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・before 回想編 “Day0”

0-10.

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 こんな屈辱――。
 既に前歯が当たり血を流している彼の下唇に、前歯がめり込み、たらりと顎まで赤い糸が垂れる。
「引き抜け」
 男が使用人に言い放った。そのことばは青年に決着を言い渡したのと同義であった。
「うっ、は、あ、アアアアアアッ……!!」
 ビクンと激しく脈打つように彼はそのしなやかな胴体をのけぞらせた。勢いよく引き抜かれたポンプの先のホース。その衝撃に耐えきれなかったからだ。清水せいすいに侵された彼の秘後からは、勢いよく汚れに濁った液体が、ぷびぃと嫌な音を立てて放出されて、青年のひくつく太腿を穢してゆきながら、重力に従って流れ落ちていった。 その飛沫しぶき四方八方あちこちに飛び回り、小さな点のシミをつけていく。
「はぁ、あ、ああ……」
 放出の瞬間、無理矢理に中身が引き出されるような違和感と、今まで腹がはちきれそうになるまでためられたものが一斉に消えていった解放感、それらがもたらした圧倒的な官能の悦。それは自らの痴態を周囲に見せびらかしてしまった自虐的なものをも含んでおり、青年は一瞬の放出の際、頭を白くさせ、放出後には放心したかのような愉悦の表情をそのかんばせに浮かべた。
 はちきれたように両目から涙がつぅーっと線を描くように流れ出して、汚水の後を追うかのように下へと零れ落ちる。それは盛大に飛び散って周囲を汚した汚水とは別に素直で従順に足元の桶の中へと、静かに落ちた。
 青年の唇は半ば開いて、そのわずかな隙間から、自身の放った臭気に侵された空間の濁った空気を吸う。代わりに放出される微かな彼の吐息は、甘い発情の香りがした。
 その青年の恍惚たる反応に、藤滝は一瞬、驚いたように目を見開いたが、その両の眼球の奥に陰りない熱い熱を孕ませて彼を見やった。いや、目が離せなくなった。まばたきすら忘れるような、息を飲んで。それは男だけではなかった。
 その場にいて、青年のウチに隠された嗜虐の淫熱熟れるような官能を察知したものは、少なからず全員がこのわずか刹那に彼のトリコとなった。
 けれど彼は気が付かない。囚われているはずの青年がたった一瞬でも、自分を捕えている男たちを囚われの身に落としたということに。
 そのひととき、誰も青年に触れるものはいなかった。ただ触れることすらできずにその媚肉へと視線を注ぎ、眺めることすらできない高尚なものに触れたかのような熱く胸を撃たれた息苦しさに彼らは襲われた。
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