77 / 285
・Day5/chapter2 間奏
63.
しおりを挟む
✿
「なあ、最近、おかしいよな」
「何が?」
声を潜めて、話かけてきた男に向かって彼は問い返した。
屋敷のなかでも、ここはずいぶんと奥のほうに位置している。なにしろ、彼ら二人が立つ廊下の向こう側、中庭に面している一帯は、屋敷の主たる藤滝美苑のプライヴェートな空間でもあるのだ。
そんな場所に出入りしている彼らは、この屋敷ではお馴染みの黒い衣装に身をつつんだ使用人という立場のものだった。それも、この場所への出入りが許されているぶん、使用人たちのなかでも、かなり藤滝に気に入られている者たちである。
「何がって……あの方のことだよ」
その口調はどこか重く、苦々しい。というのも、彼らは話題にその人を置くことに対して、かなり気を遣う。さきほど、その部屋から彼が出ていったのを確認しているふたりだったが、長年染まり切った彼への絶対忠誠の精神と骨の髄にまで沁みついた畏怖の感情から、誰かに聞かれてはしなかと、緊張しているのだ。
「どうも、なにか様子がお変わりになれたような気がしてだな」
「おい、俺たちがどうこう言う話じゃないぜ。けど、まあ。確かに、それは……」
そう感じないわけではない。
主、藤滝のことだ。
「最近っていったて、ここ数日のことじゃないか。それに変化っていっても、特になにかが変わられたわけじゃない。普段通りに執務をなされているし、本家にだって定期的にお顔をだされている」
「そういえば、ご当主さまが」
藤滝美岳。現在八十を過ぎるブラックマーケットの王とまでいわれた藤滝家の現当主である。昨年から体調をよく崩すようになり、それまで屋敷に閉じこもっていたような美苑も本家を助けるために、よく顔を出すようになったのだ。
「ああ、そうだな。ご体調が優れないという噂は耳にする。だけど、もし、ご当主さまに何かがあられたら、藤滝家の次の当主は、きっと、やっぱり――」
美苑しかいない、だろう。
黒服の男たちは互いの顔を見合って、ため息をついた。
今現在、藤滝家には三人の息子があり、彼らの主人だけが藤滝の跡取り候補ではないことを知っている。けれど、その長男には問題があり、また三男は若すぎる。したがって、次期当主として祭り上げられるようになるのは、次男である美苑しかいないだろう。
だが、もし美苑が、当主の座に就くことになってしまったら――きっといままでのようにこの屋敷はどうなる? 美苑あっての妖しい光を放つ闇の花園なのだ、この屋敷は――。
「なあ、最近、おかしいよな」
「何が?」
声を潜めて、話かけてきた男に向かって彼は問い返した。
屋敷のなかでも、ここはずいぶんと奥のほうに位置している。なにしろ、彼ら二人が立つ廊下の向こう側、中庭に面している一帯は、屋敷の主たる藤滝美苑のプライヴェートな空間でもあるのだ。
そんな場所に出入りしている彼らは、この屋敷ではお馴染みの黒い衣装に身をつつんだ使用人という立場のものだった。それも、この場所への出入りが許されているぶん、使用人たちのなかでも、かなり藤滝に気に入られている者たちである。
「何がって……あの方のことだよ」
その口調はどこか重く、苦々しい。というのも、彼らは話題にその人を置くことに対して、かなり気を遣う。さきほど、その部屋から彼が出ていったのを確認しているふたりだったが、長年染まり切った彼への絶対忠誠の精神と骨の髄にまで沁みついた畏怖の感情から、誰かに聞かれてはしなかと、緊張しているのだ。
「どうも、なにか様子がお変わりになれたような気がしてだな」
「おい、俺たちがどうこう言う話じゃないぜ。けど、まあ。確かに、それは……」
そう感じないわけではない。
主、藤滝のことだ。
「最近っていったて、ここ数日のことじゃないか。それに変化っていっても、特になにかが変わられたわけじゃない。普段通りに執務をなされているし、本家にだって定期的にお顔をだされている」
「そういえば、ご当主さまが」
藤滝美岳。現在八十を過ぎるブラックマーケットの王とまでいわれた藤滝家の現当主である。昨年から体調をよく崩すようになり、それまで屋敷に閉じこもっていたような美苑も本家を助けるために、よく顔を出すようになったのだ。
「ああ、そうだな。ご体調が優れないという噂は耳にする。だけど、もし、ご当主さまに何かがあられたら、藤滝家の次の当主は、きっと、やっぱり――」
美苑しかいない、だろう。
黒服の男たちは互いの顔を見合って、ため息をついた。
今現在、藤滝家には三人の息子があり、彼らの主人だけが藤滝の跡取り候補ではないことを知っている。けれど、その長男には問題があり、また三男は若すぎる。したがって、次期当主として祭り上げられるようになるのは、次男である美苑しかいないだろう。
だが、もし美苑が、当主の座に就くことになってしまったら――きっといままでのようにこの屋敷はどうなる? 美苑あっての妖しい光を放つ闇の花園なのだ、この屋敷は――。
21
お気に入りに追加
669
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる