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・屋敷編

Thuー17

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「味気ないお前にこいつは気がのらないようだが?」
 挑発するような藤滝の口調に青年はげんなりした。
「そりゃそうだろう。俺はもともと、こういうのは好きじゃない」
「好きもののような顔をしているが、な……!」
 力まかせにおされ、組み敷かれる。この男の嫌なところは、こういう動作が身に沁みついていることだ。慣れている。そのせいでどうも彼の手のひらの上で転がることしかできない。
「よせって!」
 さっきまでいたしていたせいで身体がまだ火照っている。覚めない熱を呼び起こすように、撫でられて、青年は身をすくませた。
 目の前に、彼がいるのに、この男はどうして手をとめない。むしろ、見せつけようと、躍起になっているようで、青年はないてたまるかと、歯を食いしばった。――だが、何故。
「あいかわらず、手つきが悪いようで」
 朋華は静かに言い放った。
「強引になんでもすればいいというものではありませんよ」
「どこの誰が誰にものを言っている?」
「そうやって、王様気分でいるから、いつまでも……」
 そこまでで朋華は口を閉ざした。いや、閉ざされてしまった。布団の上に組み敷かれている青年にかがみこもうとした矢先、顔を上げた藤滝に唇をうばわれていた。
 憎い相手ながら、藤滝は見目だけは優秀だ。そしてそれはタイプは違えど、上級として名をはせている朋華自身にもあてはまる。
 青年は自分の頭上で行われた一瞬の交接に、冷たい水をあびせられたような衝撃を受けた。美しい男と美しい男の接吻キスには目を見張る異様な迫力がある。
 だがそれ以上に、この男が誰かの唇をついばむことがあったのだと――。
 男の追撃を逃れて、朋華が唇を離した。潤っている唇の赤がやけに鮮明に視界に残る。
「おはやいのはお手だけではありませんでしたか」
 朋華の小言に、藤滝は鼻をならした。
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