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「大丈夫?」
 マネージャーに新崎は笑みを作って答える。
「すみません。気が抜けてしまって」
「もぉ。それなら平気なのね? 新崎くんってのめり込むとこうだから」
「はい……すみません。ところで」
 新崎は彼に向かい合った。
「あの、ち、千尋さん……ですよね?」
 信じられない。
 彼を目の前にして、声が震える。
「あの、どうしてここに?」
 けれど、それは厳格ではなくて、本人だった。
「どうしてって……いや、別に大きな理由はないんだけど。監督が知り合いだったから、すこし現場を見せてもらおうかなー的な?」
 どうしてそこで小首をかしげるのか。年上のはずの千尋があまりにも可愛らしくて、新崎は叫んで走り出したくなる衝動を必死に抑えた。
「そ、そうなんですか?」
「そうだとも!」
 すると横から監督がしゃしゃり出てくる。
「いやぁ、何年振りですかな、千尋さん」
「年もいってないでしょう。新年の挨拶で会ったばかりじゃないですか」
 本当に知り合いらしい。それも、ずいぶんと仲の良い雰囲気だ。
「彼とは、前にケータイ小説が映画化するってときに初めて会ってねぇ」
「え?」
「あ、ああ。あれか。確かぼくが担当していた先生がコミック化をした……」
「そうそう、それそれ」
 うん? 話が読めない。
 そんな新崎に気が付いて、千尋が説明する。
「ずいぶんと前だよ。とあるケータイ小説を原案に漫画化の仕事があって、ほら、ぼく、もともとは漫画編集者でしょう。担当している新人作家に依頼が来て……」
「で、その作品が映画化もしようって企画が持ち上がって俺が助監督」
「映画化の際にスタッフや制作委員会のかたたちと打ち合わせしたことがあって、そのとき、彼と知り合ったんだよ」
「何せ、ドラゴン・クイーンのTシャツ着てたからな。千尋さん、目を輝かせて俺に、『DCドラゴン・クイーン好きなんですか』ってさ」
「もう、あの時はその……!」
「いいじゃん。可愛かったよ、千尋さん」
「か、可愛いって……よしてくださいっ」
「どうして? 今でも可愛いじゃないですか。ほんと、年取ってんのかな」
「取ってます! 最近腰痛がひどい中年ですよ、ぼくは!」
 千尋さん、それ自慢するように言うことなのか。と、いうより。
 新崎は少し不快に思った。いくら監督とはいえ、千尋に可愛いを連発するのは――なぜか、胸がもやもやする。
「ま、そんなわけで気が済むまで見てってくれ」
「仕事で近く寄っただけですから!」
「なんだぁ。俺の活躍を見に来てくれたんじゃないのか!」
「違います! もう、監督の性格、いじわるなんだから!」
 か、可愛い。
 口先をつんとした千尋に新崎は胸をときめかせながらも、どろどろとした重たい気持ちになった。
「あの、えーっと、そろそろ撤収しません?」
 酒田がそろーっと提案した。
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