、ズボンを履いているような様子はない。

「おいウィム、寝間着くらい着ろよ」
「んー……? ネグリジェ着てるじゃないのよぅ」
「ズボンも履け」
「これでも裸じゃないだけアンタに気を遣ってるのよぅ?」

確かに、急に押しかけたのは俺だし、こいつの趣味に文句を言っても仕方ないな。
「……起こして悪かったな」
「いいわよぉ」
俺はため息を飲み込むと、剣の下がったベルトを巻いて部屋を出た。
宿を裏手から出て、そう大きくない村を一周するように走り始める。

ウィムは聖職者で、俺たちと同じ男性だ。
ちなみに、ウィムの事をウィムリドと呼ぶと「男っぽい名前で呼ばないでよぉ」なんて文句を言われる。だから俺たちは仕方なくウィムとかウィーとか適当に略して呼んでいた。
普段から喋り方はああだし、女性聖職者の服を着ているが、何をどうしてか凄腕のヒーラーだった。

俺のいるパーティーは攻撃担当の剣士の俺と、頭脳担当で魔法使いの師範に、回復と支援担当の聖職者のウィム、防御担当の重戦士のティルダムという四人構成だ。
四人というのは討伐メインのパーティーとしては少ないらしく、大概七~八人は必要らしい。そんなわけで行く先々で驚かれることは多いが、俺は今のパーティーに過不足は感じていなかった。

ああ……、そうか。
それはきっと、師範が特別だったから……か。
師範の使う術は、今まで他のパーティーにいたというウィムもティルダムも見たことがない物が多い。
師範は遠い北の国の術だと言って笑ったが、そうではなかったんだろう。
いや、遠い遠い北の山向こうには魔族の国があると言われている。
師範は……そこに居た事があるんだろうか。

止まない疑問が次から次へと頭を埋め尽くして、じわじわ足が重くなってゆく。

いつもの早朝修練を済ませて宿の一階にある食堂に入ると、師範以外の二人はすっかり食事を終えていた。
「あらぁ、遅かったわねぇ。先に食べちゃったわよぅ?」
ひらひらと手を振って俺に声をかけてきたのは、さっきのウィムだ。
やはり、首元まで詰まった女性聖職者の服を着ていた。
足元はずっしりと重そうなロングスカートだが、脚は分厚いタイツが残さず覆い隠している。
鮮やかな紫の髪に、紫がかった青い瞳。背は俺よりは低いが師範より高い。
癖のあるウェーブがかった髪が、顔周りを華やかに包んでいる。
後ろ側は襟足だけが少し長いが結ぶほどの長さはなく、これで化粧をせずに男らしい服を着ていれば、相当な美丈夫に見えそうなものだが、本人にその気はまるでないようだ。

「ああ。悪かったな」
食事が終わっても俺を待っていたのか、それとも師範を一人残せずに付き合っててくれたのか、俺は二人に小さく頭を下げた。
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