膝小僧を擦りむいて

阿沙🌷

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「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
 空になったお皿たちを前に合掌する新崎に千尋が微笑んだ。
「何かを作るって気分がいいですね」
「ええ、はい。作ってもらえるのって幸せです」
「そんなこと、言って。きみっていつも幸せって顔してるのに」
「それは千尋さんに会えるだけで幸せですから」
「そう? じゃあ、ぼくがいないときは、どんな顔してる?」
「えー。こうですかねぇ」
 新崎は、きりっと凛々しい表情を作ってみたつもりだったが、それは失敗に終わった。
「全然、変わってませんが」
「……千尋さんの前だからです」
「はいはい。じゃ、お皿、さらっと洗ってしまうので、しばらくゆっくりしていてください。あ、でも横になるのはだめですよ、新崎くん」
「牛になっちゃうからですか」
「もー」
「もーって、ちょっと千尋さん可愛すぎ……!!」
 新崎、悶絶。
「ちょっと、もう、俺、自信ないですよ。千尋さん目の前にして、一番かっこよく思われたいひと目の前にして、ぐだぐだで。こんなんでかっこいい役者やれるかなぁってぐらいで」
 あ。
 ことばに出したあとに新崎は気が付いた。
 言ってはならないことを言ってしまったことに。
「あ、あ! 今のはナシ!! ごめんなさい、情けないことを……ほんと、さっきのは忘れてくださいっ!」
「新崎くんさぁ」
「千尋さん?」
 ずいっと千尋が新崎の前に顔を出してくる。
「な、なんですか?」
「たまには、キスでもする?」
「え……」
 一気に、頬が熱を持ち出す。新崎の視線は、その前に置かれた愛する人へと注がれる。ただ凝視するだけで精いっぱいだ。
 千尋から求めてくることなんて、初めての経験。完全に彼はフリーズしたのだった。
 そんな新崎の反応に千尋は、ふっと身体を離す。
「じょーだんです」
 と、言ってみる。
 そして、新崎の反応をじっと見守った。
「俺、からなんですね、いつも」
「へ?」
「手を出すのはいつも俺からだし。でも、冗談でも、そう言ってもらえるのは、その……」
「あっ、あっ、ま、待って! ちょっと、新崎くん!?」
 しまった。千尋は新崎に触れようとした。もしかしたら、嫌だったかと思って、はぐらかすために「じょーだん」なんて言ってしまった。それが、逆だったらしい。
「あの、先程の前科が……あるので、ストップ」
 その声に千尋の手は新崎との間の空間に落ちた。
「みっともなくて、すみません……」
「あ、いや、そんなことは……」
「正直、いってください。俺って、求められてるイメージとは本当に逆で」
「いや、求めてないけど?」
 千尋の声に新崎は目を丸くした。
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