2 / 13
.待てませんから千尋さん――クッパ待ちSS
しおりを挟む
「まったく、困った子だなあ」
台所に立つ千尋崇彦は、背中から抱き着いてきた大きな仔犬――いや、新崎迅人の頭をつつきながら言った。
「邪魔だよ、新崎くん」
「わかってます……わかっていて邪魔しているんですからね」
「悪い子だなあ」
ことことと音を立てる鍋の蓋。中で煮ているのは今日の晩ご飯、いや、ふたり揃っての夜食である。
冷蔵庫のなかに入っていた牛肉を使って、ねこまんま――ならぬ、少し韓国風にアレンジして、クッパ。冷凍しておいたお米を解凍していた電子レンジが音を立てた。
「ほら、新崎くん、離れて」
歳の離れた年下の男の包囲網を抜け出して、千尋はレンジの中から、お米をとりだす。鍋の中にそっとお米を入れている間に、また新崎がひっついてきた。
「べたべたしない。火を使っているんだから、危ないでしょう」
「危ないのは千尋さんですよ。可愛すぎて危ない」
なんという言い分だ。千尋は吹き出した。
「変なこと、言わないの」
「変じゃないです。千尋さんは、可愛いです」
「もしかして、酔ってる?」
アルコールの匂いがしないか、千尋は新崎に鼻を寄せた。だが、何かを勘違いした新崎に顎を掴まれて引き寄せられる。
「ん……っ、ちょ、ちょっと!」
触れるだけのキスだったが、新崎の唇が千尋の唇に触れた。このままエスカレートさせるわけにはいかない。強めに手で彼の胸板を押せば、新崎がそっと千尋を離してくれる。
「危ないでしょう!」
「ええ、危ないですね。くらっと千尋さんに堕ちてしまいそうだ」
「だから、そういうのじゃなくて!」
「あ、卵ですね。俺、割ります」
すっと、新崎が近くのボウルに生卵を割り始めた。
「あ、すみません、殻、入っちゃった。ちょっと待っててくださいね。取りますから」
菜箸をぶっきらぼうに使いながら、混入してしまった白い殻を取り除き始める。
「いいよ。ぼくがやるから。新崎くんは鍋、見ていて」
「え、でも……」
「いいから。ぼくじゃなくて、鍋を見ているんだよ」
「……よそ見しちゃうかも」
千尋は、ばしっと新崎の足を蹴った。
「もう、夜中だからってデレデレしない! これ食べたら、ちゃんと寝るんだからね! 明日もお仕事、早いんでしょうが!」
「はぁい」
クッパが出来上がるまでの間、隣に要られちゃ、千尋さんのこと、待てませんけどね。新崎が、苦し気に笑った。(了)
✿ツイッターで「クパァ待ち」というパワーワードがトレンドに入っていたので、その衝撃から「おっしゃあ、うちの新崎千尋のクッパ待ちでも食わせたるがなぁ!!」という謎テンションで書き殴ったSSです。一体、どうしてしまったのでしょう……いや、もう。2023.02.24
台所に立つ千尋崇彦は、背中から抱き着いてきた大きな仔犬――いや、新崎迅人の頭をつつきながら言った。
「邪魔だよ、新崎くん」
「わかってます……わかっていて邪魔しているんですからね」
「悪い子だなあ」
ことことと音を立てる鍋の蓋。中で煮ているのは今日の晩ご飯、いや、ふたり揃っての夜食である。
冷蔵庫のなかに入っていた牛肉を使って、ねこまんま――ならぬ、少し韓国風にアレンジして、クッパ。冷凍しておいたお米を解凍していた電子レンジが音を立てた。
「ほら、新崎くん、離れて」
歳の離れた年下の男の包囲網を抜け出して、千尋はレンジの中から、お米をとりだす。鍋の中にそっとお米を入れている間に、また新崎がひっついてきた。
「べたべたしない。火を使っているんだから、危ないでしょう」
「危ないのは千尋さんですよ。可愛すぎて危ない」
なんという言い分だ。千尋は吹き出した。
「変なこと、言わないの」
「変じゃないです。千尋さんは、可愛いです」
「もしかして、酔ってる?」
アルコールの匂いがしないか、千尋は新崎に鼻を寄せた。だが、何かを勘違いした新崎に顎を掴まれて引き寄せられる。
「ん……っ、ちょ、ちょっと!」
触れるだけのキスだったが、新崎の唇が千尋の唇に触れた。このままエスカレートさせるわけにはいかない。強めに手で彼の胸板を押せば、新崎がそっと千尋を離してくれる。
「危ないでしょう!」
「ええ、危ないですね。くらっと千尋さんに堕ちてしまいそうだ」
「だから、そういうのじゃなくて!」
「あ、卵ですね。俺、割ります」
すっと、新崎が近くのボウルに生卵を割り始めた。
「あ、すみません、殻、入っちゃった。ちょっと待っててくださいね。取りますから」
菜箸をぶっきらぼうに使いながら、混入してしまった白い殻を取り除き始める。
「いいよ。ぼくがやるから。新崎くんは鍋、見ていて」
「え、でも……」
「いいから。ぼくじゃなくて、鍋を見ているんだよ」
「……よそ見しちゃうかも」
千尋は、ばしっと新崎の足を蹴った。
「もう、夜中だからってデレデレしない! これ食べたら、ちゃんと寝るんだからね! 明日もお仕事、早いんでしょうが!」
「はぁい」
クッパが出来上がるまでの間、隣に要られちゃ、千尋さんのこと、待てませんけどね。新崎が、苦し気に笑った。(了)
✿ツイッターで「クパァ待ち」というパワーワードがトレンドに入っていたので、その衝撃から「おっしゃあ、うちの新崎千尋のクッパ待ちでも食わせたるがなぁ!!」という謎テンションで書き殴ったSSです。一体、どうしてしまったのでしょう……いや、もう。2023.02.24
0
✿俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)
攻め:新崎迅人 若手俳優でぽんこつ × 受け:千尋崇彦 日曜脚本家さん
✿シリーズ一覧>>>1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
✿掌編>>>白髪ができても / むっとしちゃうの
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
初夢はサンタクロース
阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。
「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」
顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け
俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!!
※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。
イタズラ後輩と堅物上司
凪玖海くみ
BL
堅物で真面目な会社員・真壁尚也は、いつも後輩の市川悠太に振り回されてばかり。
そんな中、ある出来事をきっかけに、二人の距離が少しずつ縮まっていく。
頼ることが苦手な尚也と、彼を支えたいと願う悠太。仕事と日常の中で繰り広げられる軽妙なやり取りの果てに、二人が見つけた関係とは――?
職場で繰り広げられる、不器用で心温まる大人のラブストーリー。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×脚本家SS
阿沙🌷
BL
新進気鋭の今をときめく若手俳優・新崎迅人と、彼の秘密の恋人である日曜脚本家・千尋崇彦。
年上で頼れる存在で目標のようなひとであるのに、めちゃくちゃ千尋が可愛くてぽんこつになってしまう新崎と、年下の明らかにいい男に言い寄られて彼に落とされたのはいいけれど、どこか不安が付きまといつつ、彼が隣にいると安心してしまう千尋のかなーりのんびりした掌編などなど。
やまなし、いみなし、おちもなし。
昔書いたやつだとか、サイトに載せていたもの、ツイッターに流したSS、創作アイディアとか即興小説だとか、ワンライとかごった煮。全部単発ものだし、いっかーという感じのノリで載せています。
このお話のなかで、まじめに大人している大人はいません。みんな、ばぶうぅ。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
チョコレートのお返し、ください。
阿沙🌷
BL
ドラマの撮影で忙しくしている新人俳優・新崎迅人には秘密にしなくてはならない恋人がいる。兼業脚本家の千尋崇彦だ。
彼に会いたくても地方ロケに出てしまいしばらく会えない状況が続く。そんななか、なんと撮影現場に会いたくてしかたがなかった男がやってきて――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる