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.オフの日のふたり――不安など隣にいれば

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――よりちゃん、今年、二十歳になるって。――

 母親から連絡があった。
 スマホ画面を眺めていた新崎にいざき迅人はやとは、ため息をついた。
「どうしたの?」
 彼のしずみ込んでいるソファまで、ブルーライトカット眼鏡をかけた千尋ちひろ崇彦たかひこが、ゆっくりと近寄りながら話しかけた。
「仕事のこと?」
 彼が色のついた眼鏡をはずす。そこから千尋の顔がのぞくのが嬉しい。新崎はついにやけてしまった。
「あ、やっぱり仕事だったんだね」
 新崎の笑みを出演依頼だと捉えて、千尋の顔色も弾んだ。慌てて新崎は首を振る。
「ううん、いえ、違います。実家から」
「え? 親御さんから? ああ、そうだったね、新年の御挨拶どころじゃなかったからね」
「と、いうか、その……うーん、やっぱりいいです、秘密」
「へ?」
「ほら、一つ二つくらい秘密があったほうが、ミステリアスでいいでしょう? 俺に惚れてもらうために」
「いや、何言ってんのさ」
 千尋がふふっと笑みをこぼした。
「ぼくが知らないこと、既に山ほどあるじゃないか。これ以上、不思議をつくられても困るよ、不思議ちゃんなんだから」
「え、千尋さんにとって、俺って、不思議ちゃんだったんですか!?」
「……まあ、いや、うん」
 ミステリアスな意味での不思議ちゃんではない。天然ボケの入った不思議ちゃんである。だが、このことばのニュアンスを明確にしてはならないな、と千尋はことばを濁した。
「え? え? え? ホント!? 大丈夫ですか? 俺、ちゃんと、千尋さんの目の前で魅力的な男に映っています?」
「そりゃあ、まあ……」
 魅力的といえば魅力的だが、どちらかというと仔犬のような無邪気な魅力、なのだが。これも、彼にはばれないようにしておきたい。千尋は苦笑いした。
「おっしゃ! なんだか、元気出ました!」
「そう? きみはいつも元気だねえ」
「そりゃ、千尋さんがいるからです!」
「はい、ストップ。そういうのは、本当の元気とはいいません。ちゃんと、自分に無理しないようにね」
 無理、しないように。そう彼は言った。
 自分でもそう言い聞かせているが、このひと相手だと、無理をしても、無茶をしても、彼の隣にいたいとさえ思う。
 それをこうやって注意されているのだ。新崎は苦笑した。
「なんか、もう俺、千尋さんなしじゃ生きていけないですね」
「はは、そりゃそうでしょう。もうわかっています」


 あんた、最近どうなの? 仕事柄、そういうことにあまり手を出せないかもしれないけど、あんただってそろそろいい年になってきているじゃない。そろそろ、いいひとを見つけたほうがいいんじゃないの?

 母親からの連絡から滲んできているのは、親心といえばまだマシだが、そういう話なのだ。
 それをこのひとに伝えたら、彼はどういう顔をするだろうか。
 新崎は笑った。そんなこと言えない。もうこのひとをここにとどめておくことだけで、頭がいっぱいなのに。
「俺、やっぱり、千尋さんなしじゃ無理なので、これからもよろしくお願いしますね」
 千尋が、変な顔をして笑いながらこたえた。
「何を今更」
 やっぱりいい。これがいい。
 このひとを隣におけるようになるためなら、自分は全力を尽くせる。そういう自分が大好きだ。
 周りのひとにも納得してもらうために、今は、ただ前を向いてられる。それにそういう自分が自分でも大好きでいられる。
「ねえ、千尋さんが二十歳のころってどんな感じだったんですか?」
「へ? いや、急に唐突だね……あっ」
 千尋は何かを思い出したらしい。
「ああ、そうか、今年も、そういう時期か」
 急ににやにやしだした千尋にどきまぎする。
「な、なんなんですか? 千尋さん」
「いや、新崎くんのスーツ姿みてみたいなあと思って」
「いいですよ。いつでも見せます。それより俺は千尋さんが袴着ているのが見てみたいな」
「いや、なんでぼくの袴!?」
「……可愛いかな、と思って」
「いや、そもそも似合わないし。それにこんな歳いっちゃってるひとにそれはないよ……」
 そんなこと、ないと思いますよ。
 そう言い返して、新崎は笑う。このひと、やっぱり最高に可愛い。(了)


✿初出 一次創作BL深夜の真剣一本勝負さんより「袴」「二十歳」2023.01.07
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✿俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)
攻め:新崎迅人 若手俳優でぽんこつ × 受け:千尋崇彦 日曜脚本家さん

✿シリーズ一覧>>>1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて

✿掌編>>>白髪ができても / むっとしちゃうの
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