上 下
268 / 285
・屋敷編

Thuー05

しおりを挟む
 ――そんなにお前藤滝は暇なのかよ?
 藤滝の口から発せられる「仕置き」という単語の持つ威力は強い。それは脱走と反抗を何度も繰り返してきた青年の、ではなく主に肉体・・にこの男は覚え込ませるように何度も仕込んできたからだ。
 だが、ここで彼の心が折れることはなかった。徴発するようにそう言ってやったら、藤滝は鼻をならして奥へと消えていった。

「……で、さ」
 黒服の男が、あくびを噛み殺しながら、言った。
 いつの間にか、鈍麻な昼過ぎの空の下、だ。竿に干された洗濯ものが、ぱたぱたと穏やかに風になびいて揺れる。使用人は使用人でもこの男との密談するにはちょうどいい場所といったら、ここ以外にない。
 そして洗濯場の空気はいつものように少し湿っぽくて、それなのに、どこかカラッとしていた。
「もしその話が本当なら、俺がせっかくアポとってお前を上級に押し上げる作戦が台無しじゃないか」
 さきほどの客がおのれを買いたいと申し入れてきたことと藤滝の行動を話したが、使用人としてまぎれこんでいる恐らく藤滝の敵対者は、のんびりと眠たそうなまなこをこすっている。
「ああ、朋華ともかには感謝している」
 ――と口先でそう告げた。
 たしかに、滅多に出会えない指折の上級花との邂逅は、青年の中に何か新しい風をもたらした部分はある。
「今日も部屋開けて待っているっていってたぜ。だが、もうちょっと待たないとな、客が来ているらしい」
「客?」
 滝田が渋い顔をした。
「ご主人さまでちゅ」
 語尾をふざけたが、彼はいかにも嫌そうな表情だった。
「あいつは口が軽くないから、俺がお前とグルってるのを洩らすことはないと思うけど、さ。もしかしたら藤滝の野郎、あいつ巻き込んでの作戦を勘づいたかなぁなんて少しひやりとしています」
「……俺を上級にするってやつか?」
 最初からそれは無理だと思うのだが、青年は口をつぐんだ。豚箱行きを回避するためにこの男もあの上級花も、手をかしてくれたのだ。
「お前は本当に特別だからなあ」
「何がだよ」
「あの藤滝がやけに手を入れている」
「手をやかせているの間違いじゃないのか?」
「いいや。あいつ、お前がからめば、暗としてうごく。そのことは今までのことで……って、ちょ、ちょい待て。今さっき、お前、客に買われるって話してたよな!?」
 急に、真剣みを帯びて滝田が青年の首元を掴んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...