2 / 4
✿2.
しおりを挟む
✿
「あれ、門倉さんは?」
疲れた、休憩。
そう言って、仕事の途中で切り上げた松宮は、リビングへと移動した。しかし、門倉の姿がない。
門倉は今日、仕事がオフなので、一日中いると言っていたはずだ。それなのに。
「もー、先生、何やってんの、はやくして!」
アシスタントの古賀が悲鳴をあげる。
「とっとと、終わらせないと明日になっちゃうんだからね!」
「えーっ」
「えーじゃないでしょ、えーじゃ!」
仕方ない。
しぶしぶと仕事に、戻る。
いや、元はというと自分の配分ミスだということを松宮はわかっている。膨らんだ仕事のさばき方を間違えたというわけだ。
けれど、どうしても今晩までに仕事を終わらせたい。
「なんとかするしか、ないなぁ」
やるときは、やるしかない。
松宮はペンを握った。
✿
「こっち、ラスト、終わりました」
「トーン、終了です!」
次々と原稿の完成をアシスタントが告げていく。
「と、いうことは……」
松宮は、ほっと胸をなでおろした。
「先生、終了です。……よかった、朝にならなくて」
古賀が力尽きた顔で微笑んだ。時計を見やる。午後九時半。
「やっと、帰れます」
「うん、ありがとー」
松宮はべたりと机の上につっぷした。やった、やりきった。そんな達成感とともに疲労感が襲う。
「とりあえず、みんな、帰れる……で。俺は……」
「ちょっと先生、変なとこで寝ないでよ。もう、門倉くん、呼んでくるからね」
だんだんと古賀の声が小さくなる。そして、消えた、
✿
「あっ!」
松宮は目を覚ました。
自分が、寝室のベッドの上に横たわっているのに気がつく。参った。あのあと、原稿が仕上がり、仕事が終わった解放感と安堵から、疲労感と睡魔に負けた。そのまま寝落ちてしまったことに気が付いた。
それなら誰が、自分をここまで運んでくれたというのだろうか。古賀やアシスタントたち? ――否という答えが松宮の頭の中に浮かんだ。
「門倉さん?」
虚空に向けて彼の名前を呼ぶ。ただの人名ではない。それを口にできること自体が、幸福感をもたらすような、そんな人物の名前だ。
「なんだよ。松宮」
「え」
ただひとりごとのつもりだった。しかし、それは明らかに門倉文明の声で返事が返ってくる。
「寝ぼけているのか?」
その優し気な声に鼓膜から癒される。
そして、彼の顔が、松宮が常に見ていたい人物の顔が目の前に現れて、松宮は思わず、彼に抱き着いた。
「あれ、門倉さんは?」
疲れた、休憩。
そう言って、仕事の途中で切り上げた松宮は、リビングへと移動した。しかし、門倉の姿がない。
門倉は今日、仕事がオフなので、一日中いると言っていたはずだ。それなのに。
「もー、先生、何やってんの、はやくして!」
アシスタントの古賀が悲鳴をあげる。
「とっとと、終わらせないと明日になっちゃうんだからね!」
「えーっ」
「えーじゃないでしょ、えーじゃ!」
仕方ない。
しぶしぶと仕事に、戻る。
いや、元はというと自分の配分ミスだということを松宮はわかっている。膨らんだ仕事のさばき方を間違えたというわけだ。
けれど、どうしても今晩までに仕事を終わらせたい。
「なんとかするしか、ないなぁ」
やるときは、やるしかない。
松宮はペンを握った。
✿
「こっち、ラスト、終わりました」
「トーン、終了です!」
次々と原稿の完成をアシスタントが告げていく。
「と、いうことは……」
松宮は、ほっと胸をなでおろした。
「先生、終了です。……よかった、朝にならなくて」
古賀が力尽きた顔で微笑んだ。時計を見やる。午後九時半。
「やっと、帰れます」
「うん、ありがとー」
松宮はべたりと机の上につっぷした。やった、やりきった。そんな達成感とともに疲労感が襲う。
「とりあえず、みんな、帰れる……で。俺は……」
「ちょっと先生、変なとこで寝ないでよ。もう、門倉くん、呼んでくるからね」
だんだんと古賀の声が小さくなる。そして、消えた、
✿
「あっ!」
松宮は目を覚ました。
自分が、寝室のベッドの上に横たわっているのに気がつく。参った。あのあと、原稿が仕上がり、仕事が終わった解放感と安堵から、疲労感と睡魔に負けた。そのまま寝落ちてしまったことに気が付いた。
それなら誰が、自分をここまで運んでくれたというのだろうか。古賀やアシスタントたち? ――否という答えが松宮の頭の中に浮かんだ。
「門倉さん?」
虚空に向けて彼の名前を呼ぶ。ただの人名ではない。それを口にできること自体が、幸福感をもたらすような、そんな人物の名前だ。
「なんだよ。松宮」
「え」
ただひとりごとのつもりだった。しかし、それは明らかに門倉文明の声で返事が返ってくる。
「寝ぼけているのか?」
その優し気な声に鼓膜から癒される。
そして、彼の顔が、松宮が常に見ていたい人物の顔が目の前に現れて、松宮は思わず、彼に抱き着いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
年上が敷かれるタイプの短編集
あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。
予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です!
全話独立したお話です!
【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】
------------------
新しい短編集を出しました。
詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる