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「ねえ、新崎くん」
「は、はいっ!」
「和歌山ラーメン」につられてはいった飲食店にて、料理が出来るまでの間、ぼーっとしていた新崎に、新田が話しかけた。
「どうしたの? なんか、こころここにあらずでしょ」
「え、あ、う、うん?」
「何か心配事? わたし、新崎くんには、一度救われているから、わたしじゃ頼りないかもしれないけれど、相談、のるよ?」
「え、いや、そんなことは……!?」
新崎と新田は、ふたりでランチをしているところを写真に撮られている。そのことがきっかけで、仕事の際にギスギスしていしまい、撮影がストップになりかけたことがあるのだ。ふたりが元にもどれたのは、燃え上がるかと思えた写真の炎が簡単に消えてくれたことと、千尋に慰められて力強くなった新崎の演技が新田の演技を引き出したからなのだが――。
「そうなの? でも、なんかさみしそうだし」
「俺が!? ですか!?」
「うん」
うなづいた新田に、タイミングよく料理ができたらしい。
「はいよ。中華そば、おまちどうさま!」
店員が、テーブルに座っているふたりに、あつあつの器を出した。
「わっ! すごい!」
ふたりして、感激の声をあげる。
「あつあつだね! いただきます!」
スープは豚骨醤油。れんげで少しすくって唇へともっていけば、ぎゅうーとおいしさが詰まった液体が口の中を潤していく。
「美味しい!」
「あはは。新崎くん、食いつきいいねえ」
「わー、らーめん、久しぶりだし、さすが和歌山って感じで!」
「わたしも。体形のこととかあるから、あまりらーめん食べない。今日は最高!」
そうか。新崎はちらりと、新田を見た。あの抜群のプロポーション、人に見られるための「商品」として磨かれた容姿は、彼女の生活のなかの努力が作っているのか。
「すごいなあ」
新崎は思わずつぶやいた。
「え?」
「いや、新田さん、すごいです」
「それをいうなら、新崎くんだって」
「いや、俺は、食事とかあまり気にしたことがない……ですし。昔、太っていて痩せてやると思ってたときは、必死でしたが」
「太ってたの?」
「はい、デブでした」
「へぇ~」
「だから、太る自信はあります。恰幅のいい役柄を貰えたら、一ヶ月で、太ってみせるっていう自信だけは」
新田はガッツポーズをとる新崎に笑った。
「でも、今は、食事気にしなくても、太らない生活してるんでしょ」
「――というか、その」
千尋の家に通うようになって、気が付いたら、食事はほとんど千尋に任せっぱなしになっていたのだ。
「その、えっと、その……」
しどろもどろになる新崎に、新田がずばり言った。
「彼女?」
「えっ!? えっ!?」
「あ、図星? わー、そうなんだー、へえー」
「ちちちちちち違いますよ!!」
千尋さんは男性で――と言いそうになった、己の口を慌てて新崎は押さえつけた。
「わー、ほら、その反応、絶対、そうなんですよね!? わっかりやすーい!」
「違いますって~! ただ世界で一番かわいいひとが、ご飯を作ってくれてるだけです」
「ほら! その世界一かわいいひとが彼女なんじゃない!?」
「ううっ!」
彼女では、決して、ないのだが。
もしふたりの関係がばれて、傷を受けるのは、両方――。新崎の場合は、もしかしたら仕事に影響を受けるかもしれない。新崎は自身の容姿がいいことからアイドル俳優的な立ち位置にいるからだ。しかし、それ以上に、千尋へと及ぶ影響のほうが怖い。彼が傷つくことのほうが怖い。
「本当は堂々としていたいんですが、新田さん」
「ん? 認める気になった?」
「ねえ、新崎くん」
「は、はいっ!」
「和歌山ラーメン」につられてはいった飲食店にて、料理が出来るまでの間、ぼーっとしていた新崎に、新田が話しかけた。
「どうしたの? なんか、こころここにあらずでしょ」
「え、あ、う、うん?」
「何か心配事? わたし、新崎くんには、一度救われているから、わたしじゃ頼りないかもしれないけれど、相談、のるよ?」
「え、いや、そんなことは……!?」
新崎と新田は、ふたりでランチをしているところを写真に撮られている。そのことがきっかけで、仕事の際にギスギスしていしまい、撮影がストップになりかけたことがあるのだ。ふたりが元にもどれたのは、燃え上がるかと思えた写真の炎が簡単に消えてくれたことと、千尋に慰められて力強くなった新崎の演技が新田の演技を引き出したからなのだが――。
「そうなの? でも、なんかさみしそうだし」
「俺が!? ですか!?」
「うん」
うなづいた新田に、タイミングよく料理ができたらしい。
「はいよ。中華そば、おまちどうさま!」
店員が、テーブルに座っているふたりに、あつあつの器を出した。
「わっ! すごい!」
ふたりして、感激の声をあげる。
「あつあつだね! いただきます!」
スープは豚骨醤油。れんげで少しすくって唇へともっていけば、ぎゅうーとおいしさが詰まった液体が口の中を潤していく。
「美味しい!」
「あはは。新崎くん、食いつきいいねえ」
「わー、らーめん、久しぶりだし、さすが和歌山って感じで!」
「わたしも。体形のこととかあるから、あまりらーめん食べない。今日は最高!」
そうか。新崎はちらりと、新田を見た。あの抜群のプロポーション、人に見られるための「商品」として磨かれた容姿は、彼女の生活のなかの努力が作っているのか。
「すごいなあ」
新崎は思わずつぶやいた。
「え?」
「いや、新田さん、すごいです」
「それをいうなら、新崎くんだって」
「いや、俺は、食事とかあまり気にしたことがない……ですし。昔、太っていて痩せてやると思ってたときは、必死でしたが」
「太ってたの?」
「はい、デブでした」
「へぇ~」
「だから、太る自信はあります。恰幅のいい役柄を貰えたら、一ヶ月で、太ってみせるっていう自信だけは」
新田はガッツポーズをとる新崎に笑った。
「でも、今は、食事気にしなくても、太らない生活してるんでしょ」
「――というか、その」
千尋の家に通うようになって、気が付いたら、食事はほとんど千尋に任せっぱなしになっていたのだ。
「その、えっと、その……」
しどろもどろになる新崎に、新田がずばり言った。
「彼女?」
「えっ!? えっ!?」
「あ、図星? わー、そうなんだー、へえー」
「ちちちちちち違いますよ!!」
千尋さんは男性で――と言いそうになった、己の口を慌てて新崎は押さえつけた。
「わー、ほら、その反応、絶対、そうなんですよね!? わっかりやすーい!」
「違いますって~! ただ世界で一番かわいいひとが、ご飯を作ってくれてるだけです」
「ほら! その世界一かわいいひとが彼女なんじゃない!?」
「ううっ!」
彼女では、決して、ないのだが。
もしふたりの関係がばれて、傷を受けるのは、両方――。新崎の場合は、もしかしたら仕事に影響を受けるかもしれない。新崎は自身の容姿がいいことからアイドル俳優的な立ち位置にいるからだ。しかし、それ以上に、千尋へと及ぶ影響のほうが怖い。彼が傷つくことのほうが怖い。
「本当は堂々としていたいんですが、新田さん」
「ん? 認める気になった?」
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