えっ、コレ、誰得結婚?

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#051 涙の爆弾

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本来ならば俺は、騎馬にて大奥様の馬車の横に付き、護衛…という立場のはずだが。

出立前に大奥様が「詳しい話は道中、追い追い」と仰っていたこともあり、特別に走行中の馬車に同乗させてもらっている。
フオゾーフ領からの他の騎士仲間に対しては、申し訳ない、俺だけゴメンねと頭を下げたのだが、逆にダミアン様同行の謎にみんなも戸惑っており、「後で説明しろよ」と囁かれたりもした。

ずっとずっとダミアン様は王宮から出てこなかった。外部との接触を極力断っていた。
城から馬車で数十分の距離なのに帰宅すらさせてもらえなかった程だ。
たまに神殿に行くなどの用事で出かけるときも、周囲を護衛でガチガチに固めて誰も近寄らせないようにしていたらしいし。
…まあ、「奇跡の子」ならば、国家の宝なのだから当然と言えばそうなのだろう。

けど、ふと思った。
ギノカンデ国王を言い訳に使ってまでの行動制限という事は、ひょっとしてダミアン様ご自身は知らないのか?
ご自分が当代の「奇跡の子」である事。

過去の記録から本人に告げない方が良いとされているとか?

王家のやることは、俺みたいな一介の騎士には色々と謎だ。

しかし。それにしても。
そんなにまでして王城の外には出されないで居たダミアン様が、王都からすら離れて、遠いフオゾーフ辺境伯領に同行するというのだから、尋常ではない。

国王陛下や王太子殿下達が手放しに「行っておいで~」なんて言わないだろう。
おそらく必死に止められたに違いない。
まさか大奥様が?なにがしかの介入を?

そんな疑念は直ぐに晴れた。

「ダミアンが激怒したのよ。あの温厚で優しい子が。
びっくりしたわ。
お城にずっと勤めている者達に聞いても、彼が怒った姿なんて見たことも無かったと言うわ」

あの夜会の後、王族や王宮にお泊まりする一部の親戚が、それぞれおもいおもいのグループに分かれてサロンでくつろいでいたときのことだったらしい。
やはりダミアン様は気になったらしく、大奥様にずっとくっ付いてフオゾーフ辺境伯領での俺のことなどを質問していたらしい。
そこに、王太子殿下が大奥様に挨拶がてら入って来た。
で、すかさずダミアン様が王太子殿下を責めたらしいのだ。

「アストロンからあなたに説明してくれるはずだったと言っていたでしょう?
なぜそれをちゃんとしておいてくれなかったのかと責め立てたのがきっかけ。
アストロンはものすごく軽い調子で『ああ、そうだったかな』なんてとぼけて、やりすごそうとしたものだから。
『何の説明も無しにずっと放置していたってことですよ?その間に、僕は彼に見切りを付けられてしまったじゃないですか』と。
それを聞いてアストロンが『なに?あいつが君に見切りを?なんて身の程知らずなヤツだ!ダミアンを傷つけて悩ませるなんて許しがたい。もういい、別れろ。そいつには罰を…』と言いかけた段階で『いい加減にしてください』と、ダミアンがもう泣きながら怒ったのよ。
バカよね、アストロン。
一瞬欲が出たのよ。これでダミアンとあなたが破局してくれれば、それを慰める体で自分が抱き込めるとでも思ったんでしょうよ。
極力、負の感情を波立たせてはならないとされている「奇跡の子」を“泣かせた”上に“本気で怒らせた”のよ。
そりゃあもう、大慌てよ。
真っ青になってオロオロして謝り倒していたわ。終いには陛下や王妃まで寄ってきて、アストロンの迂闊さを叱責したのよ。
みんなダミアンのご機嫌を立て直すのに必死で。『頼むから泣き止んでくれ。何でもするから』と陛下が頼み込む有様よ。
そのタイミングでね。
『じゃあ、僕がファルシレイア様と一緒にフオゾーフ辺境伯領に行くのを許可してください』と言われたら、ダメと言えなくなってしまったのね。
もちろん直ぐに諾とされた訳ではないわ。グダグダと言い訳というか、なんとか誤魔化そうとしていたけど。
あんまりにも渋り続けたら、泣きながら『アストロン兄さまも陛下も嫌いです!』と言われてしまって…。
名指しの拒絶を引き出してしまったことに、また大慌てで。
最終的には許可せざるを得なくなってしまったのよ。
常に場を乱さないよう、品格ある姿を崩さなかったあの子があんな駄々っ子のような態度をとるなんて。
シュルティ、どうする?あなた、想像以上に愛されてしまっているわよ。
この先のこと、かなり難しくなるのではないかしら」

この先のこと…。
ああ。
俺は一体、この先ダミアン様にどう接するべきなんだろう。
ご本人に望まれて嫁したというのも、あながち間違いではなかった。
他要素がありすぎるけど。
でも、だからといって、何も知らずに初めてイズカインスタイン公爵家に入ったときと同じように、バドとのことを割り切ってダミアン様との婚姻関係を一から始めるという事が、この先できるかと問われれば、答えは“否”だ。

「ダミアン様ご一行は、フオゾーフ辺境伯領にどのくらい滞在される予定なのでしょうか」

「さあ?…おそらく、短くはないでしょうね」

「領都に戻ったら、自分は通常の業務に戻っても構わないのですよね?だいぶ長いこと討伐のシフトに穴を開けてしまったので、直ぐにでも復帰したいのですが」

「そうね。そうしてもらえるとありがたいわ」
苦笑された。
「ダミアンがいるからと、無理に彼に都合を合わせる必要も無くてよ。あなたはあなたの生活を送れば良いわ。
ただ、それでも最低限の誠意はみせてあげて欲しいけれど。
まあ、イズカインスタイン公爵令息の我が領へのご訪問に対しては、我が辺境伯家の者達が客人として丁重に対応します。心配しないで」

大奥様のそのお言葉に、少し肩の荷が下りた。
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