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217話 圧倒的力量差

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本日「悪役令嬢の妹様」と題した、捻りも何もない話をかなり端折って短くして投稿しました。
もし良かったらお暇つぶしにでも呼んでやって下さったら嬉しいです!


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「ッぃ……い…ったぁぁぁぁい…ですわああああぁぁぁぁぁ!!!」

 突然後頭部を襲った痛みに、思わず患部を押さえてフロルが蹲る。
 蹲ったフロルの後ろに見えたのは、目元を包帯で覆い、地味な上着のフードを目深に被った少女……エリィだった。

「不穏な波動を感じてきてみれば……セレスも、止もせず助長してたのかしら?」

 エリィの低い声が飛び火してきて、セレスは慌てて頭を振った。

「んなわけねーだろ!? つっか、俺にフロルが止められると思ってんのかよ……、こいつら心底双子なんだ…その時点で2対1なんだよ……」

 エリィががっくりと肩を落とし、首をゆるゆると振りながら大きな溜息を吐く。

「まぁ、そうね…セレスは俺様な割に意外と常識枠だものね…」

 そんな言い方…とセレスが呟くのには頓着せず、エリィは蹲るフロルの隣に屈みこんだ。

「私を心配してくれたのかしら……かなりズレた心配の仕方だとは思うけど、気持ちは嬉しいわ、ありがとう。
 だけど、流石にやりすぎね。
 これじゃ話を通す前に戦争状態になっちゃうわよ」

 フロルの横に屈んだまま、背後にいる形となったアンセを振り仰ぐ。

「ほら、アンセもよ。まずは解放して。その後どっちでも良いから回復魔法をかけてあげてね」

 そう告げれば、アンセは顔を引き攣らせながら、フロルは未だ残る痛みに涙目になりながら、渋々頷いた。

 次いで地面に転がる人間種達に、立ち上がりながら顔を向ける。
 エリィとしては、身内とも言える精霊達に声をかける方が優先なのは揺らがないが、一応、一部を除きまだ呆けた様子の人間種の方にも声をかける。

「オリアーナさんもゲナイドさんも、早々失礼しました。
 直ぐ解放させるので」

 まだ解放をしないアンセに顔を向ければ、すぐさま人間種達が解放される。地面に引き倒されたりしているので、痛む部分があるらしく、各々がそこかしこを擦ったり撫でたりし始めた。
 その様子に再びエリィが顔を精霊達に向ければ、突然小さな花弁のような光が、周囲に満ち、それぞれが押さえたり撫でたりしている痛みのある個所に、光の花弁が降り注いだ。

「……痛みが…」
「噓でしょ…」
「これは凄いね」

 人間種が口々に驚嘆と共に呟くのに、ホッと息を吐いてから、エリィは再び座り込んでいるフロルの方へ顔を向けた。

「ほら立って。ちゃんと反省するのよ。先制したいとか思ったんでしょうけど、証拠品の運搬と言う仕事をしているだけ。
 権威だ何だについても、私は別に何とも思ってないわ。
 この国で目立ってしまった方が良いと言う言葉を受けてはきたけれど、気に入らなければさっさと出て行けば良いだけの事だしね。我慢したりするつもりは欠片もないから、安心して」
「「「………」」」

 口をへの字に曲げたフロルとアンセに、セレスが眉根を下げつつ、エリィに話しかける。

「エリィ様、ごめん。その、俺は……俺らは、人間種のやり方ってのを知ってる。
 よくわかんない血筋だとかなんだとか振りかざして、すぐ相手を貶めようとしやがるんだ。
 その癖やらかしても反省とかしないしさ……精霊の住まいも何度かそんな奴らのせいで、移したりした事あんだよ。だから……」

 エリィは黙ったまま、もごもごと言葉を紡ごうとするセレスの頭をポンポンと撫でた。
 実際にはセレスの方がエリィより若干身長が高いので、少々おかしな構図にはなっているが。

 しかし、何だか訳の分からない間に丸く収まりそうな目の前の様子に、納得がいかないのは、まず騎士達だった。

「……この狼藉…許し難い…王弟殿下を地に伏させるなど、言語道断だ」

 飛ばされた剣に這い寄って拾い上げ、立ち上がって剣を構え直すと、そのままエリィ達に斬りかかった。

「覚悟しろおお!!」

 その様子によろよろと立ち上がった、斬りかかった人物以外の人間種の方が驚いた。

「ッ!」
「おい!!」
「隊長!」

 勢いよく振り下ろされる剣を、事も無げにエリィが懐から出した短剣で受け止める。
 目に見える範囲は口元だけと、その表情は酷くわかり辛いが、それでも読み取れるものがある。
 斬りかかった警護騎士団の隊長は鬼の形相だが、それに対して何の感慨もない様だ。全くの無表情なのが、反対に見る者の背筋を震え上がらせる。
 咄嗟とは言え全力の一撃を、幼いと言って過言ではない少女に、無表情で受け詰められた隊長の方こそ、その鬼の形相に、微かな怯えが混じった。
 何故なら受け止められた後も、まだ押し切ろうと力を込めているにもかかわらず、寸分も圧すことが出来ないでいるのだ。なのに目の前の少女は、顔色一つ変えるでなく平然としている。

「…ば、ばかな」

 思わず漏らした言葉をきっかけに、エリィが声をかける。

「まだ続ける?」
「貴様……当然だぁぁぁ!!」

 隊長が叫んだ声に、精霊達も構えようとするが、それをエリィは顔も向けないまま片手で制する。

「こういう人たちって、彼ら自身の土俵以外の力で圧倒しても、納得なんかしないのよ」

 その言葉が耳に届いたソアン達も息を呑む。
 エリィ達の言う権威で止めるのは簡単だが、確かにそれでは禍根が残るだろう。警備に当たってくれていた騎士達には悪いが、ここはそのまま全力でぶつかって貰った方が良いと判断し、出かかった言葉を飲み込んだ。

 周囲の様子と反応を的確に読み取ったエリィが、その口元に微かな笑みを乗せる。

「どうやらお許しが出たみたいよ。とはいえ、長々とやり合うつもりはないの、さっさと終わらせましょう?
 正直マウント取りなんて興味もないんだけど」

 呟くや否や、騎士の名に恥じない屈強な隊長がどれほど全力で押してもピクリとも動かなかった短剣をそのまま跳ね上げて隊長の体勢を崩し、間髪入れずにその場で剣を握る隊長の手を蹴り上げた。

「ック!!」

 握っていた剣が、無様に弧を描いて後方に飛ばされるのを苦渋の表情で一瞬追うが、隊長側もそれで終わりにはできないとばかりに、近くに転がっていた、恐らく部下の誰かの剣だろう、ソレに手を伸ばした。

 隊長の手から離れた剣が後方の地面にぶちあたり、ガシャンと大きな音を立てると同時に、近くの剣を取ろうと飛び掛かった所を、エリィは容赦なくその腹部を蹴り飛ばす。

「ぅ!」

 見れば隊長の纏う鎧の腹部が大きくめり込んでいる。
 とてもじゃないが少女……どちらかと言えばまだ幼女と言って差しさわりのない者の所業とは思えない。金属で作られた鎧、確かに継ぎ目など弱い部分もあるが、そんな弱い部分を狙うという定石などそっちのけな凹み具合に、精霊たちまでが目を丸くしていた。
 隊長の方は痛みが一瞬遅れて襲い掛かったのか、蹴り飛ばされてから叫び声を大きく上げた。

「……ぁ、っくあああぁあぁぁぁぁ」
「「「隊長!?」」」
「そんな!」

 慌てて痛みに悶え苦しむ隊長に、駆け寄りすがる隊の騎士達をしばらく眺めてから、平坦な声でエリィが問いかける。

「また続けます?」

 エリィの声に痛みに呻く隊長に取りすがった騎士達が、ローグバインに情けない表情を向けた。
 指示を仰ぎたいのだろう。
 この場は、ある意味隊長の怒りにソアンが許可を出したものとも言える。
 つまり結果に手出しは無用だ。それを無視してこの爆弾少女たち一団を、捕らえたり等の指示を出す事は出来ない。
 ゆるゆると頭を振ってから、ローグバインが言葉を紡いだ。

「いや……」
「そ、ご理解いただけたようで何よりだわ」

 エリィは呻き続ける隊長達騎士一団の方をちらと見てから、フロルに声をかける。

「フロル、申し訳ないんだけど再度回復をお願いしてもいい?」
「は、はい♪」

 突然振られて驚きはしたが、エリィから頼まれるのが嬉しかったのか、フロルは弾んだ声で返事をした。
 すぐに先程と同じ光る花弁が舞うと、呻く隊長の腹部に吸い込まれて行った。




 呻き声もなくなった周囲は静寂に支配された。


 ゲナイド達は実際エリィと手合わせした事があるが、自分達が怪我を負う事もなく済んだのは、実力差が半端なかったからだと分かった。
 オリアーナにしても小物魔物と戦ったのは見たが、あれは戯れでしかなかったんだと気づいた。
 エリィが戦う姿を全く知らなかった者達は、圧倒的過ぎるその力量に言葉もなかった。

 とはいえ当然と言えば当然だ。元々人外の飛びぬけたベースを持つエリィは、この世界に来てから、ずっとゲナイド達5等級パーティがやっと相手にできるような魔物相手に、単身で戦闘訓練を積んできていた。

 その差があって当然だったのだ。

 最も、エリィ当人は戦闘の度に『もう、やだ』『死ぬかと思った』等と震え思っているのだが……。



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