膝小僧を擦りむいて

阿沙🌷

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「お前なあ……」
 酒田はひとつため息をついた。
「至極まっとう」
 確かに。
 と、いうか。
 それ以外に、歩める道を新崎は知らない。
「たっく、こういうやつなんだな。お前」
「え、あ、はい?」
「あのさ、千尋崇彦がTVテレビドラマやんの知ってる?」
「は、はい!?」
「その様子じゃ知らなかったんだな。あー、で、そのドラマの主役争奪オーディションが六月」
「そそそそそそそんなのって」
「動揺しすぎ」
 新崎の震えに酒田は、ふっと軽く笑った。
「まー、伊東さんも、お前が千尋さんのえげつないファンだって知っているから、頑張りすぎちゃわないように言い出せなかったんだろうけれどな」
「え?」
「お前さ。頑張らないと俳優この仕事、できないわけ?」
 どういう意味だ。
「頑張ってやるのってさ、途中で頑張れなくなったら、それができなくなるってことだ。わかるか?」
「え、えっと……」
「持続可能ってのを目指せよ。お前は伸びしろある。次がある。未来がある。だからさー、つまんないところでへばって欲しくない。頑張らないでほしい」
 そのことばが欲しかったのだ。今、目の前に与えられて、そのふいうちに、目の奥が熱くなる。
「酒田さんの言っていることの半分、意味不明ですけど」
「えー」
「俺って俳優向いていますかね」
 言っちゃいけないことばだ。俳優目指して、俳優をやっている人間が口にしてはならない。
 けれど、どうしても、欲しかった。
「は? キモ」
 酒田はわかりやすい人間だった。
「そんなこと、ひとに聞くなよ。お前、役者だろ? 役者には自分の体しかない。自分の身一つで成り上がろうってやつが言えたことじゃねぇよ、うーわ、キッモォ」
 うげえと顔をしかめる酒田に新崎は吹き出して笑った。
「それ、その顔。カメラの前でやっちゃだめですよ。かっこいいってイメージ崩れる」
「ほら、そういうところだよ」
「え?」
「そーいう、どうやって売り出してぐかってのは事務所の仕事。お前、役やってないときも、新崎迅人っていう役やってんのかよ。余計に気持ち悪い」
「え……」
「俺も二枚目扱いされてるけど、かっこよかないよ。頭の中なんて最愛の弟にどうやったら好かれるかってそれだけだし。すっげえ目もあてられないほど、寝相悪いし」
「あ、それは撮影でしっています」
「だろ? 俺の寝相が悪いせいで、子どものころから夢だった弟と一緒の布団で寝るって夢をだな、俺は……」
「どんな夢ですか!」
「いいじゃんか、兄にとって弟は奇跡だ! 宝物だ!」
「……ブラコン?」
「うるせ、この若造が!!」
「若造ですみません。でも」
 新崎は笑った。
「いずれのし上がる若造ですから」
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