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波乱だ大掃除
しおりを挟む大掃除の季節はとっくに過ぎている。
それでも、僕たちが掃除に精を出している理由はただ一つ。――なくしてしまったからだ。大切なものを。
彼の給料三か月ぶんだという指輪だ。気がついたら僕の指は裸一貫。
実家にも帰らず二人で小さいボロアパートに籠って恋人ごっこに明け暮れていたのだから、きっとこの室内にあることだけは確実と思われる。
ただ見渡す限りのゴミの山。食べたままのカップ麺の容器や満タンの灰皿に、脱ぎっぱなしの衣服が散乱している。一体何の大掃除をしていたんでしょう。心かな。
年末年始のお休みムードですっかりボケってしまったらしい脳味噌が訪れた危機に悲鳴を上げて大忙しで掃除――それも指輪探しを兼ねて部屋の整理に取り掛かることになった。
「全く、あんなふうに放り出して置くからいけないんだよ!」
「お前だって、散らかしたい放題、散らかしただろ!」
言い合ったって何も解決しないことは分かっている。それでもなお積る苛立ちの行き場にお互いを選んでしまうのは僕たちの悪癖だ。
「あーあ、泉の女神さまみたいなのが出てきて、貴方のなくした指輪はこの金の指輪ですか? それとも銀の? なんて言ってくれたらなぁ」
「お前、夢見すぎ。それより金のが良かったのかよ」
「いーや。別に。何だって良かったし、今だってなんだっていい」
発言にしまったと思ったが、遅い。指輪を買った張本人が、食い終わったカップ麺の容器で膨らんだゴミ袋を振り回す。
「んだと、このやろー!」
「わ、バカ! ゴミ袋持ったまま、こっちくんなし!」
「食らえー! スーパー生臭さゴミアタック!」
「小学生かよ!」
タックルしてくる彼をうまくかわせたと思ったのだが、二人には狭い四畳半。足元の文庫本に躓いてどんと壁にぶつかった。
「ちょっとお隣さん、うるさいんだけどー!」
どんどんと壁を叩かれながら、隣人の怒りの叫びを聞いて、二人で肩を落とす。
「すみませーん!」
声をあげれば、聞こえたのだろう。隣人が壁を叩く音が止んだ。
「静かにやろうぜ」
彼が僕に小声でささやいた。
「ああ、そうだな」
途端に腹の底から笑いがこみあげてくる。見れば彼も口角をあげて、何かを必死にこらえている。
だが、二人の衝動は抑えを決壊させ、表面に飛び出してくる。
「あははは!」
「ぎゃはははは!」
二人の口からこぼれてくる絶叫は足の踏み場のない小さな世界を満たし、振動させた。
「あらら、もう僕たち何やってるだろうね」
「馬鹿じゃねえの俺ら」
「馬鹿はあんたでしょうが」
「お前だって同罪だろ」
二人して笑いあって、また騒音被害届けのノック音が聞こえてくるまで、あとわずか。
(了)
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