15 / 24
#一次創作BL版深夜の真剣60分/120分一本勝負
閉じ込めて氷の粒
しおりを挟むすっかり身長が追い抜かされていた。
荒川は時の流れを感じて、ほうとため息をつくしかなかった。
小さい頃、近くに住んでいた中学生が大人になって返って来たのだ。
「中二の時に引っ越してからずっとここに戻ってくるのが夢だったんです。俺ひとりの秘密の夢」
笑顔で語る彼の声は男らしく随分と野太くなった。
「へえ、それでご挨拶に? あ、どうぞあがって」
玄関口だった。慌てて荒川は、彼を居間にあげた。
「ありがとうございます」
お茶を出せば気持ちのいい感謝のひとことが帰ってくる。ああ、そういえばこの子はこういう子だった。よく荒川の家の裏で他の子供たちと遊びまわっていた。挨拶すれば誰よりも素直に返してくれた。
「お茶菓子ももらっていいんですか?」
お茶と一緒に出したスイートポテト。
「どうぞご自由に」
「やった」
チョイスが子供すぎただろうか。一瞬、悩んだが、嬉しそうに笑う彼を見て、これで良かったと思った。
「懐かしいなぁ」
「へ」
「いつだっけ、君を家にあげて、こうやってお菓子一緒に食べたこと、あったよね」
「ええ、一番最初に荒川さん家あがったのは、野球していてボールがすっとんでいって」
「そうそう、豪快に割ったよね。ぼくん家のガラス」
「あー、あの時はすみませんでした」
「あはは、いいって、いいって」
昔話に花は咲く。咲きっぱなしだ。満開。
「あ、それじゃ、もうそろそろ……」
時計をみて、荒川もはっと息を飲んだ。
「ごめんね、随分、長い時間、話し込んでしまった」
「いえ、こちらこそ、荒川さんの時間をいっぱい奪ってしまった」
「何言ってんの。年とって、時間なんていっぱいあるんだから」
ふはは、と笑いあっていると、窓の外にふらりと白いものが現れ始めた。
「あ、雪! 降ってきたな!!」
ふわり、ふわりと空の落し物。
「積る前に帰らなくちゃだよね」
荒川は慌てて、青年を玄関まで送った。
「それじゃあ」
「うん、それじゃあね」
ガラガラと閉じていく扉の前。
ああ、もっと早く雪が降ってくれたら。
どっと雪が積もったら。
このまま帰らなくても良かったかもしれないのに。
「雪、おっそい」
青年は小さくつぶやいた。
2020.01.18 制作時間 一時間
お題「雪」「秘密の夢」「お好きにどうぞ」
お題は第347回一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負さまより
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる