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・地下室調教編(Day7~)

二日目 夜 7

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 なんだったのだろうか――さきほどまでの異様なあの感覚は。
 青年は、そっと、身じろぎをした。
 そして、自分がしてしまっていた行動を思い出して、かっと頬を染める。
 恥ずかしい。
 あんな、あさましい行動を。
 だが、そうでもしなくては、あれは抑えられなかった。
 あきらかに、盛られた。あの男に――だが、その効果をみれば、あの男がほどこすものにしては、やけに――。
 思案しようとしていた青年だったが、ふいにあの男の声が脳裏によみがえってきた。

――「本当に、強情だな……お前は」――

 どこか嬉しげに笑ったあと、あの男が言ったことばだった。 
 
――「だが、ナイフを胸の前に持てばいいというわけではない。そうだろ? 後ろ手に隠しもっておくくらいの器用さはないと、生きられない」――

 あれは――一体どういう意味だったのだろうか。
 それを言われた当時は、自分のことでせいいっぱいでそれどころではなかった。だが、あきらかに、彼のことばは何か示唆的だ。
「……藤滝」
 青年の唇が男の名をつむいだ。
 名前と顔と、そしてその凶暴な肉体しかしらない男。彼がどこから来て、どのように生きてきたのかさえ、わからない。
「ナイフ……後ろ手……なんとなくだけど……」
 なんとなくだけれど、これは、彼が脱走をくわだてる青年の思いを真っ向から否定しようとしているものではないという感じを受ける。
 だが、一体、なぜ? 彼の立場からしたら、屋敷がとりこんだスレイブたちは、みな屋敷と主人に都合のいいように、調教してやりたいというものではないのか?
「ああ、いや、よそう。これは……だけど……」
 青年は彼のことばからある「意味」を見出した。それは実行してみるに価値はないわけではない、一種の作戦だった。
「いや、まあ、うん。それもあるが……」
 二日目に出会った使用人のこともある。
 滝田。
 たしか、彼はそう名乗っていたはずだ。
 もしかしたら、味方となるのだろうか。いや、たとえ味方にならなくても、彼からなら、有益なものを引き出せるかもしれない。
 正体は謎だ。それがどう転ぶのかも。
 だけど――。
 真っ暗闇のなかにいても、青年の心は、まだ、闇彩に染まっていなかった。


三日目に続く
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