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#うちの子おやつ争奪戦 最後には甘く溶ける

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「ねえ、千尋ちひろさん」
 シャワーを浴びたあと、濡れた髪をタオルで拭いながら新進気鋭のイケメンである俳優新崎にいざき迅人はやとは、リビングでくつろいでいる千尋崇彦たかひこに声をかけた。
「どうしたの?」
 独唱用の眼鏡をかけた彼は、読み進めている最中の本から、目を離さない。新崎は、すこしむっとして、彼に急接近した。耳元でささやく。
「たまには、おやつをかけてジャンケンしませんか?」
「え?」
 千尋が、驚いて顔を上げた。すぐ鼻の先に、新崎の顔があり、千尋は、とっさに後ろに下がろうとしたが、椅子には背もたれがある。そこから先に背中を移動させることはできない。
 新崎はにやりと微笑んだ。
「さっき、風呂入る前に、冷凍庫の中にアイス入っているか、見て来たんです」
「え、ええ、ああ、そうか」
 どきまぎしながら、千尋は答えた。既に何度も互いの身体を確認している関係であるはずなのに、彼は風呂上りの新崎から視線をそらそうと必死だ。どこを見ていいのか、わからずに、目玉がきょろきょろしている。そんな彼が可愛らしくて、新崎は今にも内臓が爆発しそうな気分になる。
「それで、一個しか残っていなくて――」
「ああ、そうか。ごめん、ちゃんと在庫、見てないとだったね」
「いいえ、そんな、千尋さんは悪くありません。むしろ、楽しみが増えたというか」
「え?」
「俺は、風呂上り派。千尋さんは、湯舟で食べる派。つまり、いまジャンケンで雌雄を決めて勝ったほうがアイスを手にすることが出来るっていうのはどうですか?」
「それなら、きみがお食べ。いつもお仕事ハードだろう?」
 にっこりと微笑んだ千尋に、新崎は「うっ」と言葉を濁らせた。
「そ、そういうものじゃないんですよ! 俺は!」
「ええ? ああ、二人で食べたいのかな? コンビニなら開いているから、ぼくが買いに行ってあげよう」
 立ち上がろうとする千尋に新崎は追いすがった。
「待って待って! 行かないで! 俺を置いて行かないで!」
「やだなあ。大袈裟だ」
「違うの! 俺、千尋さんとじゃんけん勝負がしたいんです!」
「へえ? ぼくと戦いたいって?」
「うん、うん、そうなの」
 新崎は、こくこくと首を縦に何度も振った。せっかく顔がよく生まれてきても、これではイケメンが台無しである。それでも、千尋は愛らしいものを見つめる目で微笑みかえした。
「いいよ。でも、勝負となれば手はぬけない。真剣勝負だ」
 千尋は、読書用の眼鏡をはずした。

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