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184話 お子様? 俺様? 精霊セレス
しおりを挟む早々にギルド舎を後にしたエリィは、宿へ戻る道すがら朝市に立ち寄っていた。
「お、エリィちゃんじゃねぇか。新鮮な野菜はどうだい?」
「あらまぁエリィちゃん、丁度焼き立ての串焼きがあるよ!」
最初にオリアーナと立ち寄ったせいもあってか、あちこちで名を覚えられ声をかけられる。
この村に来てそんなに日が立ってるわけではないのだが、子供(に見えるだけだが)という物珍しさとオリアーナ効果のせいだろう。
かけられた声に挨拶を返しながら、あれこれと買い込んでいく。
野菜に果物、干物に調味料。
最後に雑貨類でも見て行こうと足を向けた先、朝市が途切れる境目で初めての露店が出ていた。
地面に布を敷いただけの簡素な露店で、常連ではないのだろう。
数々の小瓶が並んでいる。値札も何もないが、商品の奥に座る老婆に声をかけた。
「おはようございます。聞いても良いですか?」
「おや、お嬢ちゃんお使いかい? えらいねぇ。あぁ、何が聞きたいんだい?」
「ここに並んでいるのは何ですか?」
「こっちの列は傷薬だね。そっちは熱冷まし。これは痛み止めさね」
こっちの世界に来て初めてお目にかかる品々だ。
製法はどうでも良いが、入れ物の形状や素材、薬品の一般的な形態も知りたかったことなので、エリィは露店の前に座り込む。
「これは一回分?」
「あぁ、その小瓶に入ってる一回分全部飲んでもらうんだよ」
「子供用だと用量は変わります?」
「どういう意味だい?」
「いえ、小さな子だったら、この全量は多いのかなと思って」
「大人だろうが子供だろうが、一回分は一回分だよ」
「なるほど」
どうやらこの世界は用量用法等はあまり考えられていないのかもしれない。
地球人的には随分と乱暴に感じてしまうが、この世界では珍しくないのだろう。何しろ胃腸薬っぽいものは樹皮そのままを、小さく切っただけのものが売られているくらいだ。
容器もガラス等はなく、素焼きの小瓶に入れている物、葉に包んでいるだけの物も多い。
薬の形状はポーションを始めとした液薬、あと粉薬もあるようだ。ただ軟膏は見られないのでないのかもしれない。
いくつか購入して鑑定してみるとしよう。
「これとこれ、後こっちのも一つずつ下さい」
「はいよ。全部で4300エクだよ」
定食が100エクから200エクが多い事から考えれば、やはり薬と言うのはかなり高価なようだ。
銅板貨4枚と銅平貨3枚を渡す。
ありがとうと言って立ち上がってところで、頭にフィルからの念話が響いてきた。
【エリィ様、セレスが目覚めました】
【了解、すぐ戻るわ】
宿に着き、真っすぐ宿の正面扉には向かわず、裏手に回って裏口から入る。
エリィの軟禁が解除になり、宿は通常営業に戻っているので、他のお客も増えたためだ。
オリアーナお勧めのこの宿は知る人ぞ知る、テイマーに優しい宿なので、1階の部屋を取っていると言うだけで従魔連れと察せられてしまう。
大抵は問題ないが、先だってのパウルの件もあり、念の為裏口から出入りするように言われたのだ。
部屋の扉に鍵を差し込む。開錠と同時に結界も一部開いて部屋へと入れば……。
「だーかーらーー! 何でお前が言う訳?」
聞きなれない声とフィルの、無駄に大きな声が響き渡っている。
「いいじゃん! 俺だって一緒に行きたい!!」
「あの場所が住処だろうが」
「住処なんて別にどこだっていいもん!」
「セレス、アンセとフロルの前でよくそんな事……」
エリィがは戻った事に気付いた面々が扉の方へ顔を向けた事に、ベッドの上で地団駄踏んでいる子供も気づいたようで、パッと顔を向けて来る。
途端に破顔して駆け寄ってきた。
「なぁなぁ、アンタがエリィ様? 俺も連れてってくれよ!」
緑色の長い髪を引き摺りながらやってきた少年は、同じく緑色の瞳をしていて元気いっぱいな様子だ。
とても瘴気に囚われてぐったりしていた姿とは一致しない。
「なぁなぁ! いいだろ? アンセとフロルが行くってんなら、俺だって行ってもいいはずだ! ダメだって言われてもついて行くからな!」
なるほど、フィルが悪し様に言うのも頷ける。
エリィも正直苦手なタイプだ。
異空地に入れる事も、名付けをすることも、全部ひっくるめてフィルが断固反対の姿勢を取っていたのは、エリィにとって正しい判断だったと言える。
「セレス、エリィ様の前なのですから、少しは控えて……」
「やだ! 俺は俺のしたい様に「ガッ!」 うぐ…」
宥めようとするフロルの言葉には耳を貸さず駄々をこねるセレスに、フィルが盛大に拳骨を振り抜いた。
「いい加減にしませんと、次はこの程度では済ましませんよ」
思い切り頭を叩かれて、騒ぎ立てていた緑の少年ことセレスは、頭を押さえて涙目で蹲る。
「い……いったああああああい!!!! フィル! 痛いだろ!! 何すんだよ!!」
プチッと何かが切れた音を聞いた者がいたのかどうか……。
一瞬で空気が張り詰めたかと思うと、セレスの周りに透明な箱が構築されていた。
「………!!!」
喧しさに耐えかねて、エリィが結界を張ったようだ。
中で騒いでいるのは見えるが、その声は誰にも届いていない。
「うん、フィルの正しさが証明されたわね。私、煩いの嫌いなのよ。だから子供も苦手。俺様な輩は更に嫌い」
前世60歳の婆だが、誰でも彼でも子供好きだとは思わないで欲しい。
面倒臭がりではあっても、基本穏やかなエリィがこうまではっきりと言うとは思わず、全員が思わず黙り込んだ。
結界の中で何とか破ろうと更に暴れるセレスを前に、エリィが小さく息を吐くと結界は徐々に小さくなっていく。
声は全く聞こえてこないが、中で血相を変えて慌てる様子がはっきりと見て取れる。エリィとフィル以外の者、特にアンセとフロルがおろおろとし始めるが、やはり結界はゆっくりと小さくなっていく。
「静かにする事。大人しくしている事。守れるかしら?」
低く地を這うような声でエリィが訊ねれば、結界の中のセレスが涙目のままコクコクと頷いた。
「それとフィル、さっきの言葉はどういう意味? アンセとフロルの前でって」
西の森から戻る道すがら色々話はしたが、今後の事が主な話題だったので、あまり彼らの事を聞けていないのだ。
「アンセとフロルは元々この辺りに暮らしていたのではなく、さらに西にあった国の森に棲んでいたんです。しかしそこが完全に瘴気に呑まれたので東の方へ逃げ延びてきた次第で」
「そう」
なるほど。住処を失った彼らの前で、まだ自分の住処は無事なのに、それを軽んじる発言をしたという事か。
「精霊にとって住処はとても重要なのです。そこが安息の地でなければ安定して力を使えません」
フィルの言葉にアンセとフロルが悲しげな表情で俯いてしまう。
きっと本当に命からがらで逃げ延びてきたのだろう。実際この目でセレスと言う実例を見たのだから、精霊が瘴気に囚われたらどうなるかわかっている。
「セレスティオン、ちゃんと反省して2人に謝れる?」
結界の中で最早暴れる事もなく項垂れて居たセレスが、コクリと頷いた。
「言って良い事と悪いことがあるわ」
再び頷くセレス。
その様子にエリィは大きく溜息を吐いてから、囲っていた結界を解除した。
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