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・屋敷編
Thuー05
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――そんなにお前は暇なのかよ?
藤滝の口から発せられる「仕置き」という単語の持つ威力は強い。それは脱走と反抗を何度も繰り返してきた青年の、頭ではなく主に肉体にこの男は覚え込ませるように何度も仕込んできたからだ。
だが、ここで彼の心が折れることはなかった。徴発するようにそう言ってやったら、藤滝は鼻をならして奥へと消えていった。
「……で、さ」
黒服の男が、あくびを噛み殺しながら、言った。
いつの間にか、鈍麻な昼過ぎの空の下、だ。竿に干された洗濯ものが、ぱたぱたと穏やかに風になびいて揺れる。使用人は使用人でもこの男との密談するにはちょうどいい場所といったら、ここ以外にない。
そして洗濯場の空気はいつものように少し湿っぽくて、それなのに、どこかカラッとしていた。
「もしその話が本当なら、俺がせっかくアポとってお前を上級に押し上げる作戦が台無しじゃないか」
さきほどの客が己れを買いたいと申し入れてきたことと藤滝の行動を話したが、使用人としてまぎれこんでいる恐らく藤滝の敵対者は、のんびりと眠たそうなまなこをこすっている。
「ああ、朋華には感謝している」
――と口先でそう告げた。
たしかに、滅多に出会えない指折の上級花との邂逅は、青年の中に何か新しい風をもたらした部分はある。
「今日も部屋開けて待っているっていってたぜ。だが、もうちょっと待たないとな、客が来ているらしい」
「客?」
滝田が渋い顔をした。
「ご主人さまでちゅ」
語尾をふざけたが、彼はいかにも嫌そうな表情だった。
「あいつは口が軽くないから、俺がお前とグルってるのを洩らすことはないと思うけど、さ。もしかしたら藤滝の野郎、あいつ巻き込んでの作戦を勘づいたかなぁなんて少しひやりとしています」
「……俺を上級にするってやつか?」
最初からそれは無理だと思うのだが、青年は口をつぐんだ。豚箱行きを回避するためにこの男もあの上級花も、手をかしてくれたのだ。
「お前は本当に特別だからなあ」
「何がだよ」
「あの藤滝がやけに手を入れている」
「手をやかせているの間違いじゃないのか?」
「いいや。あいつ、お前がからめば、暗としてうごく。そのことは今までのことで……って、ちょ、ちょい待て。今さっき、お前、客に買われるって話してたよな!?」
急に、真剣みを帯びて滝田が青年の首元を掴んだ。
藤滝の口から発せられる「仕置き」という単語の持つ威力は強い。それは脱走と反抗を何度も繰り返してきた青年の、頭ではなく主に肉体にこの男は覚え込ませるように何度も仕込んできたからだ。
だが、ここで彼の心が折れることはなかった。徴発するようにそう言ってやったら、藤滝は鼻をならして奥へと消えていった。
「……で、さ」
黒服の男が、あくびを噛み殺しながら、言った。
いつの間にか、鈍麻な昼過ぎの空の下、だ。竿に干された洗濯ものが、ぱたぱたと穏やかに風になびいて揺れる。使用人は使用人でもこの男との密談するにはちょうどいい場所といったら、ここ以外にない。
そして洗濯場の空気はいつものように少し湿っぽくて、それなのに、どこかカラッとしていた。
「もしその話が本当なら、俺がせっかくアポとってお前を上級に押し上げる作戦が台無しじゃないか」
さきほどの客が己れを買いたいと申し入れてきたことと藤滝の行動を話したが、使用人としてまぎれこんでいる恐らく藤滝の敵対者は、のんびりと眠たそうなまなこをこすっている。
「ああ、朋華には感謝している」
――と口先でそう告げた。
たしかに、滅多に出会えない指折の上級花との邂逅は、青年の中に何か新しい風をもたらした部分はある。
「今日も部屋開けて待っているっていってたぜ。だが、もうちょっと待たないとな、客が来ているらしい」
「客?」
滝田が渋い顔をした。
「ご主人さまでちゅ」
語尾をふざけたが、彼はいかにも嫌そうな表情だった。
「あいつは口が軽くないから、俺がお前とグルってるのを洩らすことはないと思うけど、さ。もしかしたら藤滝の野郎、あいつ巻き込んでの作戦を勘づいたかなぁなんて少しひやりとしています」
「……俺を上級にするってやつか?」
最初からそれは無理だと思うのだが、青年は口をつぐんだ。豚箱行きを回避するためにこの男もあの上級花も、手をかしてくれたのだ。
「お前は本当に特別だからなあ」
「何がだよ」
「あの藤滝がやけに手を入れている」
「手をやかせているの間違いじゃないのか?」
「いいや。あいつ、お前がからめば、暗としてうごく。そのことは今までのことで……って、ちょ、ちょい待て。今さっき、お前、客に買われるって話してたよな!?」
急に、真剣みを帯びて滝田が青年の首元を掴んだ。
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