上 下
183 / 225

183話 ヴェルザン、王都へ報告

しおりを挟む


 エリィを見送ってすぐ、ヴェルザンは簡単な手紙を認めた。
 宛先は王都、ソアン。
 エリィから託された品々の事をまず報告せねばなるまい。それと村マスの帰還と村サブ発見、そして精霊についても忘れないようにしなければ。

「これらが閣下達の更なる一助になれば良いのですが」

 伝書箱に手紙を放り込んで、少し休憩しようと立ち上がった所で着信があった。
 返信だとしたら随分と早い反応になるので、ギルド関係かと思いながら確認してみれば。

『話がしたい』

 自分以上に簡潔な文面に苦笑が洩れる。
 ヴェルザンは指先をそっと躍らせ、返信文を消し去ると、ザイードの部屋へと向かう。
 エリィ同様、もうザイードの軟禁は解かれているのだが、丁度良いとばかりにちゃっかり休暇申請をだしたら通ってしまったので今も絶賛滞在中だ。
 それならそれでギルド舎の一室に籠っている必要はないのだが、聞けば自室より備品が揃っているらしく、休暇中はここで過ごしたいと言うので放ってある。
 単に放置していたにすぎないのだが、思わぬところで功を奏した。

 ―――コンコンコン

 扉をノックすれば欠伸交じりのボンヤリした応えがあった。

「……ふあぁぁ~い」
「まだ早い時間にすみません。少し良いですか?」

 ヴェルザンの声に気づいたザイードが慌てて扉を開けてくれたが、寝ぐせだろうか頭髪が爆発している。
 本当に起き抜けだったようだ。
 この分では朝食もまだだろうし、どうしたものかとヴェルザンは腕を組んでしまった。

「ヴェルザン様?」
「ぁ、あぁ、いえ、すみません。少々急ぎでお願いしたい事が……ただ朝食は摂って貰った方が良いかと思った物ですから」

 その様子に何か思い至ったのか、ザイードがポリポリと頬を掻きながらヘラりと笑う。

「もしかして繋ぎます? んじゃ急いでなんか腹に入れてから向かうすよ」
「済みません。では私は部屋で待っていますね。あぁ、だけど慌てなくても良いですから。朝食くらいはちゃんと摂って下さいね」

 そう言い残し部屋へ戻ったヴェルザンは、まず少し時間を貰いたいと伝書箱から送り、ザイードが来る前にとエリィが残して行った品々の整理をし始めた。

 見れば見るほど出所を問いただしたくなる証拠品だ。
 北部のドラゴン騒ぎの首謀がホスグエナだと分かる品もあるし、何よりワッケランとの関係を示す手紙に、王兄タッシラとの繋がりもこれで分かる。
 ケッセモルトが情報を流していた事も、最早言い逃れできまい。
 メナルダ、モーゲッツの名は言うに及ばず。それどころか他の貴族家の名もちらほら散見される。
 しかも『施設』なる新情報まである。その施設で何をしていたのかははっきりと記されていないが、他の資料と照らし合わせれば薄っすらと見えてくるものがある。
 多くの人間種の搬入。各種薬品の輸入、中には禁輸品まであるのだ。

 ―――コンコンコン

 扉をノックする音で、すっかり証拠品に見入っていたヴェルザンは、ハッと顔を上げた。

「どうぞ」
「すまね~です。遅くなっちゃって」
「いえ、朝食はちゃんと摂りましたか?」
「はい! もうどんだけ気を失っても大丈夫すよ!」

 胸を張るザイードに、ヴェルザンは何も言えず苦笑を浮かべる。
 そのままソファに座る様指示し、テーブルにはソアンとの通信用の半割されたオレンジ色の魔石を置く。
 準備が整った旨を送信すると、秒と掛からずに返信がある。あちらも待機してくれていたようだ。
 それを受けてザイードはテーブルに置かれたオレンジ色の半割魔石を手に取った。
 ゆっくりと目を閉じればザイードの手にある魔石が、ふわりと光を帯びる。
 光が安定したのを見計らっていると、魔石から声が響いてきた。

《ソアンだ。色々とありそうだな》
「申し訳ありません。文面ではお伝えしきれるとは思えず」
《構わない。それで? まずは証拠品の事を聞かせてくれるか?》
「私もまだしっかりと目を通したわけではありませんので、ざっくりとですが。
 過日のドラゴン襲来による北部放棄ですが、どうやらホスグエナ伯爵の仕業のようです。あとホスグエナとワッケラン、タッシラ殿下のつながりを示唆する手紙など、他にも色々とございます」
《な! それは誠か!?》
「はい。勿論、後程改竄等がないか鑑定はしなければなりませんが」
《でかした。あぁ、もうその報告だけで私は満足できる》
「それ以外にも村マスが無事帰還しました。ただ村サブの方からの報告が少々……」
《二人とも無事だったのだな。それに何か問題でもあったのか?》
「先日よりの気候の変化にお気づきでしょうか?」
《ん? あぁ、そういえばやっと風が緩んできたな。それがどうした?》
「実は精霊なる存在に出会ったと」
《………………いや、ヴェルを疑うつもりではないんだが……お前、正気か?》
「えぇ、しっかりと正気です。村サブはしっかりとその目で見たと報告して来ています」
《ふむ……だがそれの何が問題だ? どのような夢想だろうが公にしなければ良いだけの話だろう?》
「そうなのですが、私としましては公にして頂ければと考えています」
《……どういう意味だ?》
「こちらで囮にしてしまった新人ギルド員がいた事を覚えていますか?」
《あぁ》
「彼女が関わっているのです。村マス村サブの救出をしたのも彼女です」
《……ほう 新人と言う割には随分と優秀なようだな》
「はい、優秀過ぎて反対に目障りに思うものも現れるかと」
《なるほど。つまり反対に手出しできないほど目立たせてしまいたいという事か?》
「お察しの通りです。それに彼女自身、あまり身分と言うものに良い印象はない様でして」
《まぁ、早々に巻き込まれたわけだしな》
「はい。証拠品の搬送依頼ついでに彼女に王都に向かってもらおうと思っているのですが、そちらでの受け入れをお願いできましたら助かります」
《ふむ。確かに証拠品はこちらに持ってきてもらった方が助かるが……わかった。手配しておこう》
「ありがとうございます。ただ実を言いますと彼女からの返事待ちですので、後日改めて報告させてください」

 ふと魔石を抱えてスキルを発動しているザイードの身体がゆらゆらと揺れ始めている事に気付いた。

「済みません。そろそろ時間切れのようです」
《あぁ、そうだな。報告に抜けがある様なら、後は伝書してくれ》
「はい。それでも伝えきれない場合には他の手段を考えます」
《わかった。それではな》

 ヴェルザンの返事を待たずに通信が途絶える。それと同時にザイードの身体がぐらりと傾き、手を伸ばす間もなくソファへ横倒しに倒れ込んだ。
 床に倒れたわけではない事にホッとしながらも、エリィからの返事が早く来ればいいのだがと、窓の外、流れる雲に目をやった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クソガキ、暴れます。

サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。 ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...