17 / 34
#うちの子おやつ争奪戦 最後には甘く溶ける
1.
しおりを挟む「ねえ、千尋さん」
シャワーを浴びたあと、濡れた髪をタオルで拭いながら新進気鋭のイケメンである俳優新崎迅人は、リビングでくつろいでいる千尋崇彦に声をかけた。
「どうしたの?」
独唱用の眼鏡をかけた彼は、読み進めている最中の本から、目を離さない。新崎は、すこしむっとして、彼に急接近した。耳元でささやく。
「たまには、おやつをかけてジャンケンしませんか?」
「え?」
千尋が、驚いて顔を上げた。すぐ鼻の先に、新崎の顔があり、千尋は、とっさに後ろに下がろうとしたが、椅子には背もたれがある。そこから先に背中を移動させることはできない。
新崎はにやりと微笑んだ。
「さっき、風呂入る前に、冷凍庫の中にアイス入っているか、見て来たんです」
「え、ええ、ああ、そうか」
どきまぎしながら、千尋は答えた。既に何度も互いの身体を確認している関係であるはずなのに、彼は風呂上りの新崎から視線をそらそうと必死だ。どこを見ていいのか、わからずに、目玉がきょろきょろしている。そんな彼が可愛らしくて、新崎は今にも内臓が爆発しそうな気分になる。
「それで、一個しか残っていなくて――」
「ああ、そうか。ごめん、ちゃんと在庫、見てないとだったね」
「いいえ、そんな、千尋さんは悪くありません。むしろ、楽しみが増えたというか」
「え?」
「俺は、風呂上り派。千尋さんは、湯舟で食べる派。つまり、いまジャンケンで雌雄を決めて勝ったほうがアイスを手にすることが出来るっていうのはどうですか?」
「それなら、きみがお食べ。いつもお仕事ハードだろう?」
にっこりと微笑んだ千尋に、新崎は「うっ」と言葉を濁らせた。
「そ、そういうものじゃないんですよ! 俺は!」
「ええ? ああ、二人で食べたいのかな? コンビニなら開いているから、ぼくが買いに行ってあげよう」
立ち上がろうとする千尋に新崎は追いすがった。
「待って待って! 行かないで! 俺を置いて行かないで!」
「やだなあ。大袈裟だ」
「違うの! 俺、千尋さんとじゃんけん勝負がしたいんです!」
「へえ? ぼくと戦いたいって?」
「うん、うん、そうなの」
新崎は、こくこくと首を縦に何度も振った。せっかく顔がよく生まれてきても、これではイケメンが台無しである。それでも、千尋は愛らしいものを見つめる目で微笑みかえした。
「いいよ。でも、勝負となれば手はぬけない。真剣勝負だ」
千尋は、読書用の眼鏡をはずした。
3
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
初夢はサンタクロース
阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。
「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」
顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け
俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!!
※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。
起き上がらせて
阿沙🌷
BL
俳優をやっている新崎迅人の悩みはかっこいいと可愛いが同時に存在している年上の恋人、千尋崇彦に対してヘタレてしまうことだった。今夜は彼の部屋で入浴している千尋を待っている。だが湯上りの千尋を見て動揺してしまった新崎は――。
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
学校の脇の図書館
理科準備室
BL
図書係で本の好きな男の子の「ぼく」が授業中、学級文庫の本を貸し出している最中にうんこがしたくなります。でも学校でうんこするとからかわれるのが怖くて必死に我慢します。それで何とか終わりの会までは我慢できましたが、もう家までは我慢できそうもありません。そこで思いついたのは学校脇にある市立図書館でうんこすることでした。でも、学校と違って市立図書館には中高生のおにいさん・おねえさんやおじいさんなどいろいろな人が・・・・。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる