140字BL缶詰

2019

10月②Trick or Treat/ライバルは火燵/誤用・大晦日/うどん

Trick or Treat

思わず凝視したのは
待望の眼差しで手のひらを差し出す
先輩に生えている猫耳。
「何やってんすか？」
「何って……若い子はこういうの好きだと思ったんだがなぁ」
俺の態度に落胆の彼。
年上なのに子供らしい態度が
ちょっと可愛い。
「いいっすけど悪戯希望で」
それで、本当の悪戯っ子は
俺だったりするのだ。

2019.10.31



ライバルは火燵

今年は早めに火燵を出した。
その温もりに疲れが溶ける。
「ただいま」と彼の声。
出迎えの為に火燵から
離れるのが寂しく葛藤してしまう。
そのうち玄関から入ってくるだろうと
待っていたが彼は現れない。
仕方なしに迎えに行けば
ガッツポーズで彼は叫んだ。
「よっしゃ、火燵に勝った！」

2019.10.30



誤用・大晦日

降り続ける雨。
「洗濯物、また溜まっちまう」
ため息をつく潔癖症の彼に
なんだか辛くなる。
「よし！
　じゃ、今日だけ大晦日にしよう」
「は？」
「掃除できる箇所は掃除して
晴れを清々しく迎えようじゃないか！」
「馬鹿、それ大晦日じゃねーよ」
表情を崩した君の笑顔は
雲間から顔を出す太陽と同じだ。

2019.10.29

うどん

「何やってるの？」
台所で足踏みしている君。
よく見ると、シートに包まれた
粘土状の小麦粉の上を行進している。
「見てわからないか、
飯を食わせたろうと言うのだ！」
汗ばむ額に爛々と瞳を輝かせつつ
僕を見つめてくる。
「もしかして……」
「そうだ、うどんだ‼」
僕を尻に敷きたがる君が
麺を敷いていた。

2019.10.28