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✿リバーシ
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白、黒、白、黒。
百八十度、ひっくり返せば変わってしまう。白なのか黒なのか。どちらが表でどちらが裏なのか。どちらが本当の姿なのか。そもそも、そんなものを求めてもしょうがないのかもしれない。
「あがり。どう見ても完全圧勝!!」
画面一面に白い星が輝く。ピースもしくはVサインを掲げて勝利宣言をした白糸馨に黒磐夕一は視線をよこした。
黒磐の瞳は敗者の悔しさも勝者への羨望も何も灯していない。そもそも今回のリバーシ勝負は昼休みにゆっくりとスマホをいじっていた黒磐の静寂を突き破るように「ねえねえ、イワちゃん。リバーシのアプリ、インストールしてるっしょ。一戦しよ」と、騒がしく白糸が仕掛けてきたものだった。
「すごい? すごいよねぇ、ボク」
頬を赤く染めて喜ぶ男子高校生に向き合い、黒磐は言い放つ。
「ぶりっこはよせって」
「ええー、ひどーい」
ひどいと言われても。黒磐は白糸の足元に視線を落とした。くるぶしのクシュッと皺になる靴下。その上が問題。本来なら学生服のスボンの裾が見えるはずなのだが、白糸の白い肌。すらっとした足を上へとたどれば、折り目がきちんとついたスカート。
これが似合わない女装であればどれほど黒磐も楽だろう。耳元を隠すくらい伸ばした髪。はっきりとした目鼻立ちの小さな顔。真昼の喧騒とは離れた窓際の寂しい黒磐の机の前に立つ美少女の風体。ささやかな動作ですら、しなやかで繊細だ。それでいて生物学上は黒磐と同じなのである。
だから。
気を付けなくてはならない。
黒磐は何度も自分に言い聞かせている。白糸と一緒にいるときにかすかに感じるシャンプーの匂いにドキマギしたり、クラスではやっているソシャゲーでもないリバーシに手を出してわざわざ自分のところに来るのもただの偶然だと。
外見も女子であれば中身も女子に似ているのだ。思わせぶりな言動ばっかりだが、決してこちらに心があるわけではない。そこを勘違いすれば痛い目にあうのは自分なのだ。そうして黒磐は感情の灯らない目で白糸を見つめるのだった。
「じゃ、まずひとつめ。明日の菓子パン係よろしく」
「買い出しが罰ゲームか。パシリじゃないか」
「そーです。じゃ、二戦目しますか」
「しなくちゃだめか」
「次、イワちゃんが買ったら罰ゲームの取り消しを要求できます」
白糸の大きな瞳が黒磐をじっと見つめる。眼球の中に閉じ込めれらた黒磐は自分が発そうとしていた言葉を失った。黒磐の瞳が揺れる。
白糸に凝視されていると自分の中にある隠しておきたいことすらすべて見透かされてしまっているんじゃないかという気になっている。もし、そうなのだとしたら、ひどいのは白糸だ。彼がもし、この気持ちを知っているのならば、こんなひどい仕打ちはない。
「のった」
言わされた。完全に。白糸が欲しい言葉を言ってしまった自分に黒磐は肩を落とす。
だが。気持ちを切り替えなければ、先ほどと同じ結果になってしまう。
「よし、やるぞ」
腕まくりをする動作をして、黒磐は小さな画面に浮かんできた盤上を凝視した。
開戦。
黒磐は嬉しそうに肩を揺らす白糸を見て、ため息をついた。この戦いは長期戦になりそうだ。
(了)
百八十度、ひっくり返せば変わってしまう。白なのか黒なのか。どちらが表でどちらが裏なのか。どちらが本当の姿なのか。そもそも、そんなものを求めてもしょうがないのかもしれない。
「あがり。どう見ても完全圧勝!!」
画面一面に白い星が輝く。ピースもしくはVサインを掲げて勝利宣言をした白糸馨に黒磐夕一は視線をよこした。
黒磐の瞳は敗者の悔しさも勝者への羨望も何も灯していない。そもそも今回のリバーシ勝負は昼休みにゆっくりとスマホをいじっていた黒磐の静寂を突き破るように「ねえねえ、イワちゃん。リバーシのアプリ、インストールしてるっしょ。一戦しよ」と、騒がしく白糸が仕掛けてきたものだった。
「すごい? すごいよねぇ、ボク」
頬を赤く染めて喜ぶ男子高校生に向き合い、黒磐は言い放つ。
「ぶりっこはよせって」
「ええー、ひどーい」
ひどいと言われても。黒磐は白糸の足元に視線を落とした。くるぶしのクシュッと皺になる靴下。その上が問題。本来なら学生服のスボンの裾が見えるはずなのだが、白糸の白い肌。すらっとした足を上へとたどれば、折り目がきちんとついたスカート。
これが似合わない女装であればどれほど黒磐も楽だろう。耳元を隠すくらい伸ばした髪。はっきりとした目鼻立ちの小さな顔。真昼の喧騒とは離れた窓際の寂しい黒磐の机の前に立つ美少女の風体。ささやかな動作ですら、しなやかで繊細だ。それでいて生物学上は黒磐と同じなのである。
だから。
気を付けなくてはならない。
黒磐は何度も自分に言い聞かせている。白糸と一緒にいるときにかすかに感じるシャンプーの匂いにドキマギしたり、クラスではやっているソシャゲーでもないリバーシに手を出してわざわざ自分のところに来るのもただの偶然だと。
外見も女子であれば中身も女子に似ているのだ。思わせぶりな言動ばっかりだが、決してこちらに心があるわけではない。そこを勘違いすれば痛い目にあうのは自分なのだ。そうして黒磐は感情の灯らない目で白糸を見つめるのだった。
「じゃ、まずひとつめ。明日の菓子パン係よろしく」
「買い出しが罰ゲームか。パシリじゃないか」
「そーです。じゃ、二戦目しますか」
「しなくちゃだめか」
「次、イワちゃんが買ったら罰ゲームの取り消しを要求できます」
白糸の大きな瞳が黒磐をじっと見つめる。眼球の中に閉じ込めれらた黒磐は自分が発そうとしていた言葉を失った。黒磐の瞳が揺れる。
白糸に凝視されていると自分の中にある隠しておきたいことすらすべて見透かされてしまっているんじゃないかという気になっている。もし、そうなのだとしたら、ひどいのは白糸だ。彼がもし、この気持ちを知っているのならば、こんなひどい仕打ちはない。
「のった」
言わされた。完全に。白糸が欲しい言葉を言ってしまった自分に黒磐は肩を落とす。
だが。気持ちを切り替えなければ、先ほどと同じ結果になってしまう。
「よし、やるぞ」
腕まくりをする動作をして、黒磐は小さな画面に浮かんできた盤上を凝視した。
開戦。
黒磐は嬉しそうに肩を揺らす白糸を見て、ため息をついた。この戦いは長期戦になりそうだ。
(了)
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