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✿首元のルージュ

✿3.

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「今日は何かありましたか?」
 二人の男が寝転がるにはやはり狭いベッドの中。ぎゅっと抱きしめながら、その細い身体に問う。
「え?」
 千尋が新崎を見上げた。
「いや、なんかこう、今日は……」
 と、いいかけて、男の顔が赤くなったのを見て、千尋は面白いと思った。自然に口元が緩んでしまう。この男、たしかに若いといえば若いというのだが、一向に慣れないところがどこかあどけなく、同時に可愛いのだ。自分など彼を相手にするようになって男の体にだんだんと馴染んできてしまったというのに。
 それに一向に自分の体につけられた痕に対して、まったく気が付かないこの男の鈍感さには――。
「どうしたの、千尋さん?」
 考え事の内容まではばれてはいないと思うが、新崎は腕の中で千尋がどこか沈んだのに気が付いて、じっと見つめてくる。
「いや、いい。別に」
 と、いいつつも、やはり、むっとくるのだ。
 どうせ、このばか、もはや女を抱けないのはわかっている。それこそ男であっても自分以外はきっとだめなのだろう。だから、別に、気にすることではないと思う。
 どうせついたのは撮影のせいで――。
「わ、え、何?」
 千尋の腕が自身の首元にまで、伸びてきたのに新崎はどきりと心臓を弾ませた。
「やっぱり、シャワー浴びてからすればよかった」
「え?」
「気がついてないのか。幸せなやつ」
「え、ええ?」
 こいつ、ばかだ。
 千尋はふっと軽く笑った。
「萎えたな」
「はい!?」
「ちょっと起きるから、ほら、手、どけて。重いってば」
「ええーっ」
 急に醒めだした千尋に対して、新崎はとまどいながらも素直に体に絡ませていた腕をどける。その間をすりぬけて千尋がベッドからおりたつ。
「何か俺、気にさわることありますか?」
「ありまくりだよ。まったく。どうせ、メイクさんおしのけて撮影終わった瞬間に現場、飛び出してきたんだろう?」
「え?」
 千尋の言いたいことがわからぬ新崎はいかにも「チンプンカンプン」といった表情で目を丸くしている。
「まったく。ほら、おいで」
 千尋が腕を差し出して来た。
「シャワーでも浴びて……って、きみの家の浴室、狭いんだったなあ」
 よくわからないけど嫌われてはいない。
 新崎は、千尋を追いかけて、浴室の鏡でそれを指摘されたとたん、思い切り顔を青ざめた。

(了)

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