12 / 34
✿首元のルージュ
✿3.
しおりを挟む
✿
「今日は何かありましたか?」
二人の男が寝転がるにはやはり狭いベッドの中。ぎゅっと抱きしめながら、その細い身体に問う。
「え?」
千尋が新崎を見上げた。
「いや、なんかこう、今日は……」
と、いいかけて、男の顔が赤くなったのを見て、千尋は面白いと思った。自然に口元が緩んでしまう。この男、たしかに若いといえば若いというのだが、一向に慣れないところがどこかあどけなく、同時に可愛いのだ。自分など彼を相手にするようになって男の体にだんだんと馴染んできてしまったというのに。
それに一向に自分の体につけられた痕に対して、まったく気が付かないこの男の鈍感さには――。
「どうしたの、千尋さん?」
考え事の内容まではばれてはいないと思うが、新崎は腕の中で千尋がどこか沈んだのに気が付いて、じっと見つめてくる。
「いや、いい。別に」
と、いいつつも、やはり、むっとくるのだ。
どうせ、このばか、もはや女を抱けないのはわかっている。それこそ男であっても自分以外はきっとだめなのだろう。だから、別に、気にすることではないと思う。
どうせついたのは撮影のせいで――。
「わ、え、何?」
千尋の腕が自身の首元にまで、伸びてきたのに新崎はどきりと心臓を弾ませた。
「やっぱり、シャワー浴びてからすればよかった」
「え?」
「気がついてないのか。幸せなやつ」
「え、ええ?」
こいつ、ばかだ。
千尋はふっと軽く笑った。
「萎えたな」
「はい!?」
「ちょっと起きるから、ほら、手、どけて。重いってば」
「ええーっ」
急に醒めだした千尋に対して、新崎はとまどいながらも素直に体に絡ませていた腕をどける。その間をすりぬけて千尋がベッドからおりたつ。
「何か俺、気にさわることありますか?」
「ありまくりだよ。まったく。どうせ、メイクさんおしのけて撮影終わった瞬間に現場、飛び出してきたんだろう?」
「え?」
千尋の言いたいことがわからぬ新崎はいかにも「チンプンカンプン」といった表情で目を丸くしている。
「まったく。ほら、おいで」
千尋が腕を差し出して来た。
「シャワーでも浴びて……って、きみの家の浴室、狭いんだったなあ」
よくわからないけど嫌われてはいない。
新崎は、千尋を追いかけて、浴室の鏡でそれを指摘されたとたん、思い切り顔を青ざめた。
(了)
「今日は何かありましたか?」
二人の男が寝転がるにはやはり狭いベッドの中。ぎゅっと抱きしめながら、その細い身体に問う。
「え?」
千尋が新崎を見上げた。
「いや、なんかこう、今日は……」
と、いいかけて、男の顔が赤くなったのを見て、千尋は面白いと思った。自然に口元が緩んでしまう。この男、たしかに若いといえば若いというのだが、一向に慣れないところがどこかあどけなく、同時に可愛いのだ。自分など彼を相手にするようになって男の体にだんだんと馴染んできてしまったというのに。
それに一向に自分の体につけられた痕に対して、まったく気が付かないこの男の鈍感さには――。
「どうしたの、千尋さん?」
考え事の内容まではばれてはいないと思うが、新崎は腕の中で千尋がどこか沈んだのに気が付いて、じっと見つめてくる。
「いや、いい。別に」
と、いいつつも、やはり、むっとくるのだ。
どうせ、このばか、もはや女を抱けないのはわかっている。それこそ男であっても自分以外はきっとだめなのだろう。だから、別に、気にすることではないと思う。
どうせついたのは撮影のせいで――。
「わ、え、何?」
千尋の腕が自身の首元にまで、伸びてきたのに新崎はどきりと心臓を弾ませた。
「やっぱり、シャワー浴びてからすればよかった」
「え?」
「気がついてないのか。幸せなやつ」
「え、ええ?」
こいつ、ばかだ。
千尋はふっと軽く笑った。
「萎えたな」
「はい!?」
「ちょっと起きるから、ほら、手、どけて。重いってば」
「ええーっ」
急に醒めだした千尋に対して、新崎はとまどいながらも素直に体に絡ませていた腕をどける。その間をすりぬけて千尋がベッドからおりたつ。
「何か俺、気にさわることありますか?」
「ありまくりだよ。まったく。どうせ、メイクさんおしのけて撮影終わった瞬間に現場、飛び出してきたんだろう?」
「え?」
千尋の言いたいことがわからぬ新崎はいかにも「チンプンカンプン」といった表情で目を丸くしている。
「まったく。ほら、おいで」
千尋が腕を差し出して来た。
「シャワーでも浴びて……って、きみの家の浴室、狭いんだったなあ」
よくわからないけど嫌われてはいない。
新崎は、千尋を追いかけて、浴室の鏡でそれを指摘されたとたん、思い切り顔を青ざめた。
(了)
3
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
初夢はサンタクロース
阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。
「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」
顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け
俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!!
※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。
起き上がらせて
阿沙🌷
BL
俳優をやっている新崎迅人の悩みはかっこいいと可愛いが同時に存在している年上の恋人、千尋崇彦に対してヘタレてしまうことだった。今夜は彼の部屋で入浴している千尋を待っている。だが湯上りの千尋を見て動揺してしまった新崎は――。
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる