上 下
2 / 4

✿2.

しおりを挟む


「あれ、門倉さんは?」
 疲れた、休憩。
 そう言って、仕事の途中で切り上げた松宮は、リビングへと移動した。しかし、門倉の姿がない。
 門倉は今日、仕事がオフなので、一日中いると言っていたはずだ。それなのに。
「もー、先生、何やってんの、はやくして!」
 アシスタントの古賀が悲鳴をあげる。
「とっとと、終わらせないと明日になっちゃうんだからね!」
「えーっ」
「えーじゃないでしょ、えーじゃ!」
 仕方ない。
 しぶしぶと仕事に、戻る。
 いや、元はというと自分の配分ミスだということを松宮はわかっている。膨らんだ仕事のさばき方を間違えたというわけだ。
 けれど、どうしても今晩までに仕事を終わらせたい。
「なんとかするしか、ないなぁ」
 やるときは、やるしかない。
 松宮はペンを握った。




「こっち、ラスト、終わりました」
「トーン、終了です!」
 次々と原稿の完成をアシスタントが告げていく。
「と、いうことは……」
 松宮は、ほっと胸をなでおろした。
「先生、終了です。……よかった、朝にならなくて」
 古賀が力尽きた顔で微笑んだ。時計を見やる。午後九時半。
「やっと、帰れます」
「うん、ありがとー」
 松宮はべたりと机の上につっぷした。やった、やりきった。そんな達成感とともに疲労感が襲う。
「とりあえず、みんな、帰れる……で。俺は……」
「ちょっと先生、変なとこで寝ないでよ。もう、門倉くん、呼んでくるからね」
 だんだんと古賀の声が小さくなる。そして、消えた、




「あっ!」
 松宮は目を覚ました。
 自分が、寝室のベッドの上に横たわっているのに気がつく。参った。あのあと、原稿が仕上がり、仕事が終わった解放感と安堵から、疲労感と睡魔に負けた。そのまま寝落ちてしまったことに気が付いた。
 それなら誰が、自分をここまで運んでくれたというのだろうか。古賀やアシスタントたち? ――いなという答えが松宮の頭の中に浮かんだ。
「門倉さん?」
 虚空に向けて彼の名前を呼ぶ。ただの人名ではない。それを口にできること自体が、幸福感をもたらすような、そんな人物の名前だ。
「なんだよ。松宮」
「え」
 ただひとりごとのつもりだった。しかし、それは明らかに門倉文明の声で返事が返ってくる。
「寝ぼけているのか?」
 その優し気な声に鼓膜から癒される。
 そして、彼の顔が、松宮が常に見ていたい人物の顔が目の前に現れて、松宮は思わず、彼に抱き着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

処理中です...