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65話 オリアーナと合流
しおりを挟む「こちらがエリィ様のプレートになります。お名前等ご確認ください」
「はい、間違いないです。ありがとうございます」
「後で構いませんので、一度プレートの内部情報の方もご確認下さい。その手順が完了しさえすれば、不当に他人がプレートを入手したり、気づかず落としたりした場合があっても、ちゃんと一定時間後には手元に戻るようになりますので、是非お願いします」
「わかりました」
その後色々と説明を受けた。
犯罪行為をしない事、手を貸さない事、何にせよ巻き込まれたら報告する事(報連相大事)、昇格降格について、ペナルティ等々、ざっくりしたもので、最終的には自己責任だとか、まぁ想定内の説明だった。
「それでは、簡単ですが説明は以上です。何かわからない事などありましたら、その都度お訊ね下さい」
「はい、早速なのですが魔物素材の買取などはして頂けますか?」
ヴェルザンに誘導されて、休憩室の扉――ゲナイドが入ってきた方の扉から出ると、そこはやや薄暗い廊下で、両脇にはいくつか扉が並んでいる。その廊下を歩きながらヴェルザンが廊下の先を指さす。
明るく開けているように見えるそこが、ギルドの正面玄関フロアだと教えられた。
「魔物素材をお持ちなんですか? それは是非お見せいただけますでしょうか? 最近めっきり魔物素材は少なくなってしまっているのですよ。カウンターで職員にお声がけ下されば鑑定の後買取させて頂きます」
「わかりました。長々とお仕事の手を止めてしまい、すみませんでした。そしてありがとうございました」
「とんでもございません。こちらこそありがとうございました。エリィ様の力量でしたら、多くの依頼もこなして頂けるのではないかと期待もしておりますしね」
ふっと笑うその表情に黒いものが混じっていると、背筋をざわつかせたのは決してエリィの誤解ではないはずだ。
黒い笑みを浮かべるヴェルザンに一礼し、そそくさと離れて正面玄関フロアへと向かう。
時間的にずれているせいか、カウンターの後ろで作業をしている職員以外の人影は殆どない。
「あ、エリィちゃ…じゃない、様~、無事終わったんですねーー!」
声のする方へ顔を向ければ、ケイティが手を振っているので足を向ける…が、カウンターが高く、近づくほどカウンターの壁面しか見えなくなった。
「えっと、依頼探し?」
頭上から声がするので見上げれば、覗き込むようにして顔をのぞかせるケイティが居た。
「いえ、魔物素材の買取をお願いしたくて」
「買取ね…ですね。じゃあ鑑定しないといけないし、ちょっと奥に移動しましょっか」
ケイティが他の職員に声をかけているのを聞いていると、後ろから声がかかった。
「エリィの方が早かったか」
振り向くとそこには笑顔のオリアーナが、片手を軽く掲げていた。
「ティゼルト隊長じゃないですか!」
「隊長さんだわ、やっぱりお綺麗ね」
「ティゼルト隊長、この間はありがとうございました!」
そこここから声がかかり、それに軽く応えながら苦笑を浮かべるオリアーナが、エリィに近づいてくる。
カウンターから出てきたケイティが、エリィに小声で耳打ちした。
「ティゼルト隊長って人気高いんだよ。あの凛とした美しさは眼福ものよねー。その上、性格も良しの独り身だから男どもが騒ぐのよー」
確かにやや圧しは強いが、面倒見は良いし顔もスタイルも良い。年齢は聞いていないが、見た感じ30歳にはなっていなさそうだ。
「すまなかったな、意外と時間を食ってしまったよ。エリィの方は怪我とかないか?」
「はい、大丈夫です」
エリィの前まで来たオリアーナは、隣に立つケイティに視線を移すと『ふむ』と呟く。
「まだ用があるんだな?」
「ぁ、はい。手持ちの素材をいくつか換金したいんです」
「あぁ、そうか。それじゃ私も同席させてもらおう」
ケイティも周りと同じくオリアーナのファンであるようだ。
頬が薄っすらと紅潮しているのが見て取れる。
先ほど通った廊下に面する扉の一つに、アレク達とオリアーナも一緒に案内され、部屋内にあるソファへ座るように促される。アレクはエリィとオリアーナの間に、ムゥはすかざずエリィの膝に陣取った。セラは流石にソファには座れないので、後ろの方で行儀よく床に座っている
大きな机を挟んで向かい側の椅子に座ったケイティに、『出して』と言われたので、いつものように背負い袋経由で収納から、爪ウサギの爪を10本、爪ウサギの毛皮を3枚、緑猪の牙を1本を机に並べた。
【そんだけでええの?】
【実際の相場がわからないし、物価も知らないからね。まずは様子見】
【そう言えばパネルに何か表示されてとか言っていなかっただろうか?】
【ああぁぁ、それがあったわ】
セラの言葉にエリィが眼前にパネルを呼び出し、収納内リストの一覧を表示させた……させたところで、脳内にアレクの絶叫が盛大に鳴り響いた。
【のわああああああああああああああああ、エリィのアホ! 人に見えたらどないすんねん!!】
ぁっと呟いたがもう遅い。
収納内一覧リスト画面、そしてその個別説明画面と、2つの光る透明パネルがエリィの前に堂々と開かれていた。
――結果から言えば、どうやらオリアーナとケイティには見えていないようだ。
魔力持ちにはどうだか現時点ではわからないが、ケイティは聞けば鑑定持ちだというので、そのスキル持ちにも見えないと判断していいだろう。
ムゥ以外の3名が、揃ってほっと大きく息を吐いたのは言うまでもない。
「爪ウサギの素材なんて初めて見た……綺麗な状態だし、素材として申し分ないよ! これエリィちゃんが倒したって!? ふああぁ、爪ウサギ倒せるなんて…そりゃゲナイドさん達が転がされるのも無理はないわー、他にはないの? あるなら見せて見せて!!」
エリィ達にはよくわかっていなかったが、爪ウサギのギルドでの格付けは、ゲナイド達より格上になる。
6階級以上という訳だが、イメージとしてゲナイトたちはBランク冒険者、爪ウサギはA級魔物と言ったところだ。
階級や格付けも、それぞれに上中下があり、この世界での正確な言い方をするなら『6階級上の爪ウサギ、5階級中のゲナイト達』となるが、まぁ『上中下』は割愛されることも多いので横において問題はない。
それにしても話が進まない。
ケイティは初めて見る素材に興奮状態だからだが、オリアーナまでも目を輝かせているのにはまいった。
ケイティとオリアーナが、二人して熱く語り合っているために何も進まないのだ。
【【【いい加減進めてくれ】】】
【主様ぁ、ムゥお腹空いたのぉ~】
エリィ一行の心の呟きが、それぞれの脳内に響き渡った……。
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