Garlic短編帳

阿沙🌷

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✿エメラルドグリーンの髪飾り

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 人もまばらなオフィス街。昼飯を取るには遅すぎる午後二時。ラージャは職場近くのラーメン屋でぼちぼちと醤油ラーメンをちびっていた。
「よう、新人」
 マティスの声に大げさに肩を震わせたラージャは、恐る恐る声の方向へと振り返った。
「ま……マティスさん」
「どうも。隣、いいか?」
 凶暴だと噂の鬼の先輩がラージャの隣にある空席を顎で指した。ラージャは縮こまりながらも頷く。
「ど、どうぞ」
「あんがと、よっと」
 先輩はとしよりくさい動作で机につくと、豚骨醤油チャーシュー大めと店内のマスターに向けて怒鳴り声、いや大声を上げる。
「どうだ、ちょっとは慣れてきたか?」
「え、ええ」
 仕事の話だろうと、ラージャは頷いた。
「歯切れがわりぃな」
「す、すみません」
 ギロリと睨むように細くなるマティスの瞳。ラージャはどうもこういう人間が苦手だ。
「一応、なんとか、慣れてき……たかなぁと言ったところで。でも朝日がまぶしいのと一夜ぶっとおしの翌日は足腰というか節々が痛いというか」
「お前、エルガーが聞いたら喜びそうなことを言うなぁ」
「えっ」
「あの破廉恥に今の台詞聞かせてやりてぇぜ」
 くっくっと喉元を揺らして、マティスは微笑んだ。
「そういえば、エルガーの女装、見たことあるか?」
「え、エルの……」
 マティスはズボンのポケットから青いスマートフォンを取り出して、画面を操作しだした。
「前にな、事務所に見学に来ていたごっつかわいい子がいたんだと、ほら、見てみ?」
 マティスが画面を見せてくる。
 そこには一枚の画像が表示されていた。
 大きな男たちの着込んだ紺のスーツに囲まれたなかで、静かに凛と咲く小さな花のような可憐な少女だった。白いワンピースからすらりと伸びた色白の手足。きゅっと結ばれた唇からは意思の強さが見て取れる。長い金色の髪をハーフアップにした髪型でエメラルドグリーンの髪飾りが光輝いている。
「これ、誰だと思う?」
 にやりと不気味な笑みを見せながら、マティスが問う。答えはさきほど自身で言っているはずなのに。
「ま、まさか……」
「そ! あんたの相棒。まっさかここまで化けるとは思ってねぇだろ!」
 胸を張るマティス。
 若かりし日のエルガーの面影、その圧倒的美少女っぷりに、ラージャは口を開けた。
 これなら仕方がないのかもしれない。
 エルに敵わないわけだ。

(了)


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