8 / 13
✿8.
しおりを挟む
✿
新崎の部屋。その机の上に日本料理が並ぶ。女中たちが手分けして運んできてくれた。彼女たちが部屋から去ったのを見て、千尋がため息をついた。
「はぁー。やっぱり、個室のほうがゆっくりできていいねぇ」
「……千尋さん」
「ん? 何?」
「なんで、俺と一緒にいるんですか? 千尋さん、彼らと一緒にご飯食べててもいいんですよ?」
そんな新崎に千尋は思わず、吹き出してしまった。
「え? 千尋さん?」
急に笑い出した千尋に理解が追い付かない新崎。
「あははは。もうやめてよ。そんなふくれっ面、新崎迅人の名前が泣くよ。笑いすぎて、ぼくまで涙が出てきそうだから……!」
腹を抱えだして千尋が身もだえる。
「ちょ、ちょっと……」
「もーだめ。ほんと、新崎くん、きみってぼくのこと、好きなんだねぇ」
え。
「ちょっと、それどういうことですか? えっ、えっ」
「カメラの前ではあんなに輝いていて、現場では役者然として堂々としているのに、変なところで抜けてるっていうか……」
「抜けてる……って、やっぱり俺って抜けてるんですか?」
「うん」
「うんって!! ああ、もう、素直にうなづかないでぇぇ!!」
ダイレクト・アタック。千尋のことばは何よりも新崎に響く。しっかりとした大人な男に、なりたい。けれど、うまくいかない。悔しい。
「あ、でも悪い意味じゃないよ」
「え?」
「そういうのも、含めて。ぼくは、いいと思っている、から?」
「……疑問形、なんですね」
「え、あ。そ、それより、ご飯食べちゃお? ね?」
「そうやって別のこと話題に引き出して、話を変えるのは、千尋さんの癖」
「んもう、性格悪くなってない? あ、あの監督の下にいるせいかな」
途端、ぷつんと糸が切れる音がした。いや、完全にそれは切れた。なんの糸かはわからない。ただ、それが切れたせいで、新崎も切れた。
「え、ちょっと……ん!!」
新崎は千尋へと距離を詰めるとその唇を奪った。
最初は自身の唇を押し付けるだけ。けれど、ひるんだ千尋の隙間から口のなかへと舌を押し込む。
抵抗しようとする千尋の体を抑え込んで、抱きしめて、逃れられないようにする。
新崎以外の場所からは絶対に、逃がさない。
「ぷはっ、あ、あの、新崎くん?」
苦しくて、どんどんと新崎の胸板を叩いていた千尋だったが、新崎の唇がようやく離れ云った途端に、新鮮な空気をやっと吸えた。けれど、乱れた呼吸に肩も揺れる。
それに、いつの間にか新崎に抱きしめられていた。
「なんで、あいつなの!?」
「え?」
そして、目の前の青年はやけにこどもっぽくて。
「今日、監督の現場、見に来たんでしょ! めちゃくちゃ仲いいじゃないですか! ラブラブじゃないですか! わかりあっているじゃないですか! それって俺への当てつけ? 俺が、かっこよくて地位もあってしっかりした大人じゃないから! いつも千尋さんに迷惑かけてばかりで、ガキっぽくて、未熟だから!」
「は……え? ちょっと、待って」
「だから、本当は別れたい? 別れたいんですか? 実際、千尋さんとはまともに会えていないし、まともに恋人っぽいことしてないし、イチャイチャしたいけど、できないし、できていないし、でもしたいし、したいけど、千尋さん相手だと俺ヘタレるし、なんか勇気でないし、でもしたいし、でもなんかこう、ああーって感じで、むしゃくしゃするし、でも俺は!! 千尋さんだけなんだよ!!」
新崎はぎゅーっと強く彼を抱きしめた。
「ん。こら、折れる。骨、折れちゃうから」
「ヤダ。千尋さん、どっか行っちゃうなら俺がへし折る」
「怖いこと、いわないの。それがイケメン俳優のすることですか?」
「イケメンじゃないもん。もうダメンズ。マダオ。ぐだぐだすぎて自分でも嫌になる。けど、かっこいい人間になんてなれない」
「充分かっこいいと思っていたんだけどなぁ」
「なんで過去形なの!? ほら、やっぱりね。過去形ってことだから!!」
「はいはい、落ち着いて、落ち着いて。深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて」
新崎は、千尋の肩口で呼吸した。
「はー、やべぇ。千尋さんの匂いがする……」
「こら! 嗅がない!!」
「自然に鼻に入ってくるから不可抗力。というか興奮する」
「しない!! 落ち着け!!」
新崎の部屋。その机の上に日本料理が並ぶ。女中たちが手分けして運んできてくれた。彼女たちが部屋から去ったのを見て、千尋がため息をついた。
「はぁー。やっぱり、個室のほうがゆっくりできていいねぇ」
「……千尋さん」
「ん? 何?」
「なんで、俺と一緒にいるんですか? 千尋さん、彼らと一緒にご飯食べててもいいんですよ?」
そんな新崎に千尋は思わず、吹き出してしまった。
「え? 千尋さん?」
急に笑い出した千尋に理解が追い付かない新崎。
「あははは。もうやめてよ。そんなふくれっ面、新崎迅人の名前が泣くよ。笑いすぎて、ぼくまで涙が出てきそうだから……!」
腹を抱えだして千尋が身もだえる。
「ちょ、ちょっと……」
「もーだめ。ほんと、新崎くん、きみってぼくのこと、好きなんだねぇ」
え。
「ちょっと、それどういうことですか? えっ、えっ」
「カメラの前ではあんなに輝いていて、現場では役者然として堂々としているのに、変なところで抜けてるっていうか……」
「抜けてる……って、やっぱり俺って抜けてるんですか?」
「うん」
「うんって!! ああ、もう、素直にうなづかないでぇぇ!!」
ダイレクト・アタック。千尋のことばは何よりも新崎に響く。しっかりとした大人な男に、なりたい。けれど、うまくいかない。悔しい。
「あ、でも悪い意味じゃないよ」
「え?」
「そういうのも、含めて。ぼくは、いいと思っている、から?」
「……疑問形、なんですね」
「え、あ。そ、それより、ご飯食べちゃお? ね?」
「そうやって別のこと話題に引き出して、話を変えるのは、千尋さんの癖」
「んもう、性格悪くなってない? あ、あの監督の下にいるせいかな」
途端、ぷつんと糸が切れる音がした。いや、完全にそれは切れた。なんの糸かはわからない。ただ、それが切れたせいで、新崎も切れた。
「え、ちょっと……ん!!」
新崎は千尋へと距離を詰めるとその唇を奪った。
最初は自身の唇を押し付けるだけ。けれど、ひるんだ千尋の隙間から口のなかへと舌を押し込む。
抵抗しようとする千尋の体を抑え込んで、抱きしめて、逃れられないようにする。
新崎以外の場所からは絶対に、逃がさない。
「ぷはっ、あ、あの、新崎くん?」
苦しくて、どんどんと新崎の胸板を叩いていた千尋だったが、新崎の唇がようやく離れ云った途端に、新鮮な空気をやっと吸えた。けれど、乱れた呼吸に肩も揺れる。
それに、いつの間にか新崎に抱きしめられていた。
「なんで、あいつなの!?」
「え?」
そして、目の前の青年はやけにこどもっぽくて。
「今日、監督の現場、見に来たんでしょ! めちゃくちゃ仲いいじゃないですか! ラブラブじゃないですか! わかりあっているじゃないですか! それって俺への当てつけ? 俺が、かっこよくて地位もあってしっかりした大人じゃないから! いつも千尋さんに迷惑かけてばかりで、ガキっぽくて、未熟だから!」
「は……え? ちょっと、待って」
「だから、本当は別れたい? 別れたいんですか? 実際、千尋さんとはまともに会えていないし、まともに恋人っぽいことしてないし、イチャイチャしたいけど、できないし、できていないし、でもしたいし、したいけど、千尋さん相手だと俺ヘタレるし、なんか勇気でないし、でもしたいし、でもなんかこう、ああーって感じで、むしゃくしゃするし、でも俺は!! 千尋さんだけなんだよ!!」
新崎はぎゅーっと強く彼を抱きしめた。
「ん。こら、折れる。骨、折れちゃうから」
「ヤダ。千尋さん、どっか行っちゃうなら俺がへし折る」
「怖いこと、いわないの。それがイケメン俳優のすることですか?」
「イケメンじゃないもん。もうダメンズ。マダオ。ぐだぐだすぎて自分でも嫌になる。けど、かっこいい人間になんてなれない」
「充分かっこいいと思っていたんだけどなぁ」
「なんで過去形なの!? ほら、やっぱりね。過去形ってことだから!!」
「はいはい、落ち着いて、落ち着いて。深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて」
新崎は、千尋の肩口で呼吸した。
「はー、やべぇ。千尋さんの匂いがする……」
「こら! 嗅がない!!」
「自然に鼻に入ってくるから不可抗力。というか興奮する」
「しない!! 落ち着け!!」
3
✿ 新崎×千尋 過去作一覧 ✿
1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
初夢はサンタクロース
阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。
「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」
顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け
俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!!
※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。
憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×脚本家SS
阿沙🌷
BL
新進気鋭の今をときめく若手俳優・新崎迅人と、彼の秘密の恋人である日曜脚本家・千尋崇彦。
年上で頼れる存在で目標のようなひとであるのに、めちゃくちゃ千尋が可愛くてぽんこつになってしまう新崎と、年下の明らかにいい男に言い寄られて彼に落とされたのはいいけれど、どこか不安が付きまといつつ、彼が隣にいると安心してしまう千尋のかなーりのんびりした掌編などなど。
やまなし、いみなし、おちもなし。
昔書いたやつだとか、サイトに載せていたもの、ツイッターに流したSS、創作アイディアとか即興小説だとか、ワンライとかごった煮。全部単発ものだし、いっかーという感じのノリで載せています。
このお話のなかで、まじめに大人している大人はいません。みんな、ばぶうぅ。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる