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2019
11月①散歩中の悲劇/土曜日の二人/Run/ハーバリウム/三文の得/焼き芋/ティータイム
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散歩中の悲劇 2019.11.01
散歩中に君を見つけた。
手を振れば気が付いた君が近付いてくる。
駆け寄ろうとした僕より先に相棒が飛びつくた。
狂気のペンライトの様に左右に尻尾を振る柴犬はペロペロと君の頬を舐める。
困ったように眉を下げる君。
飼い犬に先を越されてしまったようでちょっとだけ悔しいような金曜の夕方。
土曜日の二人 2019.11.02
炊飯器の中身はホットケーキミックス。
炊き上がりのベルが鳴れば、
蒸されたホットケーキが出現した。
「うわ、すごいな!」
「だろ? 姉貴に教えてもらったんだぜ!」
白い歯で笑う彼が輝いて見える。
土曜日。
どこかに行くわけでもなく二人で料理を作る。
ただそれなのになんだか楽しい。
Run 2019.11.03
肺に入った空気は冷たく乾燥していて
熱く炎を宿らせた肉体の内側からは血がにじみそうだ。
硬いアスファルトの振動、
爆発しそうな心臓。
曇天の秋。
ペースを落とすランナーを追い抜いて、
僕は彼を目指す。
遥か先をリードする彼の背中を、
その肩を、
突き抜ける一陣の風のように
追い抜きたい。
ハーバリウム 2019.11.04
「そこ、詰めて」
指示通り彼はピンセットを動かす。
「どう?」
「うん、いいんじゃない?」
紫陽花に千日紅。
オイルを注げばより鮮やかになる色彩。
瓶を塞げばハーバリウムの完成。
彼の彼女へのプレゼント。
「よかったな」
瓶の中に花を閉じ込めるように、
僕は笑顔の中に想いを閉じ込めるのだ。
三文の得 2019.11.05
いつもよりちょっと
早めに起きられた僕。
急に後ろから抱きしめられて、
「朝早いな」と
彼に褒められれば
悪い気はしない、
が。
「うっ、お前何やってんだよ‼」
滴る水、シャワー後らしい。
「何って?」
この不思議そうな顔は
全然分かっていない。
朝イチで半裸に遭遇する
心臓への悪さを。
焼き芋 2019.11.06
音を立てながら包み紙を捲れば、
水蒸気と共に
紫色に包まれた黄金色が顔を出した。
冷える身体に染み込む温かさと
芳しい香りに包まれ、ため息をつく。「え、芋嫌いだった?」
吐いた息を誤解した彼の慌てた口調を
遮って「好きだよ」と伝えれば、
鮮やかに彼の頬は色彩を増す。
ああ、好きだなぁ。
ティータイム 2019.11.07
お湯にカップの温度にと苦労は続く。
「待った」
ポットへ伸ばした僕の手首を
彼が掴んで静止させた。
「何?」と聞けば
「まだ蒸らし時間が足りない」
と返ってくる。
「最高の一瞬の為には待つ時間も楽しむんだよ」
そう微笑をたたえる彼に
我慢できなくなって
強請ってしまうのは
僕のせいだけではないはずだ。
散歩中に君を見つけた。
手を振れば気が付いた君が近付いてくる。
駆け寄ろうとした僕より先に相棒が飛びつくた。
狂気のペンライトの様に左右に尻尾を振る柴犬はペロペロと君の頬を舐める。
困ったように眉を下げる君。
飼い犬に先を越されてしまったようでちょっとだけ悔しいような金曜の夕方。
土曜日の二人 2019.11.02
炊飯器の中身はホットケーキミックス。
炊き上がりのベルが鳴れば、
蒸されたホットケーキが出現した。
「うわ、すごいな!」
「だろ? 姉貴に教えてもらったんだぜ!」
白い歯で笑う彼が輝いて見える。
土曜日。
どこかに行くわけでもなく二人で料理を作る。
ただそれなのになんだか楽しい。
Run 2019.11.03
肺に入った空気は冷たく乾燥していて
熱く炎を宿らせた肉体の内側からは血がにじみそうだ。
硬いアスファルトの振動、
爆発しそうな心臓。
曇天の秋。
ペースを落とすランナーを追い抜いて、
僕は彼を目指す。
遥か先をリードする彼の背中を、
その肩を、
突き抜ける一陣の風のように
追い抜きたい。
ハーバリウム 2019.11.04
「そこ、詰めて」
指示通り彼はピンセットを動かす。
「どう?」
「うん、いいんじゃない?」
紫陽花に千日紅。
オイルを注げばより鮮やかになる色彩。
瓶を塞げばハーバリウムの完成。
彼の彼女へのプレゼント。
「よかったな」
瓶の中に花を閉じ込めるように、
僕は笑顔の中に想いを閉じ込めるのだ。
三文の得 2019.11.05
いつもよりちょっと
早めに起きられた僕。
急に後ろから抱きしめられて、
「朝早いな」と
彼に褒められれば
悪い気はしない、
が。
「うっ、お前何やってんだよ‼」
滴る水、シャワー後らしい。
「何って?」
この不思議そうな顔は
全然分かっていない。
朝イチで半裸に遭遇する
心臓への悪さを。
焼き芋 2019.11.06
音を立てながら包み紙を捲れば、
水蒸気と共に
紫色に包まれた黄金色が顔を出した。
冷える身体に染み込む温かさと
芳しい香りに包まれ、ため息をつく。「え、芋嫌いだった?」
吐いた息を誤解した彼の慌てた口調を
遮って「好きだよ」と伝えれば、
鮮やかに彼の頬は色彩を増す。
ああ、好きだなぁ。
ティータイム 2019.11.07
お湯にカップの温度にと苦労は続く。
「待った」
ポットへ伸ばした僕の手首を
彼が掴んで静止させた。
「何?」と聞けば
「まだ蒸らし時間が足りない」
と返ってくる。
「最高の一瞬の為には待つ時間も楽しむんだよ」
そう微笑をたたえる彼に
我慢できなくなって
強請ってしまうのは
僕のせいだけではないはずだ。
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