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「おっと、新崎くんのその笑い方がでてきたということは、何か重要な意味があるということですな!」
 しかし、それは完全に逆効果だったということに気が付く。
「なっ!」
「酒井のおじさんをなめるなよぉ。こちとら俳優、人間観察が趣味! 新崎くんの笑い方の癖なんてとっくに知っているんだからな!」
 ば、ばれてる!?
「はーい、そろそろ次のシーン、行きます! 新崎くん、スタンバイお願いします」
「は、はい!」
 助け舟か。スタッフから声がかかった。新崎はそそくさと立ち上がる。そのとき。
「え……!?」
 新崎は、現場の端のほうにある人影を見つけて、唖然とした。
「どうしたの? 新崎くん?」
 立ち尽くしたままの新崎に撮影スタッフが近寄る。
「あ、いいえ。別に……」
 そう。それは絶対に気のせいに違いない。
 と、いうのも、新崎が見た気がした・・・・人影は、彼が会いたくてしかたがない人、千尋そのひとのものに見えたからだ。
 だが、千尋は東京にいるはずだ。こんな場所にいるはずがない。
 新崎はメイクを崩さないように気を付けながら、自分の頬を叩いた。
 寝ぼけているのなら、そんなもの、どこかに振り捨てて、今はただ集中する。目の前のことに! 演技に! 自分のできることに! これから自分がすること、すべて、一挙一動に全神経を注げ! 自分にしかできない演技コトをしろ!!



「はい、カット!」
 監督の声が高らかに春の空に響き渡った。
「オーケイです。新崎くん、少し休んで」
「は、はい!」
 新崎は再びパイプ椅子へと戻る。喉が渇いた。マネージャーが慌ててペットボトルを差し出す。ふたをあけて、口をつける。喉奥へと水を流し込んだ。その冷たい感触が食堂を通って胃へと落ちていくのを感じる。心地がいい。
「大丈夫ですか? 新崎さん」
「ああ。うん」
「今日はあと、ワンシーン撮って、終わりだそうです」
「はい、頑張ります!」
 小休憩を取ったあと、また声がかかった。
「新崎くん、スタンバイ、お願いします!」
「はい!!」
 新崎はカメラの前に立った。



「はい、お疲れさまです。今日の撮影はこれまで!」
 その一声に、新崎の全身から力が抜けた。立っていられなくなり、ふらりと地面に倒れる。
「新崎くん!?」
 近くにいた酒井が飛んできた。
「大丈夫!?」
「あ……はい。いや、あの、緊張が急に抜けちゃって」
「まったくもう。困った後輩だな」
 そう言って笑みをたたえた酒井を見て、そして、その奥にものすごい形相で佇んでいたひとを見た。
「……! 千尋さん!!」
 思わず声に出して叫んでしまう。そのひとの名を。
「え?」
 酒井が驚いて、振り返った。その先に、千尋はいた。
 そう、夢などではない。駆け寄ってきた千尋の顔面は真っ青だった。
「新崎くん!?」
 その声。まさしく千尋のものだった。
「大丈夫ですか?」
 マネージャーも飛び出してくる。新崎は恥ずかしさに頬を赤く染めて、立ち上がった。
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