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3.
しおりを挟む竹野の反応は、特になかった。
棒読みのような抑揚のない声で、「わー」と発してその後、有馬にくるりと身体を三百六十度見せるように言い付けた。
「へー、あー。うーん。じゃ、横になってくれる?」
「は?」
「横になって、両肘をたてて、頬杖ついて、寝転ぶ感じで。あ、ベッド行く?」
カッと有馬の頬が赤くなった。
「ほら、ここじゃ狭すぎるし、床じゃ痛いだろ? さ、おいで」
「お、お前なあ!!」
心臓殺しだ。まったくもって、そういう意味で言ったのではないのは分かる。けれど、ときおり竹野のそういう言動は、ずるい。
「羞恥に震える俺に対して、そこまでお前は冷酷になれるんだな、このサディスト」
「はいはい。じゃ、お手々繋いであげるから、おいで」
何が、お手々繋いであげる、だ。有無言わないためじゃないか。有馬は文句を云いながらも、竹野に引っ張られて、彼のベッドの上に身を沈めた。
「そうじゃない。頬杖ついて。そ。で、ちょっと挑戦するような感じで睨みつけて見て」
「もう既に睨んでる」
「恨み、要らない」
「……なあ、これ、どういうまんがになるわけ?」
「へ?」
「男がマイクロビキニ着て、上目遣いで、挑発するまんがって何なのさ」
「えー。男じゃないよ」
「は?」
「主人公のライバルの女の子。年上でセクシーキャラなのね。で、主人公は自分がこどもっぽいことに悩んでてっていう、夏を舞台にした青春ラブストーリー。甘酸っぱくて、背伸びした足先がちょっと痛くなっちゃうやつね」
「……毎回、思うんだけど、よくお前みたいな性格のやつが、きゅんきゅん系のまんがを描けるもんだと俺は思います」
「おほめいただきありがとう。さ、俺を挑発してみて」
「……それは無理。ポーズだけはやるから、なんとかしろ」
「まあ、そうお堅いこといわず」
などといいつつ竹野が構えたデジカメのシャッターを切る。撮りすぎではないかと思うくらい、カメラに有馬をおさめたのち、竹野はスケッチブックとエンピツをとりだした。
「おい、まだやるのかよ」
「実物見て書くのってダイジなんだけど」
「はいはい、はやく済ませてくれ」
「りょーかい」
竹野はさらさらと紙面に線を足していった。それが、早い。素早い手の動きのなかで、芯がけずれていき、次第に紙の上に、人物像が現れてくる。
「うーん。なんかなぁ」
「なんだよ。不満か」
「うーん。あ、じゃあ、ちょっとポーズ変えよう。はい、こーして」
「うええ」
「あと、もっと足! 今度は身体を上にして、そのまま足枉げる! はい!」
「お前は鬼か!」
「はいはい、いい子いい子。って、あー」
「こら! 俺の股見て、嘆くな!」
「あー」
「嘆くな!」
「……よし、なかった、なにもなかったということで」
「死ぬ! 俺、羞恥に殺される!」
その後、何度かポーズを変えられて、カメラに抑えられ、さらにスケッチされて、ようやく解放される、となったときだった。
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