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・地下室調教編(Day7~)

三日目 3-3

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 冷たい足音が鳴り始めた。最初は小さいものだったが、それはどんどん大きく、だんだん近くなってくる。
 来たな。
 青年は、さっと身構えた。
 この靴音は、あの男のものだ。いつのまにか、彼の歩き方を覚えていた自分に苦笑いする余裕も、いまの青年にはあった。
 扉が開かれて、藤滝が現れたとき、彼はじっと、いつもの冷たい目で、青年を一瞥した。青年も彼を見た。
 視線が交差する。
 そのひとときののち、男はかすかに右眉をひそめた。それを察知した青年だったが、彼がどうしてそう反応したのかまではわからない。
「ご主人さま……これは……」
 隣に控えている使用人はふたりだ。
 彼らは、自分の主人に隠れるように、傍に控えていた。そして、彼にむかって口を開いたが、すぐにその口を閉じた。
「なるほど、奇怪きっかいだな」
 青年は、ぞくりと、背中を震わせた。彼の口調から冷たいものを感じた。だが、彼に浮かんだものは、微笑――笑みだった。
「これは面白いことになったな」
 藤滝は、口元を手でおさえながら、短く、クック……と笑うと、一歩一歩青年へと近づいて来る。
 思わず後ろへと後ずさりする青年だったが、ごつんと、背中に壁が当たった。藤滝が、身を乗り出すように、青年と壁と自身の間に捉えれば、逃げ場はなくなる。
「元気にしていたか?」
 藤滝がそう言った。
 青年は、視線を逸らさずにこたえる。ここで、負けるわけにはいかないと、意地を張った。
「なにいってんだか。昨日もあっただろ? それなのにわすれたのか? 年をくうのもいいが、そろそろボケはじめているんじゃないか?」
 青年の口調に、使用人たちがあわててかけよろうとしたが、それを男自らが制止させた。
「いい。こいつの口の悪さのことは知っているだろう?」
「ですが……」
「俺がいいと云ったらいい」
「ほらな」
 青年は笑った。本当は笑える状況ではないのだが、それでもむりやり口角をあげてみせた。
「いつもとりまきがいなくちゃ何もできないんだろう? 藤滝」
 使用人がいきまいて突進してくる。主人のことをまさか名前で呼ぶなんて、といったところだろう。だが、藤滝が無言でそれを制止した。彼のするどい眼光に、使用人はその場で身体を硬直させた。
「減らず口は相変わらずだな」
 青年にむきなおって、男は言う。
「だがな……」
 青年は、はっとしたが、遅かった。男が青年の顎をつかむと無理矢理、上を向かされる。ものすごい力だ。皮膚に男の手がめりこんだ。
「誰にものを言っているのか。それだけは判るようにならないと、この先、大変だぞ」
「……っ!」
「まあ、そんな脳味噌があったら、お前もこんなことにはなっていないだろうがな」
 冷笑。
 やられた。
 カッと体内で怒りが渦をまく。
 手の上にとられていたのは青年だった。
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