水槽来たり

阿沙🌷

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水槽来たり

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 はまりだすと、とことん凝りだしてしまう性格らしい。そんな松宮侑汰という人間を眺めながら門倉史明はため息をつく。完全に無駄遣いじゃないか、というのが今回の大掛かりな買い物に対する門倉の意見なのである。
 業者の男が松宮の住んでいるマンションの一室に巨大な水槽が運び込んでいく。門倉の家の風呂の大きさくらいあるそれは広い玄関を通り抜けてダイニング・ルームへとたどり着いた。
「そこ、そこに置いてくだはい」
 せっせと指示を出す松宮の後ろ姿を門倉は何も言わずに見守る。
「そう、そこにコンセントがあるので、これで水温と空気の管理をしようかなって。あ、向きはこっち側に、はい、ありがとうございます」
 細かな松宮の注文通りの配置にセットすると、もう業者の男もくたくたで汗びっしょりであった。
「終わったか?」
 門倉が松宮に声をかける。振り返って真っ先に笑顔を見せる松宮は可愛い。けれど決して侮ってはならない存在だということを門倉は今までの経験で知っていた。
「はい、見て! 俺たちの牙城にぴったりだと思いませんか?」
 嬉しそうに頬を薔薇色に染めながら、どでかい水槽を指差す松宮。
「いっとくが、俺たちの牙城じゃないからな。ここはお前の家」
「あ、そうですね、俺たちの愛の巣」
「いやいやいや、違うから、違うからな」
「違いませーん。だって、こことか、あそことかで、俺たち、あーんなことや、こーんなこと、してますもんねーっ」
 門倉は松宮の指差すソファや寝室から思い起こす行為に、げっそりと肩を落とした。
「……あれは一時的な何かの間違いでした」
「ワンナイトラブってやつですか! いえぃ、ロマンチック!」
「お前それ、絶対、意味わかってねぇよな」
「何度も繰り返される一夜限りの夜って絶対にラブ・オブ・ラブじゃないっすか!
いやん」
「何が。いや、どういう意味だよ」
「それより、これからこの水槽、準備したいんで、一緒にオブジェ入れるの、手伝ってくれません」
「へっ!?」
「さあさあ、初めての共同作業ってやつですよ。レッツ・ケーキカット!」
「いや、意味全然分からないからな」
 一体いつになったら、魚が入るんだ。門倉が熱帯魚の姿を見るのはまだ先の話である。

(了)

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